月光殺人事件
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夜道を小五郎、蓮、蘭、コナンと成実の5人であるく。成実はにこにこ笑いながら、コナンと蓮に視線を向けた。
「ビックリしたわよ、コナンくん!蓮くん!さっきの名推理!」
「ふふっでしゃばったことをしてしまって、すいません。僕もこの子も探偵ごっこが好きなんですよ」
蓮はそう言って苦笑した。…やり過ぎた。ちょっと熱くなってしまったなと反省する。これでは探や新一を止められないじゃないか。
説得力があって皆すごいって!と褒める成実に、コナンは焦ったように小五郎の真似だと言い募る。小五郎はへらっと笑いながら、コナンの髪をグシャグシャ撫で、私に比べりゃこんなのヒヨッ子だと笑った。
早く事件を解決してくれと言いながら帰っていった成実を見ながら、蓮とコナンはぼんやりと考えた。この事件には不可解な点が多すぎる。
何故、犯人は川島さんを溺死させたあと、そのまま逃げずにわざわざ死体を部屋に運んだのか?「月光」の曲と事件の関係は?現場に残された譜面の意味は?そして殺人を予告したあの手紙…
(まてよ…確かあの文面には、「消え始める」って…)
気づいてしまった恐ろしい事実に、コナンはひゅっと息を飲んだ。始めるってことは、これで終わりじゃないってこと…
(まさか、この殺人劇がまだ続くってことか!?)
「えぇっ!?殺人を予告してただと~~!?」
小五郎はコナンの言葉に驚愕の声をあげた。ばっと一週間前に届いた手紙を取り出して確認する。コナンが言うには、影が消えるというのは光に包まれるということ。光とは、先程川島さんが殺された公民館で流れていた曲、「月光」のことだという。
12年前に焼身自殺をしたピアニストの麻生氏が炎の中で弾いていた曲も、2年前に心臓発作で死んだ、前村長の亀山氏が死ぬ直前まで弾いていたのも、ベートーベンピアノソナタ「月光」…
「それが再び流れるってことは、再び人が死ぬってことか!?」
小五郎の言葉に、蓮はハッとしたように息を飲んだ。違う、それだけでは終わらないんだ…!
「っ!待って、父さん…確かその手紙には「消え始める」って…」
「ってことはまさか、まだ殺人は終わってないってことか!?」
小五郎は手紙をぐしゃりと握り潰した。間違いない、これはこの名探偵毛利小五郎に対する犯人の挑戦状だ!!
「お前らは旅館に行ってろ!オレはピアノのある公民館に戻る!」
「こ、公民館に!?」
いうが早いか駆け出した小五郎に、蘭は困惑した声をあげる。蓮はぽんと蘭の肩を叩いて首を横に振った。父さんは、ああなったら聞かないから…
「旅館には後で連絡すればいいよ。なんなら僕が電話しとくから。…それに、」
行きたくてうずうずしてるの、父さんだけじゃないみたいだよ?
「ボクたちも行こうよ!公民館に!」
ほら、ね。
険しい顔で小五郎の消えた方向をじっと見据える幼馴染に、蓮はクスクスと小さく笑った。
「…ったく…正気とは思えんのー。死体と一緒にこの部屋で一晩明かすとは…。しかも子供連れで」
お前らは来るなっていったろ?だってコナンくんが…と言い合う蘭と小五郎を尻目に、蓮はぐるりと辺りを見渡した。と、老警官にすっと手をとられてすっとんきょうな声をあげる。
「ぅえ!?」
「こーんな天女様みたいなべっぴんさんでも、死体と一緒にいるのを選ぶんじゃなー…いやー変わった人じゃのー」
「え、あ、あはは…」
平田さんといい、この警官といい、今日はよく手を握られる日だなぁなんて考えていると、小五郎がごほんと咳払いをして、手を引き剥がした。コナンも面白くなさそうな顔で警官を睨み付けている。
「それより誰ですか?死体を勝手に動かしたのは?」
「あぁ…ワシじゃ。あんなカッコじゃ仏さんがかわいそーじゃったからのー」
ナンマンダブナンマンダブなんて手を合わせる警官に、蓮は嘆息する。 まだきちんとした現場検証もしていないのに…。この方、本当に警官で大丈夫なんだろうか…
警官が懐から取り出した譜面を受け取って、蓮はピアノへと向かった。蘭はその譜面をのぞきこんで、あらと声をあげた。
「これ「月光」の譜面よ」
「「げ、「月光」の!?」」
「…………えっと、そっからだった?」
譜面を読んでなんの曲か当てるのは、やはりピアノ経験者じゃないとダメだったのか。蘭もわかるだろうしと思って、説明するのを忘れていた。…まぁ、いいか。弾けば分かる。
「この譜面、おかしいんだよ。…いい?聞いててね?」
蓮は静かに弾き始めた。物悲しく美しい旋律が流れるように紡ぎ出される。…と、それが途中に差し掛かったとき。
ピンダンッビンッ
「ここ。譜面通り弾くとこうなっちゃうんだ。本来ここはこんな風にはなってない。それにね、ここの四段目のおかしな譜面、曲としては破綻してるんだよ」
言うなれば作曲のルールに乗っ取ってないとでも言おうか。これは4/4拍子の曲。つまり四分音符が一小節間に4個入るように作らなくてはいけない。…だが、この譜面の一小節目は、何度数えても一拍分足りないのだ。
「だからこれは、曲じゃない。…もしかしたら」
「か、川島さんが死ぬ間際に残した、ダイイングメッセージ…。だとすると、このあと犯人が取り返しに来る可能性も――」
小五郎が言いかけたとき、ギィッと後ろの扉が開いた。犯人かと全員が息を殺して扉を見つめる。
「あのー、旅館に電話したらこちらだと聞いたんですけど…」
「な、成実先生!?」
「お夜食持ってきたんですけど、お邪魔でした?」
風呂敷包を軽く持ち上げる成実に、四人は腹の音で漸く夕飯を食べていないのを思い出した。おにぎりと漬物を頬張りながら、他愛ない話に花を咲かせる。
「成実先生ってこの島の人じゃないんだー…」
「えぇ。週末には両親のいる東京に帰っちゃう、バイトの医者みたいなもんです。私、前から憧れてたんです。自然に囲まれた小さな島で医者をやるのが…だからこの島に決めたんです!」
「のどかでとても良い島ですからね」
「でしょう?もう2年になるんですよ、この島に通い始めて…」
蘭と蓮が代わる代わる相槌をうって話を続ける。コナンは、二人のコミュニケーション能力の高さに肩を竦めた。警戒心を抱かせず、自然と仲良くなって相手に話をさせる。こればっかりは、敵わないな。 特に蓮には。
小五郎は、2年前という単語を聞いて、真面目な顔で成実に向き直った。前村長の亀山氏の死因が本当に心臓発作だったのかと聞けば、成実はえぇ、と頷く。
「亀山さんは前から心臓を病んでらしたみたいで…」
ただ、顔はかなりひきつった様子で、まるで何か恐ろしいものを見たような…
「ねぇ、そのとき何か変わったこと無かった?」
「さぁ…2年も前のことだから。…そういえば、亀山さんが亡くなったのもこの部屋でしたが、窓がひとつあいていたとおもいます」
窓が開いていた…これが他殺であれば犯人が逃げたと断定できるのに、亀山氏の死因は心臓発作。だけどなんだろう、この違和感は。
老警官は、東京から来た刑事が開いた窓は誰かが閉め忘れたんだろうと言っていた、と話した。ピアノに関しても、亀山氏は子供の頃少しだけピアノ教室に通っていたと聞いたが、弾いているところは一度も見たことがないと。
「そうなると…亀山さんの遺体のそばで誰かが弾いていて、遺体が発見される直前に窓から逃げたってことかな…?」
何故、そんなことを…?と蓮は考え込む。ぐるぐる考え込んで坩堝に填まってしまったらしい。…一旦思考をストップさせよう。
開いていた窓とは?という小五郎の言葉に、確か…と辺りをキョロキョロ見渡した成実は、ひとつの窓の前にたってこの窓だと指し示した。
示された窓。その夜の帳に包まれた漆黒の闇に、ゆらりと人影が映っていて、一同息を飲んだ。
「きゃぁぁぁあ!!!!」
成実の悲鳴に、謎の影は舌打ちしながら逃げていく。
「ヤロォ逃がすか!!!!」
小五郎とコナンもその後を追って窓から飛び出した。闇のなかを駆けるも、辺りは竹林。すっかり姿を見失ってしまった。
「オレの思った通りだ。奴め、この譜面を取り戻しに来やがった…」
小五郎は悔しげに歯噛みした。なんとしてでも、この暗号を解いて犯人を見つけなくては。
「よーし、今夜はこの公民館で寝ずの番だ!!!!」