銀翼の奇術師
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蓮は冷静に写真を撮ると、CAに管制に連絡を入れること、大きめの毛布を持ってきてくれるよう頼む。チョコレートに毒が入っていたのではないかと騒ぐ乗客達に、コナンは大丈夫だよと笑った。もしそのチョコに毒が入っていたならとっくに症状が出ているはずだ。
「あのっ毛布です…!」
「ありがとうございます。」
「は、はい!」
蓮は英理に毛布を手渡した。小五郎と成実の二人がかりで樹里の遺体をシートに座らせ、毛布をかける。チョコレートに毒物が入っていたんだとなおも主張する伴に、矢口はそんな…!と声をあげる。
「私知りません…!このチョコは銀座のいつもの店から買ってきて、ついさっき開けたばかりなんです!ねぇ!?なつきさん!!」
「えっ!?あ、ごめん…私良く見てなかった…」
「なつきさん!!」
英理は細い指を顎に当てた。小五郎が食べて何ともなかったということは、一部のチョコにしか毒は入っていなかったことになる。だとすると、どうやって樹里に毒入りのチョコレートを選ばせたのだろうか?
蓮は思案を巡らせる。樹里はチョコレートを選ぶときにとても迷っていたようだった。いくらマネージャーといえど、チョコレートを食べる順番なんて分かるわけがない。それに、チョコレートに毒を盛るなんて、犯人がみえみえの手段を使うだろうか?そんなの私がやりましたと言わんばかりじゃないか。
(となると、直前に樹里さんが触れたものによって、手についた毒を体の中に…)
樹里はチョコレートを食べるときに指先についたココアパウダーを舌で舐め取っていた。直前に触っていたもの…ペン、肘掛け、あとは耳抜きをしたくらいか…。
「現場を保存するため、皆さん後ろの席に移動してください!念のため前のトイレは使用禁止とします」
小五郎の言葉に、皆はぞろぞろと席を替える。コナンは蓮の隣に腰かけた。今回は哀が成実のとなりに座っている。
(この飛行機に乗ってから、チョコ以外に樹里さんが口にしたものといえば、天子さんに貰ったビタミン剤…)
それにしたって、樹里さんがビタミン剤を欲しがるとは限らない。
「なぁ、蓮。お前はどう思う?」
「そうだな、僕は―――」
「わかったぁ!!!!」
小五郎の大声に、蓮の華奢な肩がびくっと揺れる。物思いに耽っていたために反応に遅れたんだろう。二人は自信満々に立ち上がる小五郎を見つめた。蓮は不安そうな、コナンは本当にあってるのかと半信半疑の呆れたような表情だが。
小五郎は意気揚々と語り始めた。樹里さんはこの飛行機に乗ってから、二種類のものしか口にしていない。その二種類とは、先程問題になったチョコレートと、天子さんのビタミン剤。
「もうお分かりでしょう。この飛行機内で牧 樹里さんを殺害した犯人は――天子さん、貴女です!!!!」
(あっちゃーー…)
蓮は額に手を当ててはー…っと息をついた。天子さんがビタミン剤を渡したのは今から数十分前。青酸カリは速効性の毒物だ。もし天子さんのビタミン剤が毒物なら、もっと早く症状が出ているはずだろう。
とんだ言いがかりだ!動機がない!とけたたましく立ち上がる天子に、なつきはそうかしら、と冷めた声をあげた。
「樹里さんを殺害する動機がない人なんて、この中に居ないんじゃない?」
「な、何言ってるの…あなた…!?」
天子の顔が驚愕に染まる。英理はスッと立ちあがり、小五郎の隣に並ぶと、どう言うことか説明してくださる?と首をかしげた。なつきははい、と一つ返事をするとすくっとその場に立ち上がる。
「樹里さんと一緒にいる時間が長かったので、彼女をめぐる人間関係は一番良くわかっているつもりです。まず、伴さん」
彼は今度の劇の演出かもかねていたが、実際の演出はほとんど座長の樹里が行っていた。元々、樹里を女優として育てたのは彼だが、今では反対に樹里に逆らうことができない。そんな伴を夫人の天子がキツく詰っているのも、何度も目にした光景だ。
成沢は3年前、樹里に望まれて協議離婚したが、未だ彼女に未練があるらしく、何度も復縁を迫っては断られていた。その樹里も、若い恋人の新庄に飽きてきた様子で、誰か可愛い子はいないかと自分に聞いてくることもあった。そして、マネージャーの矢口は、暗い、気が利かないと皆の前で言われ、恥をかかされていた。
「斯く言う私も、わがままな樹里さんにいつも振り回されて、他の仕事をしたいと思っても彼女に邪魔されて。うれしい反面、恨んでもいました」
ね?みんな彼女を殺害しても不思議はないのよ。そう言いきって席につくなつきに、蓮は目を細めた。コナンに向き直ると、樹里がチョコレートを食べるときに指先をなめとる仕草をしていたと伝えると、コナンの顔色が変わった。
「その指に毒がついていたとしたら…!」
「最初に樹里さんの手に触れたのは新庄さん。そして、そのあと樹里さんが触れたものは、なつきさんが渡したサインペンとスポットライトのスイッチ、それから――耳抜き時に触る鼻筋辺り」
「耳抜き?」
コナンは怪訝な顔をした。蓮は真剣な顔で思い出して、と少し強い口調で続ける。
「あの時、樹里さんは耳を押さえる仕草や苛立った様子を見せていた。彼女はまだスキューバダイビング初心者。耳抜きを鼻をつまんで息を詰めるあのやり方でないと、まだできないと考えるのが普通。だとしたら?」
「っ!!!!そうか!そういうことか…!」
僕はあの人だと思う、と難しそうな顔をする蓮に、俺も同意見だと告げると、少し驚いたような表情の後に良かったぁとふわりと微笑む。さぁ、推理ショーの始まりだ。
二人は顔を見合わせて怪しく笑みを浮かべた。
一方、成実の隣で雑誌を読んでいた哀は、なんとも不機嫌そうな成実に深く息をついた。この男は、まったく…。
「レディの隣にいるのにため息なんて、失礼じゃない?」
「!あ、ごめんな…。うん、ちょっと気が立ってるだけなんだ」
気にしないで、と苦笑する成実に、貴方ねぇと目を眇る。子供らしくない?もうこの際だ。そんなものどうだっていい。
「蓮さんのこと、好きなのはいいけど執着しすぎじゃない?」
「執着…」
「江戸川くんにまで嫉妬するなんて、到底25の大人の男がすることとは思えないわ。彼まだ小学生よ?」
ごもっともな意見に、成実はうっと顔をひきつらせた。小学生1年生の少女にここまで言われて言い返せないとは、なんとも情けない。しかも言い返せないほど色々まずい自覚はあるのだからなおのこと。
「隣に居なきゃ確かめられない愛情なんて、自分に自信がない証拠ね。貴方の中の妃 蓮がどんな人物かは知らないけど、彼は自由に他人と繋がりをもって、自分の世界を広げていく人間よ。自分だけ見せようなんて壁で囲えば囲うほど、反発して逃げ出すだけだと思うけど?」
成実は言葉につまった。そこまで見抜かれていたとは、この子が鋭いのか、自分が未熟なのか。十中八九後者だが。
「不安、なんだよ。情けないけどな。…今までにこんなに愛しいと思える人に会ったことなんて無かったから」
自分は復讐のために生きてきた。ただひたすらに、それだけを目的として。…だから愛だとか恋だとか、そんなものから目をそらし続けてきて、いざ想い人が出来たのにも関わらず、愛し方が分からない。
「それに、魅了的な想い人だと心配になるんだよ。どこかで悪い男に、女に拐かされないかとな」
「恋人でもないのに、まさに無用の心配ね」
容赦ない言葉がグサッと胸に刺さる。成実はひくりと頬をひきつらせる。哀は雑誌から顔をあげると、情けないとばかりに深くため息をついた。
「貴方、自分がどれだけあの子に信頼されてるのか分かってないのね」
工藤くんたちと比べて時間の差はあるとはいえ、彼は中々に成実を信頼しているようだが。きょとんとしている様子の成実を一瞥し、哀は再び雑誌に視線を落とした。せいぜい悩め。彼のことを想っているのは、けっして成実や新一たちだけではない。
(敵に塩を送るなんて、私も馬鹿ね)
未だ困惑した様子の成実を尻目に、哀はぱらりとページを繰った。