銀翼の奇術師
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コナンは一人思案を巡らせていた。夕べ、キッドは本気で宝石を盗む気はあったのか?長すぎる警棒を持っていたことも彼にしては迂闊すぎる。
その時、後ろの席の子供たちの会話がふと耳に入ってきた。
「なぁなぁ!俺の席は4-K!キッドのKだな」
「じゃあ僕は4-Jですから、ジャンボのJですね!」
「じゃあ私は、4-Bだから、えっと…えっとー」
「ふふ、ならブラボーのBはどうかな?」
そうか!コナンは蓮の言葉にはっとする。これですべてが繋がった。キッドの予告状のあの四つの単語、あれはボネティックコードだったんだ!
ボネティックコードとは、無線通話での聞き間違いを防ぐコードだ。RはRomeo、JはJuliet、VはVictor、BはBravoという。これは航空機の無線通話で使われている。つまり、26の文字が飛び交うなかでの犯行とは、飛行機のなかでの犯行を予告していたんだ。
「それも、東京から函館に向かう、この飛行機の中でな」
「どうして?飛行機なら帰りにだって――」
言いかけた哀は、そこで気づく。ここであのトランプの意味が入ってくるのか。スペードの2のカードが半分に割れていた、あれは2で割りきれない奇数を示していた。東京から函館に向かう便は、この865便の様に奇数。到着する便は偶数と決まっている。
そう考えれば昨日の事も納得がいく。全てはコナンに気づかせ、犯行に失敗したと見せかけて皆を油断させるのが狙いだったんだ。…蓮の事は、図らずとも奴には思わぬ収穫となってしまったんだろうけど。
蓮の様子を見る限り、変なことはされてなさそうだし、と安心していたコナンはそういえば、と蓮に視線を移した。Bの英単語ならもっと分かりやすい物もたくさんある筈なのに、何故Bravoを選んだんだ?偶然か、それとも気づかせようと…?
「!そっかあ!ありがとう蓮お兄さん!」
「ふふっどういたしまして**」
蓮は、元太君も光彦くんも良く英語分かったねぇと優しく褒めている。ふっと視線をあげ、此方をじっと見るコナンに気づいて曖昧に微笑んだ。
(アイツ、気づいていながら黙ってやがったな…!)
(わ、わぁ…何で黙ってたんだって顔してる…)
蓮は困ったように柳眉を下げた。ぴゃっと顔を引っ込める。成実はそんな蓮を不思議そうに見て、小首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「いえ、大丈夫です。…成実さん、何だか樹里さん、気分が悪そうなんですが…」
「離陸後なら兎も角、まだ飛び立つ前だから気圧の変化では無いだろうし、何だろうな…。とりあえず、気を付けて見ていることにするよ」
蓮はついと目を細めた。樹里は天子からビタミン剤を受け取って飲んでいる。…疲れだろうか?また別な症状な気もするのだが。
何処と無く不安を抱えたまま、飛行機は飛び立つ。##NAME1##はベルトを外しても良い安定した気流に入ったとき、スッと席をたった。向かうのは後ろの座席。トイレに行くふりをして客室を出ると、メモ帳に何やら短く書き付けて、小さく折り畳む。
「新庄さん、落としましたよ」
「え?あ、あぁ。ありがとう」
困惑した様子の新庄にメモを押し付け、##NAME1##はさっさと席に戻った。新庄は何気無くその紙を開いてぎょっとする。
《ブルーサファイアは偽物だったの?》
(バレてんのかよ!!!!)
快斗は蓮の洞察力に舌を巻いた。恐らく、新庄として飛行機に乗り込んだときから、彼は声で見破っていたんだろう。人である以上、似せることはできても完全に一致した声紋の声は出せない。とはいっても、常人では気づかないほどの誤差の筈なのだが、幼い頃から耳が鍛えられている蓮は欺けない。
気づいたところで、よっぽどの事がなければ邪魔はしてこないし、傍観しているだけなのだが。名探偵たちにバレないようにメモを渡してきたのを見ると、今回もどうやら傍観者に徹してくれるらしい。
(あーったく…仕事のためとはいえ、俺も蓮の隣座りてーな…)
可愛くて可愛くて仕方ないとばかりに、快斗は一人緩む口許を片手で覆った。しっかりしなければ。顔がにやける。…頑張れ俺の表情筋。
ちら、と前を見ると、気づいたかな?といった表情で後ろを見ていた蓮と目が合う。小さく手を振ると、嬉しそうにふにゃんと微笑んだ。
(あ゙ぁぁぁもう!!!!可愛いなお前!!!!/////)
内心大暴れだが、そこはポーカーフェイスのプロ。違和感のない表情を崩さない。快斗は、とりあえず蓮の隣を我が物顔で常にかっさらっていく成実は、今はここにいない蓮のもう一人の幼馴染――白馬探と並んで要注意だなと心に決めて、一人拳を握りしめた。
蓮はふと、物憂げな様子で頬杖をつく樹里に気がついた。トイレに向かう人を見ては席をたちかけ、座り直す。…あぁ、気圧の変化で気分が悪くなっているのか。
スキューバダイビングになれた人間や、自然と身に付いている人は鼻を摘ままずとも耳抜きができる。だが、昨日の話だと彼女はスキューバダイビングの初心者。鼻をつまんで息を詰めるやり方でしか出来ないのだろう。あれは、確かに異性の前や、彼女ほどの大女優ともなると人前でやるのは憚られる。
トイレに立ち、すぐに帰ってきたのを見てやっぱりなと思いながら、蓮はふっと息をつく。何故だろう、何だかとても嫌な予感がする。
その時、コックピットにコーヒーと菓子の乗った皿を届けるCAの姿に、蓮は目を瞬かせた。
「あれ、国内線なのにコックピットにサービス…珍しいなぁ」
思わずそう独り言ちる。国際線などでは良く見る光景だが、国内線は飛行時間は精々数時間。あまりコックピットにコーヒーなどをリクエストされる光景は見られない。物珍しさにふぅんと頷いていると、樹里が一緒にカーテンの奥に消えていくのが見えた。
(え?)
カーテンの隙間からコックピットが見える。親しげに機長らと話す様子から見て、知り合いだったのだろうか。…そういえば、樹里は女優になる前、CAとして勤務していた経歴があった。その時の知り合いなのだろう。だが、いくら知り合いと言えどそう易々とコックピットにいれて良いものか。
これが各国の皆が馬鹿にする日本の危機管理能力の甘さってやつなんだよなぁ、なんて思いながら、蓮は窓の外に目を向けた。外は夕焼けに染まり、とても美しい。
樹里さん、という矢口の声に蓮はふっと視線を樹里に向けた。迷った様子でチョコレートを一つ摘み、指についたココアパウダーをペロリとなめとる。毛利さんもいかがですか?と差し出されたチョコレートを遠慮なく貰ってうんめー!と満面の笑みを浮かべる小五郎にくすっと小さく笑って視線を外す。―――その時だ。
「ぅ、あ…っゔ、ああ゙…っはぁ゙っぐ」
苦しそうな呻き声に全員が目を剥く。喉を押さえ、がくりと膝をついた樹里はそのまま後ろにのけぞった。成実はばっと飛び出してすかさず駆け寄る。
「牧さん、牧さん!?」
苦しみかたが尋常ではない。原因は劇薬か。樹里のもがき苦しみ、空を掻いた手が力なくだらりと落ちる。冷静に脈を計り、蓮に視線を向けると、彼は静かに時刻を読み上げた。まったく、何から何まで言葉にしなくても伝わる少年だ。
「麻生さん」
「残念ですが」
小五郎の言葉に静かに首を横に振れば、そんな…っと悲鳴が上がった。コナンはすんっと鼻をならし、成実を仰ぎ見る。
「成実さん。アーモンド臭がする」
「あぁ、青酸系薬物による青酸中毒だな…」
言いながら成実は内心ため息をついた。…毛利さんの影響なんだろうが、コナン君も蓮君も死体現場に慣れすぎだというか、知識がつきすぎだというか…。アーモンド臭なんて小一の子供から出る単語ではない。教育に悪いどころか、一周回って英才教育されすぎだ。