瞳の中の暗殺者
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「ここは?」
「『冒険と開拓の島』の本島だよ。あの小島から海の下を潜ってきたんだ!」
「そうなんだ…」
「行こう!!」
駆け出す二人の目の前に、次々と発砲される弾丸。急いで隠れる二人に、まだ話の途中だったなと言いながら風戸が姿を現した。クソッ!ボートで追ってきたのか…とコナンは悪態をつく。
「困るんだよ…君にあのトリックを解かれちゃ。私も佐藤刑事を撃った容疑者の一人になってしまうからね」
「もし蓮の目撃証言があっても、硝煙反応が無ければとぼけられるってワケか?」
「そういうことだ!蓮くんに見られたのは一瞬だからね。だが、危険な芽は摘んでおこうってワケさ。さぁ、聞こうか!!君の推理が合っているかどうか!」
「いいとも…」
まずアンタは、何食わぬ顔で蓮に近づき、ホテルの15階を停電にしたあと、蓮を後ろから殴り倒し、傘立てにあらかじめ用意していた傘を持って女子トイレへ行った。
その傘の先端には前以て穴を開けておき、そこから銃をつき出して撃ったんだ。つまり傘が火薬の粉と煙からアンタを守ったワケさ!
「だからあのとき、アンタからは硝煙反応がでなかったんだ!手袋は恐らく、男子トイレから流したんだろう」
「正解だよコナンくん。やはり死んでもらうしか無いようだ」
「…ッ」
「こ、コナンくん…」
どうして…?
「どうして、君はこんなに僕のことを守ってくれるの…?」
ポカンとしたコナンは、ついでフッと笑みを浮かべた。ぱしっと蓮の手を取り、走り出す。
「好きだからだよ…」
「えっ?」
「オメェの事が好きだからだよ」
この地球上の、誰よりも…
「飛ぶぞ!!」
二人は水のなかに飛び込んだ。すぐにボートのしたに隠れる。暫くチュインチュインと銃声が鳴り響いていたが、ボートがトンネルの下にはいったことで聞こえなくなった。
「ぷはっ!」
「っ、は…ありがと…」
蓮は照れたように目元を赤らめて、ふわりと笑った。
「おませさん…**」
「あ、うん…」
科学と宇宙の島へと駆けていた。時間は9時の46秒前。時計に後ろから追いかける風戸の姿がうつり、コナンは素早く蓮の腕を引いた。噴水の広場の影に隠れるが、もう逃げ場はない。一か八か、広場の真ん中に飛び出した二人に、銃声が襲った。
ビッとコナンの肩を弾丸が掠める。思わず倒れこむコナンを抱き起こす。
「コナンくん!!」
「大丈夫…腕を、掠めただけだから…」
「言ったろ?もう逃げ場は無いって」
カツリカツリと靴音が迫ってくる。肩の痛みをこらえながら、コナンは気丈に笑った。
「い、今、ここで蓮を殺すと、友成真さんの無実が証明されちまうんじゃ無いのか?」
「そうなんだよ…友成は逮捕前に消すつもりだったが、仕方がない。さて、ここはやはり気高く麗しい貴方から、かな?蓮くん」
蓮はぎりっと唇を噛んで、コナンを庇うようにより抱き締めた。と、不意にコナンがカウントダウンを始める。その光景が、かつてあの不思議な青年の姿を思い起こさせ、蓮は不思議とその姿に見入ってしまった。
「ふん…何かのおまじないか?」
「5…4…」
気づけば、勝手に口が動いていた。
「「3…2…1…」」
ザァッ
辺りの噴水の水が一斉に吹き出す。うおっ!?と驚愕の声をあげる風戸の手は、水の壁から銃をつき出すような形になっていた。その姿に、蓮はあの惨劇の瞬間が脳裏にフラッシュバックする。
三人でトロピカルランドへ行った日のこと。父さんからのプロポーズについて話した母さん。園子、父さん、新一…。撃たれる佐藤刑事と、自分を庇ってたおれる蘭の姿。そして…傘越しに残忍な笑みを浮かべた風戸の姿を。
不意にリュックを引っ張られる感触に、蓮はびくりと肩を揺らした。コナンはリュックから先程の撃ち抜かれたコーラの空き缶を取り出す。
「!!!!」
「僕から離れて!!」
舌打ちをして水の壁から手を引き抜いた風戸は、苛立ちにぎりっと歯噛みした。
「噴水が止まれば終わりだ!!もう諦めるんだな!!」
その怒声に、帰ってくる声はない。噴水の水はどんどん無くなっていき、水の壁も高さがどんどん小さくなる。その時、水の壁に守られた中央から、空き缶が空高く打ち上げられた。
「フン!子供だましか!」
ドシュッと銃弾が缶を貫く。
(そこか!!)
コナンは銃弾の来た方向から、風戸の位置を察して空き缶を蹴り飛ばす体勢をとった。風戸も怒声をあげながら銃を構える。
「死ねーーーッ!!!!」
ドカッと音をたてて蹴り飛ばされた空き缶は、そのままものすごい速さで風戸の顔にめり込んだ。うわぁあッ!!と、声をあげて後ろに弾き飛ばされる。
「ふーーーー…」
これで一段落か、と深いため息をつくコナンは、落ちていた拳銃を遠くへと蹴っ飛ばした。蓮は、ふわっといつもの笑みを浮かべて、コナンに歩み寄った。
「…新一…」
(!!蓮、もしかして…)
安心したのも束の間。すぐに起き上がった風戸は、コナンの顔を殴り付けると、そのまま首をつかんで馬乗りになった。サバイバルナイフを取り出して、高く振り上げる。
「!?」
「クソッ!貴様から片付けてやるぅ!!」
バキッ
カランカランと遠くで金属の落ちる音がする。目の前には大きく足を振り抜いた蓮の姿が。
「!!!!」
呆然と刃先の無くなったナイフを見て、風戸は顔面蒼白になって呟いた。
「う、ウソォ…」
蓮はすっと空手の構えに入る。柔和な面差しは怒りの色に染まっていて、華奢な体からは殺気がにじみ出ている。
「何もかも思い出したよ。貴方が僕の大切な人たちをどれだけひどい目に遭わせたのか、ね!!」
「っひ…」
「ハァーーーッ!!」
正拳突きに上段蹴り…そして
「はぁっ!!」
跳び回し蹴りを相手の顔面に叩き込んで思いきり吹っ飛ばした。威力もさることながら、流れるような美しい動き。すっかりのびてしまった風戸を見据えて、フーッ…と息を整える蓮に、コナンはスゲェとしか出てこない。
「っ新一…肩、大丈夫!?」
ばっと振り返ってしゅんと柳眉を下げる蓮は、先程までの気迫は微塵も感じられない。すっかりいつもの蓮に戻ったようだ。コナンは心配そうにおろおろする姿を見て、ふっと淡く微笑んだ。
警察車両が到着して、警官隊と毛利一家、園子、阿笠博士と探偵団の皆が心配そうな面持ちで駆けてくる。
「蓮!!」
「母さん!父さん!蘭!」
いつもの、華のような笑顔で笑って呼び掛ける蓮に、小五郎と英理ははっと目を瞠った。ついで嬉しそうに頭を撫で、両手で頬を包み込む。
「お、お前!?」
「記憶が戻ったのね!?」
「蓮…っ!!」
蓮は感極まった様子の蘭をぎゅうっとひとしきり抱き締める。園子は不安げな顔のまま、恐る恐る問いかけた。
「じゃあ、私のことも!?」
「勿論だよ!鈴木園子。僕の大切な、一生の友達だよ」
園子はうぐっと泣くのを堪えようと頑張ったようだが、上手くいかなかったらしく、ボロボロ涙を流しながら蓮に抱きついた。蓮は優しく微笑みながら、しっかりとそれを受け止めた。
「蓮ーっ!!!!良かったぁ!!!!」
ぎゃんぎゃん泣く園子をよしよしと優しく抱き締める。蘭もおいで、と手を伸ばすと、笑顔で飛び込んできたので三人でぎゅうっと抱き締めあった。
そんなほほえましい光景を尻目に、小五郎は険しい顔で風戸を見据えた。
「やっぱりこいつが犯人だったのか…小田切警視長が自ら再捜査されて、俺たちに知らせてくれたんだ!」
「それにしても…何が「俺が命にかけても蓮を守る」よ。命をかけて守ってくれたのはコナンくんと阿笠博士じゃない!」
「あ、いや…兎に角無事で良かった!ナハハハ!!」
乾いた笑いを浮かべる小五郎。詰め寄る英理の袖を小さく引いて、蓮は心底嬉しそうに笑った。
「そうだよ、母さん。僕、父さんにそう言ってもらえただけで十分嬉しかったから。ありがとう、父さん」
「蓮…うぅぅ…お前はほんとにいい子だなぁ」
先程の笑いが一転、泣きながら蓮を抱き締める小五郎を、べりっと引き剥がして蓮の乱れた髪を指ですいて直しながら、英理はふんっと鼻をならした。
「あら、私の息子だもの。当然でしょう?」
「何ッ!?俺の息子だからだ!」
「恥ずかしいからやめて…」
親馬鹿な両親に、喧嘩を止めに入った筈の蓮もかぁっと顔を赤らめて呆れたように息をついた。白鳥警部は、無線で佐藤刑事の容態について連絡を受け、大きな声で皆に告げる。
「みんなぁ!佐藤さんの意識が戻ったぞ!!もう心配ないそうだ!」
「おーーッ!?そうかぁ!!」
目暮警部の声に、わぁっと歓声が上がった。よっしゃぁ!!!!とガッツポーズをきめるもの、バンザーイと叫んで泣き出すものまでいる。佐藤刑事の人気がよくわかる。
蓮はそっと子供たちのところへ歩み寄った。心配そうな顔の子供たちに膝をおって目線を合わせると、そっと腕を広げて抱き締めた。
「ありがとうね。三人とも。とっても心強かったよ」
「う、うぅ…っ蓮お兄さぁぁん」
「え、えへへ…っほんと、良かったです…っ」
「な、泣くなよお前ら…っでも、ほんと良かった…っ」
泣きながら笑う三人を、それぞれ抱き締めてありがとうとお礼を言うと、いつの間にか泣き止んで、「いつもの蓮お兄さんだ!」と笑ってくれた。
ふっと視線をあげると、小田切警視長がこちらを見てふっと微笑んでいた。蓮はそっと立ち上がると、ふわりと微笑んで敬礼する。それに僅かに目を瞠ると、すっと敬礼を返してくるりと踵を返す。
その背中を見送りながら、皆は長い事件との戦いがようやく終わったのだと感じて、心のそこからほっと息をついた。