月光殺人事件
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霧に包まれた海上を行く一隻の船
「―――ったくよーー…世間じゃゴールデンウィークだっていうのに…なんでこの名探偵毛利小五郎が、わざわざあんな島に出向かなきゃいけねーんだ?」
こんな手紙のせいでよーとぼやきながら、小五郎は一枚の手紙を取り出した。『次の満月の夜 月影島で再び影が消え始める 調査されたし 麻生圭二』とかかれている謎の手紙は、新聞の切り抜きで作られており、まるで脅迫状のようで気味が悪い。
一昨日、かかってきた月影島の麻生圭二を名乗る男からの電話。満月まであと二日、既に依頼料50万を振り込んだ。必ずこいと言う男に、小五郎は自分勝手な依頼人だと目を眇めた。蘭はにこにこ楽しそうに笑いながら蓮の腕に腕を絡ませる。
「でもいいじゃない。お陰で伊豆沖の小島でのんびりできるんだから!ねー蓮。コナンくん?」
「うん!」
「ふふっそうだね。…でも」
蓮は蘭の言葉に困ったように微笑んだ。霧の向こうに島が見える。無数の烏が飛び立ち、ゆらりと霧に影が揺れる、なんとも不気味な雰囲気に、蓮は柳眉を下げた。
「ゆっくり、できるかなぁ…あの島…」
月影島の村役場へ行った蓮たちは、手紙を送ってきた麻生圭二という人について、役場職員に尋ねるも住民票にはいないと首をかしげられていた。受付をしていた新米職員は先月この島に来たばかりらしく、あまり詳しくは分からないと言う。その時、後ろから先輩職員がひょっこり顔を出した。
「おい、どーした?」
「いえね、この方が島の住人から依頼を受けて来たっておっしゃるんですけど…」
「依頼?」
「はい、麻生圭二さんっていう方から…」
「!?あ、麻生圭二だとぉ~~!?」
怪訝そうな顔をしていた先輩職員の顔が凍りついた。その声を聞いた住民たちの顔も強張る。辺りがざわざわし始め、小五郎たちは困惑したように、え?と声を漏らした。
「そ、そんなはずはない…だって彼は10年以上前に…死んでいるんですから…」
「「「「えぇっ!?」」」」
驚愕する四人に、震える声で職員は語り始めた。―――12年前の惨劇を
12年前の満月の夜、この島の出身で有名なピアニストだった彼が、村の公民館で演奏会をやった後、突然家族をつれて家に閉じ籠り火を放った。彼等を助けに行った者達が言うに、彼は妻と娘を刃物で惨殺した後、燃え盛る炎の中で何かにとりつかれたように、何度も同じ曲を自宅のピアノで弾き続けていたらしい。
――ベートーベンのピアノソナタ「月光」を
蓮はその話に目を細めた。麻生圭二、ピアニスト…確かに、名前だけなら知っている。音楽を志す者なら誰もがその名を耳にするだろう有名なピアニストだった。忽然と姿を消し、音楽界では誰もその行方を知らないという…そうか、12年も前にそんなことが…
恐ろしい話を聞き、そそくさと町役場から退散してきた小五郎たちは、行く宛もなく島の中をぶらぶら散策していた。
「ウーム…死者からの手紙か。質の悪いイタズラだぜ」
手紙を見ながらどうしたものかと悩む小五郎に、蓮はおっとりと小首を傾げた。悪戯…本当にそうだろうか。
「そうかな…?僕はそうとも限らないと思うけど。ね?コナンくん?」
「うん。だって依頼料はちゃんと振り込まれてるし、手紙の消印はこの月影島になってる。きっとこの島の誰かが、おじさんにその麻生圭二って人のこと調べてほしいんだよ!」
ねーっと息ぴったりの二人に、小五郎はいつの間にそんなに仲良くなったのかと首を捻る。蘭は二人の意見にうんうんと頷いた。
「二人の言う通りね!兎に角麻生さんの友人だったっていう、この島の村長さんに彼のこと聞いてみよ!何か分かるかもしれないよ!」
「そ、そうだな」
小五郎は地図を開いて村長は公民館に居るから、公民館は…と探し始める。蓮はそれを尻目にぐるりと辺りを見渡すと、患者の少年を見送っている診療所の女医を見つけた。
「あ、ねぇ蘭。あの女医さんに聞いてみようか」
「あら!そうね!あのーすいません…公民館ってどこですか?」
「あ、はい…あの角を曲がった突き当たりに…」
そこまで言いかけ、女医はあっと声をあげた。もしかして本土から来た方?と聞く女医に、東京からだと答えると、自分の実家も東京なのだと嬉しそうに言う。
「でもこの島、東京と違って素敵でしょ?空気は澄んでるし、とっても静かだし―――」
《島の漁場を守るために、この清水正人に清き一票を!!!!》
大音量で通りすぎる選挙カーに皆で固まる。蓮は小さく苦笑した。
「選挙近いんですね」
「えぇ、もうすぐ村長選挙で…。いつもは静かな島なんですけど…」
今期の村長選は、立候補者が3人。漁民代表で先程選挙カーで通りすぎた清水正人。最近評判を下げている現村長の黒岩辰次。そして村一番の資産家である川島秀夫。
「うちの患者さん達の話だと、どうやら川島さんに決まりそうだと…」
「いや看護婦さん。別に私達、村長選に興味は…」
「私は医者の浅井成実!ちゃんと医師免許持ってます!」
「あ、ドクターでしたか…」
「あなたたち、公民館に行くんなら、今言った3人にも会えちゃうわね!」
「は?」
キョトンとする小五郎たちに、成実は今夜前の村長、亀山勇の三回忌の法事をやるのだといった。法事…ではきちんとお会いできるのかも難しいのだろうか、と考えて蓮はそっとため息をついた。