ルパン三世vs名探偵コナン
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憔悴しきった様子のミラに蓮は心配そうに柳眉を下げると、そっとメイドたちに水を頼む。
「ミラ様…」
ミラは差し出されたグラスに、ひきつった悲鳴をあげて払い除けた。飛び散る水と転がるグラスに、ハッとする。ご安心ください、これは私達が用意したお水ですと安心させるように微笑むメイドに、いたたまれなくなってミラは目を伏せた。
蓮はいつも、なにも言わずに側にいてくれる。私が何を言っても優しく笑って叶えてくれる。歌を歌って、楽器を弾いて、お話を教えて、異国語の本を読み聞かせて、私を守って…そう、本当に私の我が儘を二つ返事で。
なんでも許してくれる、その優しさに今は縋るしかない自分がひどく惨めで、恥ずかしかった。
「もういい。下がって。…蓮も、お願い。一人にして!」
「…はい。ミラ様」
寂しそうに、美しく笑うその顔を見ることができなくて、ミラは俯いたままぎゅっと手を握りしめた。
「我々は外に居ます。落ち着かれたら、お声をお掛けください」
SPのリーダーはパタンと扉を閉めた。次いで、憂い気な顔で佇む蓮に向き直る。
「蓮様、キース様がお呼びです。会議室へ来るようにと」
「畏まりました。只今参ります」
ここはよろしくお願い致しますと、SPとメイドに深々と頭を下げると蓮はぱたぱたと会議室へ降りていった。
「毒殺しようとした男は、金で雇われただけだと言っています。ただの悪戯で、中身は下剤と聞かされていたと。今のところは素直に喋っていますが…」
「頼んだ相手のことは?」
「今日はじめてあった男で、外国人だったそうです」
高木の報告に、まったく…と目暮は嘆息した。僅かな金で犯罪に手を染めるとは…まったくもって愚かしい。
反王女グループなる過激な分子もいる状況で、本当に守りきれるのかと言えば、キースは相も変わらず窓の外に視線を向け、視線を合わせようとせずに警察に要請することは何もないとはっきり言った。
コンコンッ
「妃 蓮、只今参りました」
「お入りください」
そっと扉を開け、流れるように入ってきた蓮は、テーブルについていたメンバーを見て僅かに瞠目した。目暮警部に高木刑事。父にコナン…嗚呼、面倒な予感しかしない。
「蓮!お前どういうことだ!?こんなところで何してる!?」
「父さん…落ち着いて。僕はミラ様の…」
「蓮様にはミラ様のボディーガードをしていただいております」
コナンはキースの「蓮様」という呼び方に眉を上げた。前々から思っていたが、蓮は一体どのような繋がりがあるのだろうか?
「……その、蓮様って言うのはなんで?」
「蓮様は、王家の方々ととても親密な、我が国にとって大切なお客様です。…ジル王子がご存命の時は、王子の戴冠式後、御結婚をと女王始めミラ王女、そして王子本人からも望まれておりました」
「けっ」
「「「結婚んん!!!!????」」」
「今となっては過去の話です。僕はミラ様のボディーガードを仰せ付かり、今ここにいます。」
そんなことより、お話を進めてください。
蓮の表情は固い。それはそうか。護衛対象であり、親密な付き合いのあった王女が狙われたのだから。
目暮はコナンに向き直った。何故コナンや蓮はソムリエが偽物だと分かったのかと言う目暮に、コナンはへらりと笑う。蓮も困ったように微笑んだ。…これ、不自然に思われないように言わないと、コナンが子供らしくないと変に思われてしまうのでは…?
「タバコの臭いがしたんだ~。一流のソムリエは煙草を吸わないって聞いたから、変だなぁと思って!」
「まぁ、中には煙草を吸うソムリエもいるかも知れねぇが、少なくともこれから王女にワインを出すってときには吸わねぇだろうなぁ」
「逆に、犯罪をおかすものの中には煙草で気を落ち着けるものも多い。お手柄だったな、コナンくん、蓮くん」
えへへ~とコナンと顔を見合わせて笑う。可愛らしく笑う二人に、みなほっこりとした気分になる。その時、その場に似つかわしくないジリリリリ…という火災報知器のけたたましい音がした。
蓮はばっと飛び出し、部屋へと飛び込む。
「ミラ様…っ」
「蓮様!ミラ様が何処にもいらっしゃいません…!」
蓮はくらりと目眩を感じた。ふらつく蓮を、キースは恋人を抱くように優しく支える。非常線を張りましょう!と意気込む警察に、キースは必要ないとキツい口調で言い放った。
キースの通信機に、王女を発見したと連絡が入る。だが、その直後。取り逃がしてしまったと連絡が入り、キースは苛立たしげに舌打ちした。目暮はすぐに非常線を張るように指示を出す。
非常線非常線~♪なんて楽しそうな高木を尻目に、蓮はきゅっと手を握りしめ、唇を噛んだ。ぎり…と噛まれた唇から血が流れ落ちる。これ以上、知り合いが死ぬのを見たくない。
「蓮様」
キースはそっと蓮の細い顎を持ち上げた。きゅっと指で血を拭うと、ペロリとそれを一なめして見せる。
「血が出ていますよ」
「っキース様…!」
「ほら、その顔の方が可愛らしい」
恋慕を抱かれているのだと、とうの昔に知っていた。でも、こんなときにこのような、恋人に触れるかのような接触は不謹慎に思えて、蓮はそっと顔をそらした。
その時、蓮の携帯が鳴った。相手はイタリア人の情報屋。流暢なイタリア語で話始めた蓮に、キースは舌を巻いた。この人の才能にはいつも驚かされる。
<こんばんは、エドゥアルド。なにか?>
<やぁ、久しぶり。また君の可愛い声を聞けて嬉しいよ。…と、君の妹さんが、ドレスの妹さんそっくりの女の子…王女様かな?にトイレに連れ込まれて……あ、妹さんの制服着てる王女様が逃げたよ。>
<!!本当!?>
<あぁ。あ、今バイクの美人なおねーさんがかっさらってった>
「蘭とミラ様が入れ替わっているようです。ミラ様はバイクの女性に連れ去られました」
「そうですか。…保護しなくてはいけませんね」
保護だと?蓮は柳眉を寄せた。…なぜ、王女が誘拐されたと聞いても冷静なのか。……まさか、その女性とぐるなのか?ならば、保護と言うのは…
蘭を身代わりにする気なのだと、蓮は察してしまった。聡明すぎる麗人に、キースはそっとその頬を撫でるも、蓮はその手をパシンと払う。
「…貴方の強引なやり方に、これほどやるせない思いを抱いたことはありません」
「それでも、怒りは無いと」
「…ミラ様を大事に思っているのは貴方だけではありませんから」
「王女は、側で守り続けた貴方を裏切り逃走しました。…それでも、まだお気持ちは変わらないと」
「……あの方は、帰ってきます。だから、一日普通の女の子として自由な時間を過ごさせてやりたいと考えていたんでしょう?」
帰ってこないとわかっている小鳥をわざわざ逃がすほど、この男は愚かではない。
「僕は先にヴェスパニアに行ってお待ちしています。…蘭に何かあったら、僕は貴殿方を許せませんから」
かつんかつんと気高い靴音をたてて、蓮は会議室を出ていく。その華奢な背中を、キースはじっと見つめていた。