瞳の中の暗殺者
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トロピカルランドの、展望フロア。
「わぁ…!ねぇ見て見て!恐竜がいるよっ…て、あれ?」
蓮は振り返り、一緒に来た妹と幼馴染の姿が見えないことに気づいて、困惑したように柳眉を下げた。僕、もしかして迷子?置いてかれちゃった…?どうしよう、ここにいた方がいいんだろうか…
「…待っていよう」
することもなく手持ち無沙汰で、とりあえずまた望遠鏡を覗きこんでみる。と、不意に近づく人影が
「ひぁっ!?」
「っははwほら!のど渇いたろ?」
ひんやりとした感触に肩を跳ねあげれば、悪戯が成功した子供のような笑顔の新一が立っていた。差し出されるコーラとその顔を交互に見て、蓮は拗ねたように頬を膨らませた。
「ありがとう…」
「拗ねんなって。そんなに吃驚したのか?」
「…………」
恨めしそうに上目使いで睨む顔すら、どこか幼げで可愛らしい。本人としては吃驚して変な声を出したと恥じているんだろうが、ただ可愛らしいだけだといつになれば理解してもらえるのだろうか。
小さくふくれて見せるその頬を指で押しながら、新一は無意識に口許を緩ませた。端からみればむくれる彼女に、そんなところも可愛らしいから仕方ないなぁと構い倒す彼氏の図だ。……両方男だというのは置いておいて、いっこうに蓮は新一の気持ちに気づいていないけれど。
知らぬは本人ばかりなりとは、よく言ったものである。
「そんなことより、蘭は?一緒じゃないの?」
「蘭なら広場にいるぜ。…っと、いけねっ!三分前だ!」
「えっふわ…!?」
突然腕を捕まれて、新一が走り出すままに連れていかれる。トロピカルランド中央の、広場の真ん中に連れてこられ、蓮は不思議そうな顔で小首を傾げた。
「よーし、間に合った…っ」
「?ここ、広場だよね?どうかしたの?」
「まぁ見てろって!10、9、8、」
時計を見ながら、新一のカウントダウンが始まる。蓮はきょろきょろと辺りを見渡した。
3、2、
「1!」
新一の声と共に、ぶわっと噴水の水が上がった。水の柱が上がったと思えば、水の壁が吹き上がり、二人を閉じ込める。水の壁を内側から見る、神秘的な光景に蓮は目を輝かせた。
「わぁ…!」
「ここ、二時間おきに噴水が出るんだ。…おまえ、こういうの好きだろ」
「うん!ありがとう新一っ」
「ま、まぁ…柔道の全国大会で優勝したお前へのプレゼントだ。ありがたく受け取っとけ!」
ぶっきらぼうな言い方だが、頬が赤く染まっている。頬を上気させ、嬉しそうに声をあげていた蓮は、くすくすと笑みをこぼした。
「ふふっ変なの。偉そうに…」
「ニヒヒツ」
笑い合う二人は、ふと上を見上げて自然と感嘆の声をあげた。虹がかかっている。乾杯しよう、と促されてぷしゅっと缶を開けると、途端に飛び出すコーラ。二人はお互いに顔を見合わせて笑いだした。
カシャッ
「うふふっ♡上手くいったみたいね!」
「蘭!」
「あれ、蓮顔濡れてるよ?コーラ?もー!何してるのよ新一」
三人で何気ないことに笑い合う。このときは、こんな日がずっと続くと思っていたんだ……
艶のある栗色の髪。白磁の肌。烟るような睫毛に彩られた空色の瞳。すっと通った鼻筋に、薄桃色の形のよい唇。母似の中性的、むしろ女性的でさえある繊細な美貌。華奢な体躯にたおやかな腕、しなやかで長い足。
白い清潔感のあるシャツに、暗い緑のチェックのベスト。藍色のスラックスを身に纏うすらりとした長い足に、同じ色ののジャケットを羽織る麗人に道行く人は皆振りかえる。絶えず自身に注がれる熱い視線に、青年は困惑したように柳眉を下げた。
「…母さん。僕は大分浮いてるんじゃ…」
「あら。そんなことないわよ。今日も素敵よ、蓮」
「っ…母さん…っ///」
親バカなんだから…とはにかむ息子に、藤色のスーツに身を包んだ美しい女性は満足げに笑った。蓮と呼ばれた麗人はついと前をみやり、相好を崩す。
「父さんと蘭も来てたんだ。園子とコナン君も一緒か…」
「あらほんと…」
母…英理は流れるように歩き、別居中の夫の後ろにたつ。蓮はちょっかいをかけにいく母の後ろ姿を苦笑しながら追いかけた。
「相変わらず、ぶっきらぼうな字ね…」
「え!?」
「お母さん!?蓮!!」
「久しぶり。父さん。…コナン君も」
腕にじゃれてくる片割れの頭を優しく撫でながら、蓮は微笑む。園子はキョトンとしながら蓮の顔をまじまじと見た。
「会長はどうしてここに?」
「うーん…学校の外でその呼び方はよしてくれないかな…?園子。僕は母さんの付き添いだよ。新婦の沙羅さんとは何度かお会いしてるし」
皆可愛い恰好してるね、とふわりと微笑む。黙っていればクールビューティーで、むしろ冷たい印象さえあるのだが、本人はくるくるとよく表情の変わる可愛らしい青年である。
コナンの頭をぽんぽんとなで、蓮は母について広間へと歩いていく。コナンは、撫でられたところを押さえてかぁっと顔を赤くするも、照れ隠しにふいっとそっぽを向いた。
「…新一。警察官射殺事件に巻き込まれたんだって?」
「あぁ…奈良沢って刑事が公衆電話で誰かと話してたんだが、電話ボックスから出ると同時に至近距離から撃たれたんだ」
探偵団の皆と信号待ちをしているときにであったその刑事は、グレーのコートに黒い傘をさした長身の人物に襲われたのだ。銃声がしなかったところを見ると、サイレンサー付きの銃を使ったんだろう。死に際に奈良沢刑事は、左胸を掴んで亡くなった。
「今のところ、犯人は左利きだということしかまだ掴めていないがな。つーかオメーは今まで何処にいたんだよ。いきなり電話繋がんなくなるし…」
「あれ?ウィーンだよ。コンクール行ってたんだけど…言わなかったっけ?まぁ、いいや。ちょっと気になる情報手に入れたんだ。…聞きたい?」
「何っ!?何がわかったんだ!?ていうかまた何処から…」
「ふふ、僕には優しい“お友達”が沢山いるからね。…んー、やっぱり内緒♡」
悪戯っ子のように笑う蓮に思わず赤面するが、照れ隠しに苛立ったように舌打ちする。蓮は困ったように微笑んだ。
「今の情報社会は恐ろしいね。全体がつかめなくてもパズルのピースはいっぱい転がってるんだから。何処で誰が見てるかわからない…」
「そのピースを繋ぎ合わせんのが探偵の仕事だろ。…ってか、各国の情報屋と“お友だち”してるお前が恐ろしいって…」
「んー。だってバーのバイトしてたら自然と仲良くなっちゃうんだよ。それにみんな職業はあれだけど優しくて面白い人ばっかりだよ?」
それは見目麗しく教養深いジャパニーズということで目をつけられてるのでは…という言葉は飲み込むことにした。それでなくとも人タラシなのだ。警察関係者に高校生探偵、FBIにCIA、はたまた各国の情報屋から怪盗キッドと、様々な人を無意識に惹き付けてやまない。
お高くとまってそうな冷たく見える美貌と、しっかりものだが天然で可愛らしい性格のギャップに惹かれるもの。独学で身につけた13か国語もの言葉を話せる能力や、音楽から文学などにまで精通するその教養の深さに惹かれるもの。
蘭以上の格闘技の腕を持つとはいえ、争い事が嫌いでおっとりとしている幼馴染に、コナンは内心ため息をついた。ちゃんと守りきらねぇと、いつ誰に横から掻っ攫われるかわかったもんじゃない…
「あ、蘭たちは荷物置きに行くのかな?じゃあ、僕は父さんたちと先に行ってるね」
はいはい、とひらひら手を振る幼馴染みに、蓮はおっとりと微笑んだ。