天空の難破船
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一方、ハンググライダーで滑空していた三人は、ホッと息をついた。流石に焦った。…まさか本当に放り捨てられるとは。
「まさか窓から放り投げるとはな…。蓮の事まで突き落とすとは思わなかったし。どうする?名探偵。このまま降参か?」
「んなわけねーだろ!!今すぐ飛行船に戻れ!!」
「っわぁ!?あ、暴れないで!」
暴れるコナンを抱く腕に力を込める。これで手を離してしまったら、あっという間に地面へまっ逆さまだ。そもそも、うつ伏せみたいな状態で子供をだっこするのって、けっこう腕にくる。
「無茶いうな…俺のハンググライダーはエンジン付きじゃねーんだ。そもそもこれ三人乗りじゃねーし。生きてるだけでもラッキーと思え!」
愛知県の佐久島、その海岸へと降り立った三人は、ばっと空を振り仰いだ。飛行船は真っ直ぐ西へ向かっている。…やはり行き先は大阪か。
コナンは服部に電話をかける。
≪おう、今どこや?≫
「三河湾にある佐久島だ!」
≪なんや、まだそんなトコか!?≫
「しゃーねーだろ!下ろされちまったんだから」
≪下ろされたぁ?≫
「実はな、服部…」
コナンは服部に爆弾と殺人バクテリアを積んだ飛行船が大阪に向かっていることを告げた。因みに、キッドと蓮はその後ろでヤギと戯れている。
「随分懐かれたねぇ」
「お前ほどじゃないけどな。…ほら、キッドだし?」
「…………えっと、じゃあ快斗は今この子の子供だと思われてるのかな?」
キッドは、英語で仔山羊。でも目の前の山羊はどう見てもゴート。つまり、大人の山羊。……うまいこと言えているようで言えていないギャグに、蓮は困ったように微笑んだ。因みに、コナンは電話口で呆れている。
3人の乗客が感染したことを告げたとき、飛行船を追う警視庁のヘリを見つけた。コナンは何かを思い付いたように、変声機を使って新一としてどこかに電話をかける。…警視庁かな。
蓮はそれを尻目に、隠し持っていた携帯を出して"お友達"に電話をかけた。ついで、その開かれた口から零れ落ちる流暢な英語に、キッドは舌を巻いた。発音的にはアメリカ英語。今回はアメリカ人の情報屋か。
<ハァイ、ジョン。頼んでた件、どうなった?>
≪やぁレン。今君に連絡しようと思ってたところだよ。≫
ハイジャック犯の身元がわかった、という言葉に、蓮はふっと口許を緩める。身元が分かれば、何故意味のわからない大阪へ行く、という要求を彼らがしてきたのか。すべてがわかる。さて、こちらも反撃開始と行こうじゃないか。
データを見ると、あの武装集団は全て傭兵だということがわかった。蓮はそのデータを綾小路警部に送りながら、ふむ、と独り言ちる。傭兵、ということは、この一連の騒動は鈴木財閥への怨み等ではないということか。
蓮はちらりと隣であーだのこーだの言い合う二人を盗み見る。さて、まずは自分もつれていってくれるように交渉しないと。過保護な幼馴染を思い、人知れず息をつく。
「何処に工藤新一がいるんだよ?オメーだろ?工藤新一は…」
「だーかーらー、俺に化けてくれって言ってんだよ!」
「……手を貸すのはいーが、俺の仕事の邪魔すんじゃねーぜ?」
「そいつは保証できねーけど、なるべく努力するよ」
「僕も行く!」
「ダメだ」
間髪入れずに返ってくる声に、蓮はムッと唇を尖らせた。ほらな、やっぱり…。
「新一には言ってない。僕はキッドに頼んでるの。…大体新一、ダメってしかいわないじゃないか」
ね、キッド。…ダメ…?
やっぱり快斗もダメって言うかなぁ…と恐る恐る聞いてみる。そろそろ顔をのぞきこむと、快斗は何故かぶわっと赤くなって、あたふたしたあと不機嫌な顔でグッと腰を引き寄せられる。
「あ、ぇ、え?」
「かわいーお願いだけどよ。…それ、無意識?」
「え?…無意識?」
とりあえず、連れていってくれるの?と小首をかしげれば、お礼は後でしっかりもらうけどな!と言いながら、唇をとんとんと指で軽く叩かれる。お礼、言えってこと?
「ありがとう…?」
「なんで礼なんか言うんだバーロー!!」
「へへっ約束な!」
なんの約束なんだかさっぱり理解できないまま、蓮は引きずられるようにして警視庁のヘリとの待ち合わせ場所に向かった。
ヘリに乗り込み、佐藤達は見知った面々に頬を緩めた。新一と蓮、そしてコナンがいるのは心強い。だが、何故佐久島にいたんだろう?
「久しぶりね、工藤君!」
「どうも」
新一、もといキッドは微笑を浮かべて、ペコリと頭を下げた。
「でも驚いたわ!蓮くんとコナンくんも一緒だったなんて…」
「えへへ…」
話は後でだと切り上げ、キッドは飛行船を追ってくださいと佐藤へ頼む。暫く飛び続けていると、前方に小さく飛行船のようなものが見えた。ついで、犯人たちに気づかれないよう十分高度をとって近づくようにと指示を出す。
「風向きと、今のヘリのスピードは?」
「東南東、時速200キロ!!」
「このまま進んで、追い抜いた辺りで飛行船にスピードを合わせてください!」
「…工藤君?」
コナンと快斗は窓から手を突きだし、ふんふんと風の流れを確かめる。困惑した様子の佐藤と高木に、蓮はふわりと微笑んだ。
「乗せてくださって、ありがとうございました。僕たちはこの辺で失礼しますね」
「「へ!?」」
快斗はコナンを抱いた蓮の腰を抱き、ヘリから飛び降りた。ばっと制服が飛び、キッドの姿へと変わる新一に、佐藤達は目を白黒させる。
滑空しながら、蓮はそう言えば…とぼんやり考える。二人も腕に抱いた状態で、どうやって翼をしまうつもりだろう…?たぶん考えてないんだろうな…
「快斗。コナンくんのこと片手で支えて。僕のこと片手で支えられる?首に手をまわすから」
「へ?あ、あぁ、まぁいいけどよ…?」
蓮はくるりと体を反転させてキッドの首に腕を回した。そのぶん、キッドは片手にコナンを、片手に蓮を抱えるようになる。着地した瞬間、ハンググライダーが風を受けて大きく後ろに流される三人に、蓮はやっぱりなと独り言ちた。
「ばっ、ちょ、蓮!?///」
「ごめん、我慢して!」
蓮はキッドの胸元を探り、ワイヤー銃を取り出して素早く撃つ。
「危なかったぜ…」
「れ、蓮が空中で体勢変えたのって…こーゆーこと…」
「だって先は読めてるじゃないか…」
3人はホッとしたように息をつきながら、改めて飛行船の上に降り立った。
「そんじゃ、ま!グッドラックってことで…」
「?キッドは一緒に来ないの?」
「フッ♡」
不思議そうに小首を傾げる蓮の頬に軽く唇を寄せると、キッドは換気口の前らしきところに座り込んだ。宝石はリーダーの手に渡ってしまったし、ここで様子見をするのだという。キッドは、そうだと呟くとコナンに何かを手渡した。
「なんだこれ?」
「次郎吉さんの指紋シールだ。今回は指紋認証式のガラスケースって読みは、ズバリ当たったんだが…もう用はねーからオメーにやるよ!」
コナンはガラッと飛行船の上部の扉を開けた。するりと滑り込むコナンに続こうと手をかけたとき、キッドはしっかりと蓮を見据えた。
「蓮。オメーの医学知識で今回の殺人バクテリア、どう見る?」
「…僕は、フェイクかな。発疹の出方が掌や腕って言うのが引っ掛かるしね。発疹の状態も草木かぶれと同じだった。あれは…漆かな」
「ほぅ?…その顔見る限り、中々な自信みたいだな。まだ名探偵には言ってねーのか」
「新一にはまだナイショ。そりゃあ自信あるよ」
だって、と。蓮は華の咲くような笑顔を浮かべた。今回の判断は、今までの知識だけではない。信頼に足る人のお墨付きだ。
「とっても優秀なお医者様がそう言ったんだから」
「―――――…妬けるね、ったく…」
するりと飛行船内部に滑り込む蓮を見送って、キッドは面白くなさそうに呟いた。