天空の難破船
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エレベーターを降り、ロビーへと向かうとちゅうで、二人は別れた。…と、スマホにメールが来ていることに気づいて、蓮は立ち止まる。蘭だ。そろそろ食事の時間だったのか…。成実さん、まだ部屋にいらっしゃるかな?
返信しようと携帯に意識を集中させたとき、後ろから誰かに腰を掴まれた。
「!!」
がっと振り向き様に右膝を相手の腹に叩き込む。思わず倒れこんで悶絶する謎の人物は、焦ったように「タイム、ターイム!!」と声をあげた。
変質者は藤岡だったのか、とその姿を認めるも、蓮は暫しの逡巡の後に謝罪はしないことにした。元々、セクハラ被害を受けた側なのだし。
「…藤岡さん。一体何を…」
「いやぁ、失敬失敬。流石武道の全国大会チャンピオンだ。腰はほっそいのにしびれるような良い動きするね♡」
はははと笑いながら藤岡は廊下の奥に消えていった。ムッとした顔でそれを見送り、蓮も成実の部屋へと歩いていく。部屋の前まで来たとき、見知った気配の人物に後ろから抱きすくめられた。
「…おかえり」
「ただいま、成実さん」
ずいぶん遅かったなと言いたげな態度に、蓮は苦笑した。
「どこ行ってたんだ?」
「スカイデッキに行って、戻ってきただけですよ。さっきはきちんと宝石が見れなかったから、きちんと見てみたくて」
「……そうか」
きゅっと腹にまわされた腕に力がこもる。後ろから抱きすくめられているため、表情を窺い知ることはできないが、成実はぐりぐりと肩口に顔を埋めた。
「蓮くんは、無防備だから…心配した」
「すいません」
素直に謝る。恐らく、先程スカイデッキで感じた視線は成実のものだろう。先程快斗に握られた繊手に指を絡め、藤岡に掴まれた腰に上書きするように腕をまわす。
「蓮くんには、カッコ悪いとこ見せたくないんだけど…余裕ないな、オレ」
「カッコ悪いとこもカッコいいとこも、全部含めて成実さんでしょう?」
だから、僕は気にしませんよ。
さらさらした黒髪を撫でる。初めて会った時より短くなった髪。声にならない声で悶える成実に、蓮はぎゅうぎゅう抱き締められながら小首をかしげた。
「兎に角、目の届かないところに行くのはやめてくれ…」
「?はい。気を付けます」
自分の発言がどれだけ破壊力があったのかをよく理解しないまま、蓮はふわりと微笑んだ。
昼食が終わり、皆でデザートを食べながら談笑する。蓮と成実は、コナン、灰原、園子、蘭と同席だ。他愛ない話で盛り上がっていると、次郎吉のもとに非通知の着信があった。
「ん?誰じゃ一体…もしもし」
≪飛行機の喫煙室に殺人バクテリアをばら蒔いた≫
「何ッ!?」
何をたわけたことを!!と声を荒らげる次郎吉に、不気味な声は左側のソファーの下を見てみろと言い残し、電話を切る。心配そうな視線を贈る園子たちにいたずら電話だと笑顔をかえし、次郎吉は中森に向き直る。コナンと蓮は、その様子にただならぬものを感じて目を細めた。
喫煙室に殺人バクテリアがばらまかれた
告げられた驚愕の事実に、皆の顔が強張る。いたずらではとの声に、中森は神妙な顔つきで首を振った。本庁にも確認をとり、公表していないにも関わらずアンプルが同じであったことから、本物だと断定されたようだ。
Bデッキの喫煙室を封鎖すると中森が宣言したとき、男の呻き声が響いた。皆が驚いて声の方を向くと、頬と喉、そして両手の平と腕に発疹が出ている藤岡が、ゆらりと皆の方へ歩み寄ってきた。
「た、助けてくれ…」
「ほ、発疹!?」
「まさか、感染したのか!?」
蓮はそっと隣の成実を見上げた。
「あれって皮膚感染はあるんですか?」
「いや、飛沫感染でのみ拡がる筈。…でも、さわらない方が無難だな」
「…分かりました」
蓮はじっと、ふらふら近づいてくる藤岡を見据えた。助けてくれ…お願いだ…。何だか具合が悪いんだ…。と迫ってくる藤岡に、流石の中森も落ち着きなさいと言いながら後ずさることしかできない。
蓮はばっと中森を庇うように前に出ると、肌に触れないようにという成実の言葉を守って高く足を振り上げた。下から思いきり顎を狙い、上段蹴りを放つ。顎を狙うことで脳が揺れ、藤岡は気絶した。アッパーをされたボクサーが昏倒してしまうのと同じ原理だ。
翻筋斗打って倒れこむ藤岡に、なんとも言えない空気が流れる。蓮はすまん、大丈夫かと心配そうに顔をのぞきこむ中森に、大丈夫ですよとやんわり微笑む。その時、きゃぁと小さく悲鳴をあげてウェイトレスの女性が倒れた。…腕と掌に発疹がある。
成実は医療用手袋をはめ、マスクをつけると簡単に発疹の様子を診た。発疹…みた限り、感染症によるものというより、草木かぶれのような症状だが、本当にこれが殺人バクテリアに感染したときの症状なのか?熱も特に無いようだし…
「おい、なにしてんだあんた!」
「あぁ、すいません。オレこう見えても以前医者だったので、ちょっと気になりまして。…みた限り、まだ熱はありません。ただ、発疹の出方がどうも湿疹や蕁麻疹などとは違う、草木かぶれのような症状なのが気にかかります。」
もし草木かぶれと同じように拡がる場合、患部に触れた手で他の体の部分を触るとそこからもかぶれが広がってしまうため、なるべく触れない方がいい。また、着ている衣服に成分が付着しており、なるべく早く服や靴を石鹸で洗い流さないといけない。
成実の診断に蓮はふむ、と頷くと、次郎吉にカッパのようなものと、使い捨てのゴム手袋を用意してくれるよう頼む。あいわかった、と頷くと次郎吉はボディーガードに手配させた。
「どこか二人を隔離できる場所は?」
「それなら、診察室の奥に病室がある。今回、医者は乗せとらんが…そこなら外から鍵をかけられる」
念のためこのダイニングも閉鎖しようと話す中森。子供たちにも知らせなくてはという阿笠の言葉に、コナンの顔色がかわった。ぐいぐいと手を引かれ、しゃがみこむと、コナンはそっと##NAME1##に耳打ちした。
「元太はさっき、あの女性がくしゃみをしたときすぐそばにいたんだ。もしかしたら…!」
「っ!?まずい…今あの子達は恐らく飛行船内部を探検してる筈。…誤魔化しといてあげるよ」
「サンキュ、頼んだ」
「蓮?…おい、コナンはどこだ?」
「コナンくんなら、子供たちのところに行ってもらったよ。だから、部屋に戻ってるんじゃないかな。喫煙室のことを伝えてもらおうと思って頼んだんだ」
カッパと手袋で防備した警官たちに運ばれていく藤岡とウェイトレスを横目に、蓮はしれっと嘘をつく。9割の真実と1割の嘘。お前が頼んだのならなと納得した様子の皆に、人知れず息をついた。
成実はそんな蓮の髪を優しく撫でると、ふっと笑みを浮かべる。キョトンとした様子でそれを見返した蓮は、つられてふわりと微笑んだ。