はじまりの風は紅く
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ある日の仙洞宮…朝廷三師と呼ばれる重鎮が集まり、とある問題に頭を悩ませていた。
「紅家の娘??」
茶太保は霄太子の台詞に首をかしげた。霄太子は神妙な顔をして首肯く。
「さよう。父親の紅 邵可は府庫の官吏をしておる。兄はあの彩相 紅 綾殿じゃ。」
「紅家ならば国で一二を争う名門中の名門。家柄は問題ないが…」
「しかし、彩相の綾殿はともかく、府庫では碌は大したことないはず」
「さよう。綾殿の碌があるとはいえ、それも広大な屋敷の維持に消え…生活は大層厳しいようで、娘があちこちに働きに出ておる」
「その娘がこの大問題の解決に役立つと?」
宋太傅は茶太保の言葉にずずっど茶を啜った。脳裏に浮かぶのは、孫のように可愛がっている有能すぎる元公子のこと。
「霄。主上が御位につかれてから早半年。もうちょっと、なんとかなると思ったんだがな。今だって綾殿が代わりに持たせているようなものだろう」
「このままでは、いつ王位を狙うものが現れるやも…現に綾殿が王位につけば、なんて声も出てきてはおるからな」
「うーん…たしかにのぅ。…だが、当の綾殿は次そんな事言ったら隠居して二度と国政に関わらんと憤然としておったぞ?」
以前烈火のごとく怒り狂っていたのを思いだし、宋太傅と茶太保は難しそうな顔で唸る。綾が朝廷から居なくなってしまったら、間違いなく国政は傾く。それほどまでに今の朝廷機能は彩相頼みな面が大きいのだ。
「血族から外れても、弟想いのお子じゃからな。とにかく、この件はわしに任せておけ。…俗に言うではないか。才女こそ君子の大敵であると。ふふふ…」
霄太子はそう呟くと、怪しげな笑みを浮かべた。
「え?…すいません、もう一度言ってくれませんか?今なんと?」
彩雲国宰相位にあたる、彩相という任につく彩雲国一の美貌を誇る麗人は、早馬の報告に頬をひきつらせた。現在は視察のために貴陽の外れへと来ていたのだが、それが一段落したところでの早馬に、端から見ていた官吏たちは嫌な予感に無言で冷や汗を流した。
「は…あの、霄太子が紅邵可邸に…ご実家の方に向かわれ、妹姫様に後宮入りを命じられました、と…」
「………………………あの、申し訳ないのだけれど私ちょっと化け狸を〆に行っても構いませんかね。皆さんも城に戻って今回の報告をまとめたら今日は終わりでお願いしますね」
「へ?は、はい」
部下が困惑して返事を返したその時、既に愛馬に跨がった綾の姿は忽然と消えていた。
「霄太子ぃぃい!!!」
仙洞宮に、ばたばたと慌ただしい足音が響いた。
「何が紅家の娘ならだこの耄碌爺!!」
パシッ
綾は部屋に入ると同時に懐の扇を思いきり霄太子に投げつけた。
「ほっほっほっ怒り顔も麗しいのぅ綾殿」
「喧しい!!私の可愛い秀麗を後宮にだなんて馬鹿も休み休み言いなさい!!危険な目に遭ったらどうしてくれるんですか!!わざわざ私の耳に入らないように根回しまでしおってからに…っ」
「閣下っ何処ですか閣下ァア!?」
見れば視察に行ったままに急いで帰ってきたのか、高く結い上げられた長く美しい桔梗色の髪はほつれ、簪が曲がっている。後ろから聞こえてくる部下の必死な声よりも目の前でほけほけ笑う霄太子の方が意識にあるらしい。
怒りのあまり口調が荒くなっている。怒りに震える綾の、宝石のような紅玉の瞳はゆらゆらと揺れている。怒れる麗人に霄太子はぱたりと瞬き、すぅっと青年の姿へと変化した。
「私だけを除け者にして…っ官吏の方々まで知っていたのに…っ」
「泣くな…綾「この狼藉者が…っ気安く触らないで頂きたい(怒)」……………(汗)」
気高く麗しいこの元第1公子様にはお気に召さなかったらしく、バシッと手を振り払われる。霄太子は困ったように微笑みながら、恋人を呼ぶように甘く名を呼ぶ。
「綾…」
「この若作りの化け狸…っもう知りません」
「そう怒らないでくれ…ほら、な?」
ついと髪を直される。と、そこに近づく気配が二つ。綾は数歩距離を取り、霄太子は姿を元に戻す。
「何を騒いでおるんだ?おや、綾殿ではないか」
「ほっほっ、今日も麗しいのぅ綾殿は。して、霄がまた何かしでかしたのか」
朗らかに笑いながら入ってきた茶太保と宋太傅に、綾はきっと涙目で視線を向ける。公子時代から孫のように可愛がっていた綾の珍しい怒り顔に、二人はハッとするとつかつかと霄太子に詰め寄った。
「お主綾殿に何をしたんじゃ!?」
「事と次第によっては斬る!!」
「!?ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「霄太子は大いに反省された方が宜しいかと。茶太保と宋太傅のお言葉にしか耳を傾けられないようなのでみっちり叱られてくださいな」
綾は怒りに頬をひきつらせながらも穏やかに微笑むと、憤然と部屋をあとにした。…後から、仙洞宮から謎の悲鳴が聞こえてきたとかいないとか。