天空の難破船
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蓮とコナンは手分けして爆弾を探していた。コナンは喫煙室の裏側にあたる部分をのぞきこんで、僅かに瞠目する。…ない。てっきりここに仕掛け直したかと思ったのに…。さっきとは別の場所に仕掛け直したのか…?
「新一。二つ見つけた」
「蓮」
結局、見つかったのは二つだけ。しかも、仕掛けてあったのは、元太や光彦達が見つけたところ…
(奴等は細菌をばら蒔いた場所には爆弾を仕掛け直さなかった…ということは、この爆弾自体は細菌とあまり関係がないのか)
蓮はふむ、と独り言ちるとポケットからソーイングセットを取り出した。小さなハサミでコードを切っていく。…と、不意にコナンの携帯が鳴った。
「出て上げて。多分平次君だと思うから」
「あぁ…」
≪こら!!工藤!!またかける言うといて、ちーともかけてけーへんやないか!!≫
蓮は電話口から漏れる服部の声にクスクスと小さく笑った。彼は今日も元気一杯か。工藤?と和葉に訝しげに首を傾げられ、服部は慌ててくどいで…コナンくん♡と言い直す。
「ワリィワリィ…すっかり忘れてた」
≪ったく…今、何処にいてるんや!?≫
「飛行船の中だ!!」
≪もう戻ったんか?すばしっこいやっちゃなぁ…≫
「それより、何の用だ?今、忙しいんだけどな…」
「いいよ。新一、僕こっち終わったからそれ解体しちゃうね」
蓮はコナンの手元の解体中の爆弾を引き継いだ。話を聞くに、どうやら犯人がネットに飛行船のことをばらしたお陰で、大阪中がパニックになってしまっているらしい。電車の駅は大阪から西へ逃げる人で超満員。高速や下道も大渋滞している。
服部は、銀行の行員や警備員とかもみんな避難させられとるらしいから強盗するなら今やな、なんて軽口を叩いて見せた。不意に電話口の向こうから、今はセキュリティが万全だからやめた方がいいという子供の声がする。
(セキュリティ…)
ぱちんっと最後のコードを切り終わった瞬間、突然誰かにぽんっと肩を叩かれた。びくっと肩を跳ね上げて振り向くと、可愛いー♡なんてヘラヘラ笑ったキッドが、面白いもんが見えるぞ、と天井を指差す。
「面白いもの…?」
二人はキッドに連れられ、再び屋根へと顔を出した。ばっと前方を見ると、スカイデッキの天井窓から大量の白煙が上がっている。
近づいて確認してみると、ハイジャック犯の一人が大量の発煙筒を焚いていた。キッドは、楽しげに口許を緩ませる。飛行船が煙吐いてるんで、奈良の人達はぶったまげるだろうな…
「たまげるだけじゃない!パニックだ!」
「パニック?」
「彼等、ネットで細菌の事や爆弾のことを公表したんだよ」
「今頃、街中の人が避難させられて…」
コナンの言葉に、キッドは飄々とした態度を崩さない。奈良がそうなったとしたら、泥棒にとっては大ラッキーだな、なんて言われ、人がいなくなっても今はセキュリティがといいかけたコナンははたっと止まった。……セキュリティ?
「なるほど。だから奈良なんだね」
「かもしれねーな」
蓮はちらっと携帯を確認すると、綾小路から大量の着信があったのに気づいて苦笑する。素で気づかなかった。メールには、彼らしい何処かそっけない礼と、奈良県警に伝えておく旨、そして京都にまた遊びにこいと綴られていた。
(さっさと解決して、皆に会いに行かなくちゃね)
よしっと、人知れず小さく気合いを入れ直して、蓮は不敵に笑った。
白煙が上がっている飛行船。だが、その内部にいる者達は外の騒ぎなんて知らぬまま、嫌な緊張感の続くダイニングに軟禁されていた。
苛立ちが募る。かの優しい少年は無事だろうか。いくらハンググライダーでキッドがキャッチしてくれたとはいえ、万が一ということもある。殴られた頬の手当てもしてやらなければ。…早く会いたい。
成実は蓮への想いが募ると同時に、蓮を突き落としたリーダーの男への憎しみが強くなるのを感じた。握りしめられた手に血が滲み、射殺さんとばかりに睨み付ける瞳からは殺気が満ち溢れている。
「成実さん」
「!蘭ちゃん…?」
蘭はそっと成実の顔をのぞきこんだ。一瞬悲しげな顔になるも、すぐに穏やかな顔に戻ってやんわりと首を横に振る。
「蓮は大丈夫です。こう見えて、双子だから。何となくわかるんですよ」
だから、ダメです。と、蘭は静かに言った。もう、その手を血で汚してはいけないと。
「…ありがとう」
「わ!ほんと…今すごくひどい顔してるわよ?」
蓮なら大丈夫よ!だって愛しのキッド様も、あの生意気なガキンチョもついてるじゃない!なにより、あの子強いし!と園子はニシシと笑う。端から聞いていた次郎吉も、そうじゃぞ!と笑った。
絶対の信頼。簡単には入り込めないような何かを感じて、成実は眩しそうにふっと目を細めた。
その光景を横目に見ながら、灰原は成実の危うさを感じていた。彼の蓮への想いは、どうも恋慕というには苛烈で、執着と言うには蜜のように甘い。
別に、一度彼が過去に過ちを犯していた事実があろうと、そんなことはどうでもいいことだ。
『人にとって大事なことはね、哀ちゃん。その人が過去に何をしたかじゃなくて、その人がこれから何をするか、だと思うんだ』
かの微笑みを絶やさない優しい少年が言っていた言葉。あの子はそう言って自分を受け止めてくれた。…だから、自分も成実を受け入れる。
阿笠もそんな灰原にそっと頷いた。確かに、今の成実を見ていると、どことなく心の危うさを感じるのだ。再犯がどうの、という意味では全くなく、蓮への好意について。例えるなら…そう、飴細工。
繊細な形を保ちつつ、ふとしたことで出来た歪みはグニャリと歪んだ形で現れる。どこまでも純粋に彼を求め、彼を傷つける者を容赦なく厭う、その歪みの矛先が、いつか蓮自身に向いてしまったら。
((その時は、全力で彼を守るけれど))
今暫くは、かの少年が信頼していると豪語したこの青年を信じて見守ることにしようと、二人はそっと心に決めた。
コナンと蓮は客室へと侵入した。コナンはぐるぐると考え込む。どうやら、蓮の気にしていた発疹の出方と空気を吸ったはずなのに感染しない元太、それらがあまりうまく結び付いていないらしい。
「新一」
「蓮。…お前の見立ては?」
「…水川さんの掌に出た発疹。ウェイトレスさんの腕と掌に出たそれ。藤岡さんのも見る限り、僕は草木かぶれだとおもうよ。」
草木かぶれは、患部を触った手で触れるとかぶれが広がる。だから、むやみに掻いてしまった水川さんの掌や、腕を組む癖のあったウェイトレスの女性の腕に発疹が広がったのだ。
「恐らく原因は…漆かな」
その証拠に…と蓮は客室のドアの隙間から外を流し見た。手袋を外したハイジャック犯の男の爪が黒く変色している。やはりそうかと呟くコナンに、蓮はふふっと嬉しそうに笑った。
「さて、皆を助け出すには…まず周りの邪魔なのを地道に片付けないとな」
「一人一人おびき寄せて…か。まるで蜘蛛みたいだね」
二人はまるで悪戯を計画する子供のように、顔を見合わせて楽しそうに笑う。さて、どこまでうまく運ぶかなと呟いた二人の目は、不敵な光を放っていた。
静かな船内。そこに何処からかガタンというそこそこ大きな物音が響いた。リーダーの男は、キャットAと呼ばれた部下の男に見てくるよう命じる。
がちゃりと飛行船内部に入ったキャットAは、辺りを警戒しつつ上へ上っていく。そこで、フロアに倒れ伏す蓮の姿を見つけた。
ぐったりと投げ出された華奢な姿態。長いまつげは伏せられていて白皙の面差しに影を落とす。まるでビスクドールのような美しい少年に、男は思わずその体を抱き上げ、おいと声をかけた。
「ふふっ♡」
ついでぱちっと目がひらき、蓮は実に楽しそうに笑った。お前、と声をあげかけたところでキャットAをコナンの麻酔針が襲う。
「一人目、完了。…新一。やはりこの人は漆職人だった人だね」
「そうか。…よし、じゃあ二人目行くぞ」
「はーい」
二人目に関しては僕は見てるだけなんだよなぁ、と蓮はつまらなそうに唇を尖らせる。
蓮はキャットAの体を引きずって階段近くへと運んだ。程無くしてキャットAの様子を見に来たらしい、キャットBが入ってくる。キャットBは階段を上りかけ、フロアで倒れている仲間へと駆け寄った。
「おい!!どうした!?おい!!」
ふにゃ~なんて寝ぼけた声をあげるキャットAに、キャットBは寝てるのか!?と思わずあきれ顔になる。と、その時、キャットBの視界の端に、スッと金属の棒のようなものがついた紐が現れた。
何気なく手をかけると、紐が上へと勢いよく持ち上がり、体も宙へ浮いてしまう。実に悪どい顔で伸縮ベルトの操作をする幼馴染に、蓮は苦笑した。…楽しそうだなぁ、新一。
手を離してしまい、背中からまっ逆さまに落ちて背中を打ち付けるキャットBを尻目に、コナンはそっと蓮に客室へ移るように言う。蓮はこくりと頷くと、追っ手が来る前に外に出て、身を隠した。