銀翼の奇術師
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれれ~?おじさん、あれなんだろう?」
コナンは子供らしい舌足らずな話し方で天井を指差す。実に古典的な手だが、今はこれしかない。何だ?と皆が上を見上げた隙に、コナンは麻酔銃を構えた。
狙いを定めて放った瞬間、大きく機体が揺れ、針は英理の首筋に命中する。げっと言う顔をするコナンと、昨日から誤射しすぎじゃないか?と乾いた笑いを浮かべる蓮。
「ぼ、僕の見間違いみたい!トイレ行ってくる!」
何だ?あいつ…と言う小五郎に、まぁまぁと蓮は微笑む。さて、やってしまったものは仕方ない。ちゃんとやりきってよ…新一。
トイレに駆け込んだコナンは、内心とても焦っていた。しゃーねぇ!初めてだけど…。慌ててダイヤルを合わせ、英理の口調で話始める。
「貴方、もったいぶるのはそのくらいにして!」
「は?」
「っこほん!えへへ…母さんの真似してみようと思ったんだけど裏返っちゃったよ」
蓮は悪戯っ子のように笑った。えー!裏返った声園子にそっくりだったよー!と無邪気に信じる蘭と園子に内心謝る。二人は蓮が声真似なども得意だとわかっているからこそ、素直に信じてしまう。
「もう、この子ったら…でもあなた。そのくらいにして、そろそろ真相を話したら?」
「何?」
コナンは蓮の機転にホッと胸を撫で下ろした。眠りの小五郎が出るほどの事件じゃないわね、私が真相を話しましょうという英理…もといコナンに、蘭たちは驚いたように立ち上がる。
まずは、犯人が樹里さんに毒をもった方法。それは耳抜き。犯人は樹里さんが飛行機に乗ったとき、必ず耳抜きをすることを知っていたのだ。親指と人さし指で鼻をつまんで息をはく、あの方法を。いつも右手でやっていたことも。
「ご存じの方も多いでしょうけど、ダイビングでまず最初に教わるのは、この耳抜き。上級者になると鼻を摘ままなくても出来るようだけど、樹里さんはまだ始めたばかり。十中八九やってたでしょうね」
そうよね?あなた。聞かれた小五郎はぃえ!?とたじろぐが、何でお前が知ってるんだと噛みつく。コナンが動揺するより早く、##NAME1##は僕が教えたんだと声をあげた。
「この耳抜きは、歩美ちゃんがそうだったように、女性が異性の前でするのは少々恥ずかしい行為」
まして、樹里さんは女優で、隣にはあなたがいた…。
「いくら抜け作でも異性は異性」
「ぬ、抜け作ぅ!?」
「父さん、しー」
蓮は静かに、とジェスチャーで伝える。ぐっと言葉につまる小五郎を尻目に、コナンは続けた。だから樹里さんは隠れて耳抜きをするためにトイレへ行った。そして右手の親指と人さし指でチョコレートを摘まんで食べたのだ。いつものように、ココアパウダーがついた指までなめて。
「まさかその癖によって、毒を完全に体の中に入れてしまうとは知らずにね」
もっとも、樹里はその前から毒物に犯されていたようだけど。その言葉に、成実は瞠目した。確かに、樹里の鼻辺りの皮膚は化粧で見えにくくはなっていたが少し爛れているようだった。あれは青酸カリが皮膚に付着しおこる症状。強アルカリ性である青酸カリは肌に付着するとそれだけで害を及ぼすのだ。
「彼女が気分が悪くなったのは肌から吸収された毒のせい」
羽田空港の駐車場に停めた車のなかで、毒物をファンデーションに混ぜて樹里さんの鼻の両側に塗り、樹里さんを死に至らしめた犯人。それは―――
「酒井なつきさん。貴女よ!」
「っっ!!!!」
全員が息をのみ、ばっとなつきに視線を送った。信じられないとばかりに自分を凝視する視線。なつきはあり得ないわ!と楽しそうに笑い始めた。推理としては面白いけど、と笑いが止まらない様子のなつきに、コナンは静かに続ける。
「##NAME1##から聞いたわよ。貴女、ファンデーションを弄ろうとした子供たちを叱ったそうじゃない?毒を仕込んだ殺人を行うその前日に、子供たちがいたずらでもして、万が一にもそれに触れないように釘をさしたんじゃなくって?」
なつきは、ぎりっと唇を噛んだ。一気に顔が険しくなり、ちゃんとした証拠を見せてみなさいよ!!!!と憤慨する。蓮はその表情を見ながら、あと少しか、と独り言ちた。
(あと少し揺さぶりをかけると、落ちる)
コナンはそうね…と静かに返す。樹里の指からファンデーションに混ぜた毒物が検出されれば、それが証拠となるが、樹里が指をなめた時点でその証拠は消えてしまった。でも、証拠は他にもある。毒を混ぜたファンデーションとスポンジ。
賢い彼女はその二つを機内に持ち込んではいないはず。かといって空港内のゴミ箱に捨ててくるのは危険。そう、彼女はその二つを送ったのだ。自宅宛に、郵便で。
「――ッッ!!!!」
まぁ、空港の郵便局に問い合わせて、郵便物を調べればすぐわかること。
「さぁ、教えてくれるかしら?貴女の自宅の住所を」
なつきは力なく項垂れた。あの女は、私の夢を潰したんだとボソリと呟く。彼女には、ハリウッドでメイクとして活躍するという夢があった。
その夢を叶えるためにL.A.のメイク学校に留学して、英会話もマスターした。そして帰国したあとも、樹里のヘアメイクをしながらハリウッドに手紙を送り続けていたのだ。そして1カ月前、ハリウッドの女優が来日したとき、自分のメイクの腕とセンスを認めたエージェントから、一緒に仕事をしないかと声がかかった。
「それをあの女!!裏から手を回して潰したのよ!!!!」
なつきの中の憎しみが爆発した。メイクとしての自分を必要としたのではなく、樹里が見ていたのは便利な付き人としての自分。メイクとしてのプライドはズタズタだった。
(彼女は、オレと同じだ)
成実はついと目を細めた。憎しみに取り憑かれて、憎悪のままに殺めてしまった、過去の自分と。
なつきは顔をおおって膝をついた。メイクとしてのプライドだぁ?と小五郎は眉根を寄せる。それならばメイク道具を凶器として使ったのは何故だ。…そんな彼女に、プライドなんて言葉を使う資格はない。
「私、わたし…っ」
涙を溢れさせるなつきに、阿笠はそっと歩み寄った。
「あんたはまだ若い。罪を償って、また最初からやり直すんじゃ」
優しく諭すその言葉に、なつきは泣きじゃくった。その場には、なんとも言えない重苦しく、実に割りきれないような雰囲気が立ち込めていた。