純黒の悪夢
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蓮はそっと観覧車のバックヤードに忍び込んだ。そのまま、どんどん上へと登っていく。上の方に目を凝らすと、無数のコードと袋状の何かが貼り付けられているのが見えた。
(あれは…っ爆弾!?)
蓮はそっと爆弾に近づいた。消火栓内部に仕掛けられた起爆装置から張り巡らされた無数のコードの先に、爆薬が仕掛けられている。起爆力が高くて、かつ確実にターゲットを仕留められるもの…外側からでは判別不能だが、恐らくトラップが仕掛けられている可能性が高い。
(どうしよう…出来ないことはないけれど、僕が今解体するのはリスクが高すぎる…!)
「蓮!!」
「っ新一…」
突然かけられた声に、華奢な肩がびくりと揺れる。コナンは蓮に駆け寄った。
「バーロー!!オメェが何で…」
「待って。お説教は後にしてくれるかな。…爆弾が仕掛けられてる。どうする?」
「爆弾…!?っ!そうだ!確かあの人が…」
コナンは何かを思い出したように走り出した。蓮もそのあとを追いかける。新一が頼りにしていて、今ここにいるかもしれない人物。…零さんか、秀一さんだろう。
コナンは赤井に電話をかける。いっこうに繋がらない電話に舌打ちをして、蓮は上を見上げた。何やら観覧車の上が騒がしい。…まさか!
(この期に及んで喧嘩なんかしてたら一発ひっぱたいてやる…!)
ガァンッッ
何かが落ちてきたような鈍い音が響いた。コナンもばっと上を見上げ、彼処か!と唇を噛む。遠い。大分距離がある。その時、蓮の深いため息と、怒りに満ちた気配に背筋がスッと冷たくなった。
「新一はそこにいて」
「蓮?っ何を!?」
蓮はタンッとフロアからフロアへ飛び移った。元々身体能力が頗る高いこともあって、まるで舞うようにヒョイヒョイと軽々上へと登っていく。
コナンは無表情で飛び出した幼馴染に、内心冷や汗をかいた。あれは相当怒っている。顔に一発平手なら優しいが、容赦なく蹴りでもいれられたらいくら赤井さんでも沈むんじゃないか?……いや、あの温厚な蓮を怒らせるような事をしたんだから自業自得か。
上に上がることはとりあえず諦めて、コナンは声を張り上げる。
「赤井さーん!!!!そこにいるんでしょ!!??大変なんだ!!!!力を貸して!!!!」
スタッ
「コナンくんの声、聞こえてないんですか?」
蓮は安室たちのそばに降り立った。そして、臨戦態勢のまま呆気に取られたように固まる二人に、無表情で実に淡々と話しかける。
「いい加減にしてください。この忙しいときにそんなに喧嘩なんかでボロボロになって…少しは大人になってくれませんか。……呆けてる暇があるなら働く!!」
「「「!!」」」
「この観覧車の大体真ん中辺りのフロア。その消火栓の中に爆弾が仕掛けられていました。コードで無数の爆薬に繋がっています。組織はキュラソー奪還に失敗したらここを爆破するつもりです。…力を貸してください。」
蓮は傷だらけの二人にため息をつくも、その瞳は安堵に揺れていて…
「後で一発平手打ちされるくらいは甘んじて受けてくださいね。…ほんとに、心配してたんですから」
安室はそう言って俯く蓮に、恥じ入るように顔をそらした。…全く、大人げない。赤井は、そんな安室を尻目に、蓮を抱き締める。
「泣くな。…俺は、君には笑っていて欲しい」
「っ秀一さ…!?」
「こんなときにどさくさに紛れて何をしてるんだFBI!!」
「いや揉めるな!!」
コナンの突っ込みに我にかえると、何事もなかったかのように安室たちは受け答えする。コナンに至っては、なんで此処に、どうやって安室が入ってきたのかを聞きたかったが、なんだかもうそれすらどうでもよくなった。
「コナンくん!!爆弾は何処にあるんだ!?」
「車軸とホイールの間に無数に仕掛けられてる!」
「FBIとすぐに行く!!!!」
顔を見合わせて首肯く赤井と安室に、蓮はホッと息をついた。そして視線を巡らせて各フロアの位置を把握する。…新一のもとへ行くなら、飛んだ方が早い。
「僕も、手伝うよ」
「「君は大人しくしているんだ」」
「なんでこういうときは仲良しなんです…?ここまで首突っ込んだんです。今さら帰れませんよ。」
それじゃあ、と言うが早いか軽々と柵を飛び降りた。途中のフロアの手すりに手をつき、バク転の要領でくるりと宙返りする。上から制止する声が聞こえるが気にしない。
軽い音をたてて着地した蓮は、こっちですよと上の二人に向かい手を振る。二人はほっと息をつき、ついで全力で走り始めた。優しく聡明で、無茶なことも平気でやってのけてしまう想い人のもとへ行くために。
((まったく…公安/FBIに欲しい人材だな))
「零さん。ソーイングセットならありますよ」
「あぁ。ありがとう、借りるよ」
安室は着々と消火栓の扉に仕掛けられたトラップを解除する。うっかり開けばドカンだったな、と蓮とコナンは顔を見合わせてはー…っと息をついた。開けなくて良かった。
かちゃりと安室がトラップを解除したとき、すたっと赤井は着地した。どうだった!?と駆け寄るコナンに、やはりC4だと静かに言った。
「非常にうまく配置されている。すべてが同時に爆発したら、車軸が重さに耐えきれず、連鎖崩壊するだろう。」
「なるほど。悩んでる暇は無さそうですね…これか!」
問題ない、よくあるタイプだという安室に、コナンは感心したようにへぇ…と声をあげる。警察学校の友達にいろいろ教えられたらしい。観覧車の爆弾解体を見事成功させた、爆発物処理班のエースだった男に。
(それって、もしかして…)
松田さんの…と蓮は喉元まででかかった言葉をのみこんだ。今はそんなこと関係ない。一刻もはやく爆弾を解除してもらわなくてはいけないのだから。赤井はがちゃりと狙撃用ライフルを構え、これを使えとライフルバッグをずさっと安室に寄越した。
「そこに工具が入っている。解体は任せたぞ」
「赤井さんは?」
「爆弾があったということは、奴等は必ずこの観覧車で仕掛けてくる。そして、ここにある爆弾の被害に遭わず、キュラソーの奪還を成功できる唯一のルートは…」
「空から…!?」
「そうだ。俺はもとの場所に戻り、時間を稼ぐ。なんとしてでも、爆弾を解除してくれ!」
そう言い残して、赤井はライフル片手に走り去った。簡単に言ってくれる、と不満げに鼻を鳴らす安室に、蓮はこれを…と工具ケースを手渡した。安室は心配そうに柳眉を下げる蓮の頭を優しく撫でる。
「ありがとう、蓮くん。あとはコイツを解体するまでにどれだけ時間をもらえるか…」
確かに、いつ爆発するかわからないとなると、プレッシャーは相当なものになる。実に動きにくい。
(いや、待てよ?奴等が仕掛けてくるとなると…)
コナンは脱兎のごとく駆け出した。どうした!コナンくん!?と顔をあげる安室に、コナンはノックリストを守らないと!とだけ残して階段を下りていく。
「ったく…どいつもこいつも…」
「言葉が足りない人たちばかりですね、今日集まった方々は」
呆れたような声音の蓮に、安室はゔっと言葉につまった。大いに覚えがある。というか、今日集まった方々は、という口ぶりからしてお前もなと言われているんだろう。まったく、耳がいたい。
そんな安室を見て、蓮はクスクスと悪戯っ子のように笑う。いつ爆発するかわからない爆弾の傍にいるなんて、普通の子なら耐えられないだろうに、それでも気丈に笑っていつも通りサポートをしてくれる。
「頼りにしてますよ。最強の助っ人さん」
ぱちんと可愛らしくウインクをしてみせる蓮に、思わず笑みがこぼれる。あぁ、本当にこの子は僕を喜ばせる天才だな。想い人にここまで言われてしまえば頑張らないわけないだろうと、安室は解体の手を速めた。