銀翼の奇術師
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「それじゃあ、僕たちはここで」
「舞台、楽しみにしてますぞ」
軽く手をあげて去っていく俳優陣に、蓮は軽く会釈した。実は先程、もしかして妃 蓮君って、あの音楽の…?と成沢らに話しかけられ、今度オペラの舞台をやるときに是非にと誘われたのだ。
一度はあってみたかったんだよ!なんて伴や新庄にも手を握られ、天子にもこんなに可愛い子なのね!と頬を撫でられた。この短時間で吃驚するくらい可愛がられ、蓮は嵐が過ぎ去ったような感覚を覚える。樹里はその中心にいるのが自分ではないのが不満なのか、終始面白くなさそうにこちらを睨み付けていたけれど。
蓮は隣の快斗をジト目で見上げる。身長差的に頭半分ほど蓮の方が低いので、必然的に上目使いになっていて、全然怖くない。
「…なんで急に?連絡も何も無かったじゃないか」
しかも新一の格好なんかして…という言葉は口の中にのみこんだ。
「拗ねんなよ。お前の驚いたキュートな顔が見たくてな!」
「む……」
「おーおー♡のっけから言うねぇ?」
ふいっとそっぽをむく蓮の頬は薄紅に染まっている。見た目は冷たささえあるクールビューティなのに、中身はどこまでも可愛らしい。惚れた弱味もあるだろうが、贔屓目抜きにしても蓮は十分可愛かった。
「さて、俺は屋上を見てくっかな!蓮もどうだ?最上階は展望フロア見てーだぞ?」
「う、うん…」
困ったように柳眉を下げる蓮に、蘭と園子は行っといでよ!と肩を抱いた。間髪入れずにコナンが僕も行く!!!と声をあげる。
「あんたはいいの!!」
「待っていよう?コナンくん」
「行く行く!!僕も行く~~!!!」
蓮のカーディガンの裾を掴み、行く行く行く!!!!と地団駄を踏む。蓮はそうだねと苦笑すると、そっと膝を折り、コナンの頭を優しく撫でた。柄にもないことして…と思うけれど、演技だとわかっていても子供らしい仕草を可愛いと思ってしまう。
成実は後ろからそんな蓮の肩を抱いた。反射的に振り返り、思った以上に近い距離で頬笑む彼に瞠目する。
「オレも行きたいな」
「成実さん…」
必然的に見つめ合う二人に面白くないのは快斗だ。ひきつる頬を根性で押さえ込んでにごぉっと無理矢理微笑む。
「空気を読むって言葉、知りませんか?」
「初対面の相手にずけずけ言う礼儀知らずに払う敬意は持っていないな、オレは」
バチバチバチバチ…
見えない火花が散っている。蓮は困惑した様子で小首を傾げ、コナンはそんな蓮に気にするなと言いながら頬を撫でる。あちゃー…と園子は額に手を当て、蘭はあはは…と乾いた笑いを浮かべる。まさかこんな初っぱなから仲が最悪になるとは…。
「皆で一緒にいこうか。ね?」
蓮の言葉に、コナンはやったー!と声を弾ませる。園子と蘭はその様子に仕方ないなと苦笑し、子供たちはそんなコナンに目を眇めた。
「蓮さんの前だと人格が変わりますよね」
「きっとそれは甘えたい年頃なんだよ」
「成る程…!」
「ガキだなアイツ」
(あんたらもでしょ)
園子は心のなかで突っ込んだ。哀はふっと淡く微笑む。コナンと成実は馴れ馴れしく蓮の頬を撫でる新一にぎりっと奥歯を噛み締めた。
((二人きりなんかさせられるか…!!))
快斗と蓮は屋上に通じる非常口に来ていた。がちゃがちゃとドアに鍵がかかっていることを確認する。
「よーし!ちゃんと鍵はかかってるな」
「うん。…でもこれも開けられちゃうんでしょ?」
泥棒の技術って鍵なくしたときとか便利だろうねぇ、なんてふわふわ笑っている蓮に、コナンはそうじゃねぇだろと眉根を寄せた。まぁな~なんて言いながら、快斗は蓮の細い顎を持ち上げた。
「でも、そこまで察しがいいならよ。鍵を確認するって口実で、人気のない所で二人きりになりたかったんだって…そろそろわかってくれねーか?」
「ふぇ?っや…!?///」
ぐっと強く腰を抱かれ、顎を持ち上げ固定される。傾けられる快斗の端正な顔が近づく。やだやだと小さく頭を振るのを、可愛くて堪らないとばかりに蕩けた笑みで受け止めると、うりゅっと羞恥で涙目の蓮は上目使いに快斗を見上げてだめ、と呟いた。
「ダメなの?…ほんとに、ダメ…?」
「ダメに決まってるだろ」
ガァアンッッ
「ごめーん僕足滑っちった~」
「オレも手が滑っちゃったよ。大丈夫?蓮君」
成実の低い声が響いたかと思えば、サッカーボールとボールペンが飛んで来た。非常口とかかれた壁にめり込むようにしてぶつかる2つに、快斗はギギギと油の切れたブリキのようにぎこちない動きでへこんだ壁を見た。今後頭部を擦った。ペンに至っては蓮と自分の間をすり抜けていったし。もし直撃してたら……いや、考えたくない。
成実はつかつかと大股で歩み寄り、引ったくるようにして蓮の腰を抱く。状況が呑み込めずに長い睫毛をぱちぱちと瞬かせる蓮に、にこっと微笑む。
「無防備過ぎだよ」
「え、えと…すいません…?ぅみゃ!?」
「分かってないだろ…」
むにぃっと柔らかな頬をつまれる。いひゃい…と涙目の蓮に、無自覚なのもいい加減にしないとね、なんてそれはそれは良い笑顔で頬を引っ張る成実。赤くなった頬を押さえて俯く蓮の手に手を重ねて、そっと顔を上向かせる。
「わかった?」
「はい…」
「よし」
ちゅっと鼻の頭に小さく口付ける。ぎゃんぎゃん言い争っていた快斗とコナンが今度は蓮から離れろと成実と蓮の間に割ってはいる。どこまでも騒がしい男たちに、蓮は人形のようにあっちへこっちへ引っ張られながら小さくため息をついた。
非常口から戻ると、展望フロアでくつろいでいた園子と蘭はふっと顔をあげた。ちなみにこの二人、特に蘭は極度のブラコン故蓮大好きなのだが、小さい頃から一緒にいてその恋を見守り続けている新一になら譲ってもいいとその恋を応援している節がある。
「どうだった?」
「うん、屋上へのドアは全部鍵がかかってたよ」
おっとりと微笑む蓮の表情をじぃっと見つめ、二人は新一と蓮の間に進展があったか推理する。突然凝視された蓮は困惑した様子で小首を傾げた。ちなみに成実とコナンは後ろで腕をくんで壁に寄りかかり、面白くなさそうに目を細めている。
「つまり、オレの推理が正しければ…」
キッドは屋上へはきっど来ない!
突然の駄洒落に蓮、蘭、園子は拍子抜けしたように数度瞬き、そうだね…?と困惑ぎみに返事を返した。ついでぐるりと辺りを見渡した蓮は、窓の外の景色に目を輝かせる。
「わぁ…!」
ガラス張りの壁から見える東京の景色は、ビルも雲も全てが黄金色に染まりとても美しかった。無邪気に駆け寄った蓮はすごいなぁ…と感嘆の息をつく。
「蓮くんは無邪気で可愛いな」
「自慢の兄ですから」
蘭は成実の言葉にえへへと笑った。それを眩しそうに目を細めて受けとめると、蘭ちゃんは蓮くんが大好きなんだねと呟いた。初めて会ったときから思っていたが、この双子は本当に仲が良い。
「前から思ってたんだけど、なんで麻生さんは蓮のことそんなに大好きなわけ?」
園子の純粋な疑問に、成実はそうだな…と蓮に視線を向けた。子供たちと、本当にすごいねなんて言い合ってにこにこ笑っている。実にほほえましい姿だ。
「蓮くんには、命も心も救われたんだ。一度は捨てた命だったのに、全部僕が貰うなんて殺し文句言われたら落ちるしかないだろう?…だから、誰よりも彼の傍に居たいし、誰よりも彼には幸せになってほしい」
出来ることなら、オレの手で…
そう言って、子供たちと戯れる蓮に頬を緩める。園子は野暮なこと聞いちゃったわねと肩をすくめた。蘭はどこか懐かしそうな表情で話を聞いていたが、でも、と続けた。
「私は新一以外は認めません」
「手厳しいな…」
「アタシはもう蓮が愛されてるならなんでも良いわ!ま、工藤君と一緒になってくれるのが一番嬉しいけどね」
彼の片想い歴長いのよ。それをずっと見てきたんだから、今更別な人にかっさらわれるのはちょっとねぇ…なんて面白くて堪らないとばかりにニヤニヤと成実を見る。
「それは強敵だな」
でも、オレも諦める気は更々無いよ。
成実はそう言って晴れやかに笑った。