純黒の悪夢
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放課後、生徒たちで溢れかえる廊下…
「か、会長…!!あの、これ、東都水族館のチケットです!!明日一緒に行きませんか!?////」
「え、僕と?」
突然眼前に差し出されたチケットに、蓮は目を瞬かせていた。目の前にいるのは、顔を真っ赤にして頭を下げる男子生徒。
実は蓮、水族館好きで、東都水族館もずっと行ってみたいと興味を持っていたのだが、誰とも日取りが合わず、断念していたのだ。
副会長が、蓮を守るように一歩前に出るが、それよりも蓮の方が早かった。
「会長がそんな――」
「嬉しいな…僕でよければ、行きたいです。」
「ほ、本当ですか!?///」
「あ、チケットのお金…」
「そんなの良いんですよ!!///会長とデート出来るだけで俺…俺…っ////」
(デート?)
チケットを押し付けるように渡すと、ばっと立ち去る男子生徒に、蓮はこてんと小首を傾げた。
「あれ?え?…これ、デートのお誘いだったのかい?」
「会長…なにも気づいてなかったんですか…」
呆然とチケットを見つめる蓮に、副会長は深いため息をついた。
**その日の夜**
(明日は水族館か…)
デート、何て言っていたけれど、結局友達と遊びに行くことにかわりはない。大袈裟だなぁ、なんて思いながら窓の外を見ると、遠く橋の向こうが赤く染まっているのが見えた。
「……?事件?」
胸騒ぎがする。と、不意に携帯がなった。相手の名前を見て、蓮は一つ息をついた後、流暢なイタリア語で電話に出た。
<……もしもし>
《久し振りだね、レン》
電話の相手は、イギリス留学時にバイトしていたバーで知り合った、イタリア人の情報屋。…と言っても、専ら甘い台詞で口説いてくるだけの友人だ。
<どうかしたの?>
《今俺、日本にいるんだけど、面白いもの見つけたから報告しようと思って》
<面白いもの?>
蓮は窓の外に目を凝らした。寧ろ、あの騒ぎの方がずっと気になる。情報屋は楽しそうに続けた。
《警察庁に忍び込んだ泥棒と警察がカーチェイスしてるんだ》
「は?」
蓮は思わず素でそう返した。なんだって?警察庁?
<情報が早すぎない?何故警察庁に泥棒が入ったことや、カーチェイスしてることがわかるの?>
《見ていたからだよ。僕や他の知り合いがね》
本当にどこで誰に見られているかわからない世の中だと、蓮は舌を巻いた。
<……ふぅん…その事件に関しての情報を集めて僕に教えて。>
《君の頼みなら勿論引き受けるよ。それじゃあまた連絡する。愛してるよ、レン。》
<よろしくね>
ぴっと電話を切る。途端に部屋を包む静寂と寂しさを、蓮はぼふりとベットにたおれこむことで誤魔化した。
(………愛してるよ、をさらっと言えるって、すごい国民性だよなぁ…)
相変わらず、何処か論点はずれていたけれど。
「………?警察庁って公安…零さんが関わってるんじゃ…?」
しかも彼処に泥棒がはいる…ってことは狙うべき獲物は、一体…まさかノックリスト?
不安気に柳眉を下げ、携帯をきゅっと握りしめる。いつも夜になると、降谷と赤井、白馬といった人たちから電話がかかってくる。他愛ない話をするだけだが、仕事が仕事だけに一日のこの電話が安否確認の代わりとなっているのだが。
(まだ、零さんと秀一さんから連絡来ないし…何かあったんじゃ…?兎に角、何か情報が欲しい)
鳴らない電話を握りしめて、蓮はベッドの上で丸くなった。
翌日…
「え?来れなくなったの…?」
《は、はい…本当に申し訳ありません…っ俺も、会長と行きたかっ…ッヒィ!?何でもありません!!あの、チケットは差し上げますから、どうぞ使ってください!!では失礼します!!》
ブチッ
「!…?どうしたんだろう…」
余談だが、このとき副会長をはじめとする生徒会メンバー(通称会長ガチ勢)が、鬼のような形相でこの男子生徒に絡んでいたことを、蓮は知るよしもなかった。
「僕一人かぁ…むぅ、一人で見るのはちょっとつまらないんだよなぁ…」
東都水族館の駐車場で、蓮は一人途方に暮れた。いや、一人で見てもいいんだが、どうせなら蘭も連れてくれば良かったなんて考えてみる。…新一でも良かったかな。兎に角、一人で見てもつまらない。そこに駆け寄る人影が…
「あれー?もしかして蓮お兄さん!?」
「!」
振りかえると、少年探偵団の子供たちがこっちを見て手を振っていた。無邪気に駆け寄る子供たちに蓮は頬を緩ませる。
「やぁ!皆も遊びに来てたの?」
「えへへっ!うん!蓮お兄さんは一人なの?」
「あはは…たった今一人になっちゃった所かな」
あっという間に囲まれる。蓮は呆れたような顔のコナンに困ったように微笑んだ。面倒見がいい蓮はいつだって誰かに囲まれてしまうため、守りたいなんて考えてる側の人間からすれば守りにくいことこの上ない。…というか、独り占めできない。
光彦は蓮の台詞にきょとんと小首を傾げた。
「たった今一人になっちゃった…って、どういうことですか?」
「うーん…デートの約束をすっぽかされた、ってところかな」
「「「で、デートォ!?」」」
ぎょっと目を向く子供たち。
「蓮お兄さん恋人いたんですか!?」
「あははっ冗談だよ、冗談。ただ、遊ぶ約束をすっぽかされただけ。」
からかわれたと気づいた子供たちはむう、とむくれてみせる。特にコナン。ぱたぱたと博士の方に走っていく子供たちを見送っていると、ぐい、と袖を引かれた。
「オメー…ほんとだろうな」
「うん?」
「デートじゃねぇって…」
拗ねた様子の幼馴染に、蓮はおっとりと微笑む。
「ふふっ半分ね」
「はぁ!?」
ぎゃんぎゃん吠える幼馴染みを軽くかわすと、蓮は携帯を確認する。連絡は…ない。実は昨夜の事件について情報をもらって、やはり降谷と赤井が関わっていることが分かったのだ。
(零さんは連絡寄越さないし…秀一さんは「心配するな」って電話くれたけど…危ないことしてるって分かってる分心配なんだけどな…)
心配したところであの人たちには無駄なんだろうけれど。何しろ自分から火の中水の中に飛び込んでいくような人だ。助けに行けるような力も無いし、逆に心配をかけて困らせることは目に見えているから、僕にできるのは情報を集めて提供することくらい。
「(僕もちゃんと役に立ててるのかな…)あ、新一、昨日の大規模停電なんだけど――…!」
蓮はふわりと薫るガソリンの匂いに視線を巡らせた。それはコナンも一緒だったようで、二人で辺りを見回すと、一人の女性を見つけた。
ベンチに座り込む、白銀の長い髪に不思議な光彩の瞳を持つ女性。服はボロボロで、体には切り傷や擦り傷が無数についている。
「どうしたの?あ、ちょっと…」
灰原の声も聞かずに二人は女性に駆け寄った。
「ねぇねぇ、大丈夫?お姉さん」
「え?」
「お顔が汚れてますよ、お怪我もされているようですし…」
「あ…」
蓮はハンカチを差し出した。コナンはオッドアイの目を見て驚いたように声をあげる。
「お姉さんの目、左右で色が違うんだね!!」
「日本語、よく分からないんじゃない?」
「!I'm sorry. Do you understand Japanese?(すいません。日本語は通じますか?)」
「ぁ、えぇ、大丈夫。分かる、分かるわ」
どこかぼんやりした様子の女性に、蓮は心配そうに膝をついた。鞄から未開封のミネラルウォーターを取り出し、タオルに染み込ませてこれで顔を拭いてと手渡す。コナンは子供らしく小首を傾げた。
「どうしたの?こんな所に一人で…お友だちもいないみたいだし、それに怪我してるよ。膝と手…あとスマホも壊れているみたいだし」
「おや…これ、ちょっとお見せ願えますか?」
「え、えぇ…」
蓮は女性のスマホを手に取った。画面は大破し、完全に壊れている。体から薫るガソリンの匂いに、硝子片。そして大破したスマホを見る限り、交通事故か…
「お姉さんは何処からきたの?」
「わからない…」
「「「!」」」
記憶喪失か…?
蓮は柳眉をしかめた。これは、もしかすると…
「お嬢さん、お名前を教えていただくことは出来ますか?」
「名前…ごめんなさい。わからない」
「蓮、診てもらえるか」
「うん。失礼します」
頭部の傷はまだ真新しい。傷の乾き具合等から判断して、恐らく数時間前…それこそ昨日の夜中辺りに事故に遭ったのだろう。
「まだ新しい。恐らく数時間前に事故に遭った可能性が高いかな…ただ、大きな頭部外傷は見られないから、脳内にどんな風に影響したのかは、これは検査してみないと何とも…」
「やはり…車に乗っていて事故に遭い、頭を打った…」
「なら外傷性の逆行型健忘…って、何で車に乗ってたってわかるの?」
「このスマートフォンが、完全に壊れるほどの衝撃を受けているし、」
「この女性のからだのあちこちに、…ほら、フロントガラスの破片がついているからね」
昨日の夜、自動車事故、銀髪の女性…
確か昨日貰った情報だと、泥棒は長い銀髪の女性で変装時はスーツを着ていたらしい。……これは、ひょっとすると僕は今関わったら零さんたちに物凄く叱られそうな女性と関わってしまったのか?
(いやいや…そんなまさか…)
自分の推理が外れてくれることを願いつつ、蓮は意識を女性に戻した。思案の間に、子供たちは戻ってきたようで、すっかり仲良くなっている。
その時、カシャッと音がして、コナンが女性を撮影しているのが見えた。
「女性をいきなり撮影するなんて、非常識極まりない行為だよ」
「わーってるよ」
悪びれないその態度にむっとしながらも、蓮は蓮でコナンから転送された写真をとある人にメールで転送する。
(……誰かに、見られてる?)
視線を感じて面倒なことに巻き込まれたのを察する。とりあえず、接触してくるなら自分だろう。…仕方ない。新一と哀ちゃんのために別行動をとらなければ。
「皆は遊園地にいくの?…なら、僕は僕で探してみるね、またあとで」
「あ、おい!蓮!?」