純黒の悪夢
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その頃、コナンは瓦礫と化した観覧車の中で、必死に赤井と安室を探していた。
「赤井さーん!!安室さーん!!」
「こっちだ」
コナンは赤井の声の方へと駆け寄った。怪我はないかと聞く赤井に、うん、と頷くと身を隠す。まだヘリのローター音がする。
「蓮君はどうした」
「蓮兄ちゃんなら、公安のおじさんを連れて外に逃げたみたい。途中ではぐれちゃったけど…」
赤井はその言葉にふむ、と独り言ちる。蓮の身体能力は組織の人間顔負けだ。恐らく外に出ることは造作もないだろう。ただ、怪我人を連れてというのがひっかかる。
(公安を連れて、ということは相手は意識を失っているか、足を怪我しているか…なんにせよ動けない可能性が高い。つまり大人の男一人を背負って逃げたということか。…無理をしていないといいが)
「安室さんは?」
「分からん。だが直接的な攻撃を仕掛けてきたということは、爆弾の解除に成功したということだ。」
後は、奴等をどうやって…
その時、そのライフルは飾りですか!!と赤井に喧嘩を売る声が飛んできた。言わずもがな、安室だ。コナンや赤井よりもはるか上のフロアからこちらを見下ろし、反撃の方法は無いのかと声を張り上げる。
彼自身、焦って余裕が無くなってきているのだ。コナンを探しに行ったはずの蓮の姿がどこにもない。下を見ても憎きFBIの姿とコナンの姿は確認できるのに、かの想い人は影も形もないのだ。呼び掛けにも答えないようだし、まさか…と最悪の予想が脳裏をよぎる。
(いや、そんなことはない。彼なら絶対に大丈夫)
あの子は、黙って何処かに消えてしまうような子ではないから。きっとうまく逃げ切ったか、隠れるかしているんだろう。頭を振って悪い考えを振り払い、赤井に視線を向ける。
「あるにはあるが、暗視スコープがお釈迦になってしまって、使えるのは予備で持っていた通常のこのスコープのみ。これでは鉄の闇夜の烏は落とせんよ」
「姿が見えれば落とせる?」
「あぁ」
ローターの結合部を狙えば恐らく…と赤井は天を仰ぐ。ローターの結合部を狙うなら、正面からは無理だ。なんとかヤツの体勢を崩し、なおかつローター周辺を5秒照らすことができれば…
コナンはボール射出ベルトに触れた。照らすことは出来そうだが、大体の形が分からないとローター周辺をピンポイントで照らすのは無理だ。
再び銃撃が開始された。まさか、組織は車軸を爆発させてこの観覧車ごと崩壊させるつもりなのか。安室はぎりっと奥歯を噛み締めた。不味い。まだ車軸には半分爆弾が残っている。
「大体の形が分かればいいんだったよな!?」
安室は爆弾のタイマーを時限式に合わせた。素早く爆薬詰めたカバンに仕込み、だっと駆け出す。
「見逃すなよォッッ!!!!」
爆薬入りの鞄を、思いきり宙に放り投げた。爆弾は観覧車の外に投げ出され、空中で派手に爆発する。
「見えた!」
コナンはすかさずキック力増強シューズで、花火ボールを蹴り飛ばした。勢いよく蹴り飛ばされたボールは、一直線にヘリへと飛んでいき、ぶつかってその真上へ弾かれる。ついで大きな花火が花開く。
「堕ちろ」
にべもなく言い放つと、赤井は弾丸を放った。鋭い弾丸は見事にローター結合部に吸い込まれていく。制御を失って落ち行くヘリを見ながら、蓮はホッとしたように息をついた。
(今の爆発は、恐らく零さん。花火ボールは新一だし、撃ったのは秀一さんだろうな。…よかった、みんな無事なんだ…)
だが、安堵したのも束の間。落ち行くヘリは絶えず攻撃の手を緩めない。…死なばもろともというやつなのか。
(車軸を破壊されたら大変な事になってしまう…!)
蓮は立ち上がろうと腰を浮かした。手当てをしていた救急隊員がそれを見咎める。
「こら、ダメだよ。君足にひびが入ってるんだから、大人しくしてないと!」
「でも…!っ、あの、何方か警察の方を呼んでください!早く!!」
騒ぎを聞き付けてやって来た公安に、蓮は観覧車が崩れる、早く押さえるクレーン車が何かを用意してくれと叫んだ。だが、その叫びもむなしく、車軸を破壊された観覧車は地面に落下し、ゆっくりと転がり始めた。迫り来る土煙と瓦礫に人々は逃げ惑い、飲み込まれていく。
「っ零さん!!秀一さん…!!」
――新一…!!
悲鳴のような声をあげて手を伸ばす蓮を、公安の者が止める。
「蓮くん!!今いっては危ない!!」
「だけど…ッッ」
どうしよう。どうしたらいい…?
こうして祈ることしかできないなんて…。ほとほと自分の無力さを痛感して嫌になる。
「お願い…!!止まって…!!」
コナンは赤井と共に転がり行く観覧車に飛び乗ると、ボール射出ベルトを巻き付け、超特大のボールを膨らませて止めようと試みる。ボールはどんどん膨らんでいく。だが、それでもまだ足りない。コナンは焦ったように顔をひきつらせた。ダメだ…止まらねぇ…!
その時、ブー!!とけたたましいクラクションの音がして、一台のクレーン車が作業現場の壁をなぎ倒して突っ込んできた。がつんと音をたてて観覧車を押さえ込もうとしていたのは、キュラソー。腹に鉄の棒が刺さり、アクセルを踏む裸足の足は傷だらけ。深手を負っているのにも関わらず、キュラソーは観覧車に子供たちの姿を見つけ、さらにアクセルを踏み込んだ。
「止まれぇぇええ!!!!」
ぐしゃりと、無情にも観覧車は彼女の乗ったクレーン車を押し潰した。途端に爆発が起きて、僅かに斜めになりつつも観覧車は無事に停止する。
「と、まった…」
蓮は呆然としたようにぺたんと座り込んだ。人々はたち消えた脅威にわあっと歓声をあげて沸き立つ。
「蓮くん」
「ぁ、風見さ…」
目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな蓮を見て、風見は僅かに瞠目した。いつもはにこにこ笑っている子だから、泣き顔なんて想像もつかなかったが。
「君が助けてくれたのだと聞いた。本当にありがとう」
「いえ…ご無事で何よりです」
言いながら蓮はぎこちなく微笑んだ。目の前で炎上するクレーン車を見てしまったのだ。心優しい彼はどうしても手放しで喜ぶことはできないんだろう。
「蓮兄ちゃん!」
「!コナンくん!!哀ちゃん!!」
蓮は膝をつくと、二人を思いきり抱き締めた。本当に、無事でよかった。
その時、からからと遺体をのせた担架が運ばれてきた。風見が、待ってくれ!身元を確認させてくれと引き留める。
「はい。構いませんが、とても身元が判別できる状態では…」
ぺらっと捲られたシートの中の遺体に、風見は言葉を失った。わかった、ご苦労。と救急隊員たちに言葉をかける。蓮とコナン、哀はぽとりとその遺体から落ちた黒こげのキーホルダーを拾い上げ、すべてを察して固まった。
そうか、クレーン車で命がけで観覧車を止めてくれたのは、キュラソーだったのか。
「ぼく」
「え?」
「今拾ったものを見せてくれないか」
素直に手渡す。まさか、記憶媒体か?と勘ぐる風見たちに、コナンはいや…と言葉を続けた。
「記憶じゃない。思い出だよ」
黒こげになっちまったけどな
蓮は寂しげに呟いて去っていくコナンの後ろ姿を、悲しげに見つめて目を伏せた。