純黒の悪夢
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一方階段を駆け下りたコナンは、壁の隙間から外の様子を窺った。外に見えるのは、観覧車を照らす緑、橙、白、青、赤のスポットライトの光。
これだ!このスポットライトは、キュラソーの持っていた五色のカラーフィルムと同じ色数。それに、昼間と違って透明度までほぼ一緒だ。
(俺の推理が正しければ、この配色と濃度をキュラソーが見たとき、ノックリストを思い出す…!)
即ち、彼女の脳こそが記憶媒体。そして、その記憶の扉が開かれるのはゴンドラが頂点に達したときだ。この完璧な配色と濃度見たら、今度こそ完全に記憶が回復する。
「そろそろね」
水族館内のカフェから、双眼鏡でキュラソーと風見の乗ったゴンドラを見ていたベルモットは、開いたままのパソコンに向き直った。画面に映し出されているのは観覧車の見取り図とそれに取り付けた爆弾の情報。そして、作戦決行までのカウントを示す表示。
「ジン。最終確認よ。三分後に始めるわ」
Ready?と聞くベルモットに、いつでもいいぞ、始めてくれと短く返したジンは、ヘリを捜査中のキャンディにポイントαで待機しろと指示を出す。
ベルモットからの連絡では、蓮がキュラソーに接触したと言う話だった。それに、気にかけている様子だったとも。気にかけているのが自分ではない相手と言うのは気にくわないが、この作戦が終了したら、また彼がバイトをしているバーに連れてきてやっても良いかと思い直す。
そもそも、一番気にくわないのはベルモットやバーボンばかりが彼と接触をしている点だ。特にバーボン。日本に潜入しているからといってはベタベタベタベタ蓮の回りに張り付きやがって、まったくもって腹が立つ。
…実にしょうもない嫉妬だが、ジンは大真面目だった。さて、さっさと片付けて、蓮に会いに行く時間を作り出さなくては…
ジンが早く終わらせようと躍起になっている頃、安室も早く解体しないとと焦っていた。
「一刻もはやく解除して、風見と合流しなくては…!」
迫るリミット。焦ることでぶれる視界。次はこれを…とコードを持ち上げる手が震えていることに気づいた蓮は、零さんと小さく呼び掛けた。爆弾についている赤いランプがついてしまったらアウトだ。蓮は弾かれたように顔をあげる安室の額の汗を、そっとハンカチで拭って微笑んだ。
「焦りこそ最大のトラップ、ですよ」
「!どうして君がそれを…!?」
「ふふっお話は後で。さぁ、続けましょう。なんなら僕が代わりましょうか?」
落ち着いてはいるが、内心蓮も焦っていないわけではない。だが、動揺していても始まらないし、爆弾解除に勤しむ安室の手伝いをしなければという使命感が今彼を突き動かしている。その時、携帯が着信を知らせた。
(こんなときに…!)
蓮は内心苛立ちに歯噛みした。電話の相手はベルモット。その名前を見て、極力回りの音が入らないようにそっと壁際に寄って口許に手を当てる。ここは響きやすいため、音が反響して不自然に聞こえてしまいがちだから、気を付けなければ。
《ハァイ、蓮。貴方今どこにいるの?》
「どうしたの?今出掛け先なんだけど。何か用事でもあったかな?」
《東都水族館にいる訳じゃないならいいわ。3分後にキュラソーを迎えに行くの。ちょっと手荒いし、貴方を巻き込みたくは無いから確認をしようとおもって。》
「(3分後…!!!!)そうなんだ。あのお姉さん行っちゃうんだね。…教えてくれてありがと」
ぴっと通話を切り、蓮はフロアから身を乗り出した。
「零さん。あと三分で作戦が始まります。…コナンくん!聞こえた!?」
「わかった!」
コナンの言葉にひとつ頷くと、蓮は安室に向き直った。さぁ、早く終わらせなくては。
「いったいどう言うことだ!?もうすぐ半周するぞ…!?」
拳銃を片手に、キュラソーとゴンドラに乗っていた風見は焦ったように呟いた。さっきの花火でも無かったとすると、降谷さんからの情報は間違いだったと言うことだろうか。
五色のスポットライトが、重なる。
「うぅ、ぅ゙…ぁ゙あ゙ああ」
突然頭を押え、苦しみだしたキュラソーに、どうした!?と驚きも露に風見は銃を構える。キュラソーは手錠でゴンドラの手摺に拘束された片手をはずそうとしているのか、片手で頭を押さえて苦しみながらもがく。
透明な光彩の瞳から、一筋の涙が溢れ頬を伝った。
「ぅ、ゔう、ぁ゙あ゙あああ!!」
苦しみもがくキュラソーの様子を双眼鏡で確認したベルモットは、どういうことだと眉根を寄せた。記憶は戻っていたんじゃないのか?まさか、ラムに届いたメールというのは、彼女の送ったものではなく別の誰かが…?
次の瞬間、キュラソーは風見の頭を足で挟み込み、思いきり壁にぶつけて昏倒させた。一瞬の早業に風見はなすすべもない。その様子に、ベルモットはやはり戻っていたのかと胸を撫で下ろす。…杞憂に終わって良かった。
「ジン、キュラソーが収容可能エリアに入ったわ」
頂点到達まであと二分。そろそろはじめてもいいんじゃない?
ベルモットの声に、ジンはニヒルに笑ってウオッカにアームを出せと指示を飛ばす。ベルモットは、その声に小さくため息をついた。今絶対に悪い顔をしているんだろう、あのサディストは。
(せっかく日本に来たんだから、これが終わったら蓮を連れてショッピングでも行きましょ)
それくらいの御褒美がないとね、なんて心のなかで一人首肯く。…蓮の予定など関係ない。だがとりあえず、バーボンやジンに蓮を独占されるのは気にくわないので、先に奪ってしまうことにしよう。
蓮はピクリと肩を揺らした。…聞こえる。遊園地の喧騒に紛れて、確かにヘリのローター音が。
「…蓮くん?」
「ヘリのローター音が聞こえます。…まさか、もう近くに?」
「何!?」
安室は耳を凝らす。…聞こえない。そこで漸く蓮が常人よりも音を拾いやすい体質だと言うことを思い出した。同じ場所にいて、彼に聞こえ、自分に聞こえない位の音の距離。恐らくこの観覧車の上空…外に出れば音が聞こえるか、といった距離だろう。…なるほど、時間がないな。