月光殺人事件
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「の、呪いだ…これはあのピアノの呪いだぁあ!!」
平田が悲鳴ににた声をあげた。蓮はピアノのせいにされたことに少しムッとしたような表情をのぞかせる。ピアノに謝れとか思ってしまう辺り、蓮も中々な音楽バカである。
小五郎は呪いだと騒ぐ平田に、何が呪いだと鼻を鳴らした。誰もいないのに鳴り続けるピアノの音源はテープレコーダー。呪いでも幽霊でもない。
「つまりこれは、前に起こった二つの事件に見立てて誰かが仕組んだ殺人事件なんだよ!!」
「さ、殺人…!?」
思いもよらないとばかりにざわめく人々。蓮はそんな人々を尻目に、川島の回りへと続く床の水のあとを辿った。水はグランドピアノのわきを通り、外へと通じるドアへ続いている。扉の外はすぐ海が広がっていて、恐らくここから濡れた川島を引きずってきたのだろう。
「死斑の状態や、死後硬直の範囲によると、死亡推定時刻は30分~1時間前。目には溢血点が認められ、死因は窒息死と思われるが、顔にむくみはなく首を絞めた跡もない。さらに口や鼻から微細な泡沫液が認められることから、恐らく川島さんは溺死させられたものと…」
「で、溺死ですか?」
「はい。解剖して調べてみないとハッキリとはわかりませんが、多分…」
「僕も成実先生のいう通りだと思うな」
蓮は成実の検死結果に頷いた。蓮?と訝しげな視線を送る小五郎を一瞥して窓の外をみる。
「ほら、窓の外。上着が海に浮かんでいるのが見えるでしょ?あれは恐らく、殺された川島さんのもの。多分犯人はあそこで川島さんを溺死させて、部屋に運んだんだよ」
ね?コナンくん。とやんわり微笑む蓮に、コナンもうんっ!と元気よく首肯く。
「蓮兄ちゃんが言ってた証拠に、このドアからなにかを引きずった跡が床に残ってるし、川島さんの背中には泥や砂がついてる」
「そして、海に通じるこのドアや、この部屋すべての窓に内側から鍵がかかっていた点と、「月光」のテープの頭、数分間が空白になっていたことから考えて」
恐らく犯人は、今日ここで行われた法事の最中に川島さんを海に連れ出し溺死させ、死体をこの部屋にはこんだあとに鍵を閉め、テープレコーダーのスイッチを入れてこの部屋から廊下に出たということ…
「だよね?父さん」
「お、おう…そうだな」
小五郎は蓮とコナンの推理力に舌を巻いた。よくもまぁこの短時間でそこまで見つけられるものだ。一体誰に似たのか…俺か。
なんて親バカモードにはいってしまうのは置いておいて、小五郎は状況をまとめる。この部屋のドアに鍵がかかっていたとすると、この公民館の玄関には1時間前から自分たちがいたわけだから、必然的に犯人はこの部屋を出たあと、再び法事の席に戻った可能性が高い。
そう、騒ぎに乗じて外に逃げてなければ、まだこの中に犯人があるかもしれないのだ。
「川島さんが法事の部屋から出たのを見た方は?」
「あ、あぁワシだ」
黒岩が声をあげた。彼は、川島さんがトイレに行くと言って席を立ったのに中々帰ってこないので心配していたらしい。ちなみに、川島さんのあとに部屋から出た成実さんは、不審人物などは見かけていないらしい。
では川島さんに恨みがあるという話は…というところまで話が飛べば、村長選に立候補した黒岩と清水が互いに怪しいと罵り合う。蓮はポケットから白い手袋を取り出すと、それをはめてピアノのまわりを調べ始めた。
「僕は、犯人は男の人だと思うなぁ」
「えっ?」
全員が驚いたように蓮を見る。蓮はその視線に気づき、不思議そうにこてんと小首を傾げた。
「だって、亡くなった川島さんはかなり大柄な方でしょう?背中には泥や砂がついてますから、引きずったことは確かでしょうが、あの方を短時間で海で溺死させて運んでくるなんて、普通の女性にはできないと思いますよ。…分からないのは、何故危険をおかしてまでこの部屋に運んだのか…」
(……何だかすっかり、あのキザな探偵ボウズ共ににてきちまったなぁ)
コナンと二人でちょこちょこ動き回って証拠を集めてくる蓮に、小五郎は小さくため息をついた。…願わくば、あのくそ生意気な態度だけは似ませんように。
「このピアノ、いつからここに?」
「あ、はい。15年前に麻生さんがこの公民館に寄贈されてからずっとこの部屋に…」
「あ、あの麻生さんですか?」
「はい…。名前もちゃんと鍵盤の蓋のところに…」
蓮は遺体に当たらないようにそっと蓋を引いた。すると、ふたとピアノ本体の間から一枚の紙がひらりと出てきた。この譜面は…月光?いや、四段目…12小節目以降は違う。…なんだこれは?
「どうした、蓮」
「なにか見つけたの!?蓮兄ちゃん!」
「う、うん。譜面が…」
「譜面」と言った瞬間、その場の空気が凍りついた。小五郎に手渡すと、彼も昼間はこんなものなかったのにと眉をひそめる。
「う…うわあぁあぁぁあ!!!!」
「えっ?」
突然一人の男が悲鳴をあげて部屋を飛び出していった。平田曰く、西本という男だ。なんでも昔は羽振りがよくて、酒と女と賭博に大枚をはたいていたらしいが、2年前に前村長の亀山が死んで以来、なにかに怯えてあまり外出しなくなったらしい。
「ほう…2年前の事件から」
「確か村長は彼と幼馴染でしたよね?」
「あ、あぁ。そ、そうだったかな…」
顔色が悪い。冷や汗をだらだら流し、やけに歯切れの悪い返事をする黒岩に、蓮は目を細めた。…何かあるな?
追及しようと口を開いたとき、警官を連れた蘭が飛び込んできた。どうやら電話が通じなくて走って呼んできたらしい。…あの方向音痴の蘭が。
(よく帰ってこれたなぁ…あ、お巡りさんいるから平気か)
事件の概要を説明し、全員公民館の前に集められた。事情聴取は夜が明けてからだという小五郎に、ぞろぞろと帰っていく島民たちは不満げだ。何が殺人事件だ、あれは麻生さんのたたりじゃ、なんて言って恐れるものもいる。