銀翼の奇術師
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エレベーターに駆け込み、屋上まで上がっていく。先に確認したはずの非常口の鍵は開けられている。快斗が抜け出したのはついさっき。…この短時間でどうやって開けたんだろう?
(新一も来てるのかな…?)
そぉっと足音をたてないように階段を登り、屋上のヘリポートにひょっこり顔を出す。バレたら成実には勿論、新一にも何で来たんだと怒られるし、自由にいろんな人とお友だちするのも制限をかけられそうだ。
ちらりと盗み見れば、息を整えたコナンがもうゲームは終わりにしようぜ?と一人佇む警備員に声をかけていた。そうだな、と言いながら警備員も笑顔で振り向き、変装を解く。
「探偵くん?」
「軽口叩けんのも今のうちだ」
そろそろけりをつけようじゃねぇか
コナンは相手を見据えたまま、キック力増強シューズのスイッチを入れた。快斗は俺たちの想い人が夕飯つくって待ってるからな、と笑いながら続けた。
「コナンくーん?」
「っ!?」
「夕飯できたよー?」
コナンはばっと振り返った。今のは確かに蓮の声…が、後ろには誰もいない。当たり前か。今彼は舞台をみているはずなのだから。してやられた悔しさに奥歯を噛み締めて視線を戻せば、キッドは不敵に笑ってトランプ銃を構えていた。
「早く来ないと、食べちゃうよ」
バシュッと足元めがけて放たれるトランプ。隙をついてボールを蹴り出すも、それも間一髪で避けられ、余裕の笑みでトランプが繰り出される。次々避けるも、とうとうコナンは手すりに追い詰められた。
(危ない…!)
あのままでは落ちてしまう。だが、彼が背負うその荷物。あれは何だろう?追跡中でも肌身離さず…ということは、阿笠博士の発明品か。下手に手を出しては邪魔になってしまうのでは…
「蓮」
「っ!」
「怒らねーからこっち来いよ。俺を追いかけてきてくれたんだろ?」
快斗はそう言ってこちらをみて目を細める。かわいーなぁと呟く唇は怪しくつり上がっていて、嫌な予感しかしない。というか、ここで出ていっても行かなくても今の発言で新一にはバレてしまったわけだ。お説教は確実、かな?
そろそろと出ていくと、コナンはこちらを見てキッと眦を吊り上げた。何で来たんだ!!と頭ごなしに怒鳴るコナンに、##NAME1##はムッとしたように柳眉を寄せた。自分だって来たくせに…
「こいつは犯罪者なんだぞ!?犯人がいるところにわざわざ出てくるなんて―――」
「…だってキッドだもん」
そりゃ、人殺しとかなら考えるよ?でもキッドはそうじゃないじゃないか。それに――
「僕は自分の身は自分で守れるし」
コナンと快斗は以前ナイフを向けられようと銃を突きつけられようと、臆することなく飛び込んで文字通り相手を叩きのめしていた蓮を思いだし妙に納得してしまった。だが、それとこれとは話は別。そもそも危険なことをしてほしくないのだから。
「愛する人を傷つけるようなことなどしませんよ」
快斗はそっと蓮のたおやかな手を取り上げて口づけた。気安く触るなと激昂するコナンに、怪盗は狙った獲物を盗み出すのが仕事だからなと笑ってトランプ銃を発射した。駆け寄ろうとする##NAME1##の腰を抱いて引き止めながら、当てやしねーよと薄く微笑む。
「うわっ!?」
コナンはつんのめった。転んだ勢いで手すりをすり抜け、屋上から落下してしまう。蓮は思わず駆け寄ってコナンくん!!!!と悲鳴のような声をあげる。
「っ蓮!」
「え?ひゃあ!?」
快斗は蓮を颯爽と横抱きにすると、ハンググライダーで飛び立った。命綱などない。自分の体を支えているのがこの男の腕だけなのだという現実に、蓮はさぁっと青ざめて快斗の首にしがみついた。
「(可愛いー♡役得だな♡)なぁ、蓮。絶対に落としたりしねーから、手伸ばして名探偵捕まえられるか?」
「う、うん…っ」
蓮はコナンに手を伸ばした。だが、落ち行くコナンはくるりと仰向けになると、麻酔銃を構えて発射する。咄嗟に快斗を庇った##NAME1##に命中し、チクリとした小さな痛みの後に##NAME1##の意識は闇に飲まれた。一方、射った張本人は驚愕と焦りに顔を歪める。
「ゲッ!?」
「おいおい…名探偵。それはねーだろ」
くてっと完全に体を預けて眠りにつく蓮をそっと抱き直す。さて、せっかく助けようとした俺の蓮にこんなことしたんだから、勿論策はあるんだろうな?名探偵?
快斗は額に青筋をたてた。コナンはレバーをひいて、リュックからパラグライダーを引っ張り出す。上手く風をつかんで滑空するコナンを見ながら、快斗はふぅんと納得したように目を細める。
「成る程…ハンググライダーにはパラグライダーってわけね」
だからと言って、蓮に麻酔銃を射ったのは許すつもりはないが。
キッドは汐留駅を発車したゆりかもめの屋根の上に降り立った。コナンも高度を下げ、パラグライダーを脱ぎ捨てて着地する。快斗は相も変わらずすよすよ眠り続ける蓮の額にちゅっと口づけた。こんなときでもないと、この眠り姫は大人しく可愛がられてくれないからな。
「流石だな。さっきのパラグライダー。あれも阿笠博士の作品かい?――ところで、お前がぶっぱなしてくれたお陰で俺の眠り姫は目覚めなくなってしまったわけだが、この麻酔銃の効き目は?」
コナンは苛立ちに歯噛みした。想い人が他の男の腕に抱かれていて、しかもその原因を作ったのが自分なのだから。2、30分だと言うコナンに、なら家に送り届けるのが良いかと独り言ちる。
「だが、もう逃げられないぜ。空を飛べなくなったら、怪盗キッドもただのこそ泥だ!」
「じゃあそろそろ、もとの怪盗に戻らせてもらおうかな。お姫様を無事に送り届けなきゃなんねーし」
コナンはジィィィというワイヤーが擦れるような音に、辺りを見回した。キッドの腰のベルトからのびたワイヤーは上空のハンググライダーに繋がっている。と、蓮の長い睫毛がふるりと揺れた。
「ん…」
「お?起きた?蓮?」
「かい、と…ぅえ!?ここどこ!?」
庇ったときにカーディガン越しに命中したのだろう。だから効き目が薄かったのか。目が覚めたら突然電車の上だったのだから、##NAME1##の混乱もひとしおだ。コナンはホッと胸を撫で下ろすと同時に、これで心置きなくキッドに集中できると笑う。
「さて、お姫様。ベルトは一応してますけど、私から手を離さないで下さいね?」
「ぇ?っぅやああ!?」
しゅるっという音がしたかと思うと、腰にベルトが回される。目を白黒させる蓮に構わず、快斗はスイッチを入れた。コナンがキッドに駆け寄るも、一瞬早く二人は空に飛び上がる。
「~~~~っっ!!!!」
(可愛い♡…お姫様はもらってくぜ、名探偵)
よっぽど怖かったのか首にきゅうっとしがみつく蓮に口許が緩む。ふわりと香る、甘やかな花の香り。今回蓮には可哀想なことをしてしまったから、後でちゃんと慰めないとなと快斗は内心独り言ちて、くつりと笑った。
「くそっ!!!!」
一番大切で、傷つけたくない宝を持っていかれたと、コナンは電車の屋根を苛立ちに任せて両手で殴り付けた。蓮が屋上に来たのは自分を心配して、そしてキッドを捕獲しようとしたからだろう。
わかっていても、守ってやりたいし危険な目には遭わせたくない。籠の中のカナリア状態がもっとも嫌いなのだと知っているが、閉じ込めてでも温室のなかでぬくぬくと可愛がってやりたいという自分がいる。
自由な蓮が好きなんだ。花のように笑う、くるくるとよく働く美しくも可愛らしい、そんなところが。だから、誰よりも側にいてその笑顔を守ってやりたい。
ふがいない自分に歯噛みして、コナンは最後にもう一度、力の限り屋根を殴り付けた。