沈黙の15分
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蓮は探偵事務所を訪れていた。昨日、東都線開通記念式典を狙った爆破事件があった。その捜査会議に特別協力として父が呼ばれたのだ。蓮は焼いてきたケーキを蘭に手渡すと、父さんにお疲れ様って言っておいて、と笑顔で手を振ってあとにする。ポアロの前を通りすぎようとしたとき、掃き掃除をしていた成実が首をかしげた。
「あれ、蓮くんお出かけかい?」
「えぇ、阿笠博士のお宅に子供たちがいるみたいなので、せっかくケーキを焼いたので持っていこうかと」
お仕事頑張ってくださいね、とふわりと微笑んで手を振る。その手をパシッとつかんで引き寄せられ、後ろからそっと抱き締められた。蓮は突然の出来事にはた、と目を瞠る。
「……成実さん?どうしました?」
「ねぇ蓮君。もし良かったら、今度北ノ沢村のスノーフェスティバルに行かないか?」
「スノーフェスティバル?」
ことりと小首を傾げる蓮に、成実はニコッと笑みを浮かべる。別に予定は無いですけど…と困惑ぎみな蓮に、たまには二人で出掛けたくてねと茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。
「口説くのは結構ですが、早くお仕事に戻らないと梓さんに怒られますよ」
「ふふっ、つれないな」
つんとそっぽを向きながらすげなく言い放つ蓮。だが、頬が薄紅に染まっているのを見抜いている成実にしてみればそれもただ可愛いだけにすぎなくて。するりと腕をすり抜けて行ってしまう蓮を見送りながら、相変わらず可愛いなぁと独り言ちた。
「こんにちは、皆!」
「蓮お兄さん!」
阿笠邸で、飛び付いてくる歩美たちの頭を撫で、蓮はふわりと微笑んだ。
「皆が頑張ったって聞いたから、ケーキ作ってきたんだけど…食べる?」
「「「やった~~!!」」」
大はしゃぎな子供たちにケーキを渡し、蓮は阿笠たちにニコッと微笑む。お皿お借りするね、なんて言いながら子供たちと一緒にケーキのお皿とフォークなどをとってくる。
「あ、こっちは博士に。カロリー控えめで作ったんだよ。栄養も色々考えて作ってみたんだ**メタボ対策してても大丈夫なケーキだよ。哀ちゃんもどう?」
「えぇ、いただくわ」
お菓子作りが得意な蓮の料理はプロ並だ。箱を開けると、ホールのフルーツタルトと、少し小さめの可愛らしいチーズケーキが入っていた。手の込んだお店で売られていてもおかしくない出来に、子供たちはわぁ~!と目を輝かせる。
「チーズケーキは哀ちゃんと博士にね。皆はフルーツタルトで良い?」
「うん!」
「…大したものね、あの子」
成績優秀、容姿端麗、音楽の才能があり、スポーツ万能で家事全般が大得意。特に料理は独学でいろいろ学んだらしく、プロと並べても遜色はない。おまけに柔道、空手、合気道の達人で、弓道やら拳銃の腕前もなかなかなもの。まさに天に何物も与えられ過ぎた少年だ。
「あれはアイツの努力の成果だ。…努力の天才とはよく言ったもんだよな」
しかも本人は努力だと思っていない。好きなことを学ぶ。学ぶことが好きなのだから。
おいしー♡とケーキを頬張る子供たちに、良かったぁ**なんてふわふわ頬笑む想い人を見て、コナンはふっと頬を緩ませる。見た目は母似のクールな美貌で、高嶺の花というか、冷徹ささえある蓮だが、中身は子供好きで面倒見がよく、くるくるよく表情も変わる可愛らしい少年だ。
蓮は子供たちと談笑していたが、ふと時計を見上げてはたっと目を丸くした。ちょっと長居しすぎてしまった。
「僕そろそろ戻らなきゃ!」
「あ、ちょっ!?」
買い物しなくちゃいけないんだよね…なんて呟きながら、パタパタと帰り支度をして、蓮はまたねと子供たちと手を振り合う。コナンは焦ったように後を追うが、蓮の方が一足早く家を出てしまった。
スノーフェスティバル、一緒に行かないかって誘わなかったの?とあきれ顔の哀に、コナンは苦虫を噛み潰したような顔でうるせぇ、と呟く。デートに誘うのが下手くそなのは今に始まったことじゃない。だが早めに、しかも直接言わないと引く手数多な彼の予定はすぐ埋まってしまう。
(……後で蘭たちにも根回ししとかねーとな…)
流石に蘭たちから言われたら予定が入っていても考えてくれるだろうか、なんて情けないことを考えながら、コナンは一人嘆息した。
北ノ沢ダムと、その下流にある北ノ沢村…。其処で行われているスノーフェスティバルに、蓮と成実は来ていた。
「わぁ…!凄い、綺麗ですねっ」
「喜んでもらえて何よりだよ」
蓮は楽しそうに目を輝かせた。雪で作られた巨大な雪像や、人々の活気、そして何よりも雄大な自然一面が銀世界である光景に、目を奪われる。東京ではどうしてもこんな光景見られない。
「スケートまであるんですね…」
「蓮君はスケート出来るのか?」
「んー…前に何回かやった事があるだけなので、人並みですよ」
やってみましょう!とにこにこ笑顔の蓮は心底楽しそうだ。二人はスケート靴を履いてリンクに立つ。人並みだなんて謙遜していたが、流石ハイスペック高校生。蓮はスケートもお手のものだった。
「流石だな…っわ!?」
「っと…ふふっお手をどうぞ?王子様」
蓮は体制を崩しかけた成実を颯爽と支えると、悪戯っ子のように笑って手を差しのべた。とっさに出された手をつかんでしまい、ぶわっと顔が赤くなる。これだから、この子は本当に…!
こういう不意打ちはやめてくれ…と片手で顔を押さえて息をつくと、蓮はキョトンとした様子で小首を傾げる。成る程、男女問わず人気があるわけだなと一人納得して、成実は肩を落とした。
己の情けなさと思いがけない蓮の男前な一面に、ものの見事に撃沈している成実の手を引いて、蓮は人混みの中を歩いていた。と、出店の立ち並ぶ中、見知った人影に足を止める。
「その前にクイズじゃ!」
「えぇ~~!?」
蓮は博士と子供たちの姿に顔をほころばせた。お祭りをすっかり満喫しているようで何よりだ。成実はそんな蓮とは対照的に、若干困ったように眉根を寄せた。先日の爆破事件の一件もあって、完全に偏見な上失礼きわまりないが、彼らといると厄介事に悉く巻き込まれてしまう気がしてならない。
「パウダースノーの会場に出す屋台に一番ふさわしいメニューはどれかな?」
1番焼きイモ、2番磯辺焼き、3番イカ焼き、4番たこ焼き…
元太は眉根を寄せた。まず、何なんだ?パウダースノーって?光彦はそんな彼に粉雪のことだと説明する。歩美は、粉雪という単語から何かを思い付いたようだ。わかった!!と声を弾ませる。
「4番のたこ焼きでしょ!」
「え?」
「どうして?」
げっと言わんばかりに表情が固まった博士と、不思議そうな顔で首をかしげる園子。その時、後ろから柔らかで甘い、聞き覚えのある声が飛んできた。
「たこ焼きだけ粉を使うからだよ」
関西では粉もんって言うしね!
ばっと皆が声の方を振り替えると、実に楽しそうに頬笑む蓮と何処か疲れたように笑う成実が立っていた。何で成実さんと蓮が一緒にスノーフェスティバルに!?と驚いた様子の蘭と、あらぁ~?お二人さんロマンチックに雪まつりでデートですかぁ?なんてニヤニヤしながら茶化す園子。
「まぁね」
「もう、成実さん。園子も茶化さない」
蓮は成実の胸をぺしっと軽く叩く。牽制するように蓮の手を握ったコナンは、ジロッと成実を睨み上げつつ、先程のクイズの答えについて言及する。
「でも、粉もんだから4番が正解って簡単すぎるんじゃない?もっとヒネリが…」
「…悪かったのぉ、ヒネリが無くて…」
「じゃあ、私からも1問。そのなかで博士に一番ふさわしいメニューはどれ?」
え?と聞き返す博士に、全部ダメ、と哀はしれっと返した。メタボの元だわ!と言う哀に、クイズになってねーし…とコナンは苦笑する。子供たちは博士の分まで食べに行こうと駆け出していった。
「哀ちゃんとコナンくんはどうする?」
「私はパス!」
「僕もちょっと村ん中散歩してくるから…蓮兄ちゃんも行こう!」
「ふふっうん。良いよ**じゃあ成実さん、後で落ち合いましょう」
「仕方ないな。滑るから気を付けて」
心底残念そうな成実に、コナンは内心ザマーミロと舌を出す。大事な大事な幼馴染に、横からちょっかいをかけられてかっさらわれてしまいたくはないから。
「じゃあワシも二人と一緒に…」
「ダメよ!!博士は私とお茶にしましょ!!」
すげなく哀に却下され、くぅ~~~~…と言う博士の情けない声が辺りに響いていた。