黄金の約束
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彩雲国 王都 貴陽―――その街は、王族(紫家)の住まう王城を中心に、彩七区と呼ばれる七の区画に分けられる。
(黄東区に入ったわ…しかもこのあたりは貴族の大邸宅の立ち並ぶ高級区画。黄区ってことはこの人は黄家ゆかりの人ね)
秀麗はちら、と目の前に座る見ず知らずの麗人を一瞥した。
(黄尚書…親戚にこんな人がいたら劣等感で仮面も被るわよね)
何しろ顔も声も何もかもが美しいのだ。まさにため息が出るほどの美人。これには燕青も納得したように息をつく。これは確かに、朝廷でこの顔が禁忌となるわけだ。
(軒に乗るまでに4人、窓からうっかり顔を見た奴が3人…魂抜かれたようにぶっ倒れたからな)
『一目見れば寿命が延びる』なんて唄われた綾とは真逆の苛烈なまでの美貌は、まさに顔面兵器。仮面をつけていなければ間違いなく国が滅ぶ。
(その上……………あ~~黄尚書が綾様にベタ惚れってマジだったんだな~~)
鳳珠の腕はがっつりと綾の細い腰に回され、逃がさないとばかりに捕獲されている。捕獲されている本人は、どこか困惑した様子でこてんと小首を傾げた。
「……あの、手をお離しください…?」
((何で疑問系!!??))
そこはもっとこう、痴漢だ!と騒ぐ勢いで声を張り上げても良いのではないか。ていうか本当に一体どういう関係なのか。
「心配なさらずとも、私は逃げません」
「ほぅ?先程軒から飛び降りた奴の言うこととは思えんな」
「ゔっ…あ、あれは逃げたわけではありません…っ体が勝手に―――」
「ならば尚の事だ。また行き倒れを見つけて飛び出していかれてはかなわん」
ぐっと綾は言葉につまった。おろおろと視線を彷徨わせ、ついで言葉が見つからなかったのかじっと鳳珠を見つめた。恨めしそうな視線を送る姿も可愛らしい。
「…人命救助はこの世に生きる者の義務でしょう」
「ほう?では軒を止める、という行為も覚えておけ」
「……………………………ご心配をおかけしました」
袖口で顔を隠し、しゅんと項垂れる。確かに、走行中の軒から飛び降りるのは無謀だった。鳳珠は、反省した様子の綾の髪にそっと唇を寄せる。
「わかればいい」
((だから一体どういう関係ーーーー!?))
綾も綾で、顔を隠してうつ向いているために気づいてないのがまた辛い。見せつけてんの!?見せつけられてるのか俺達は!?
困惑しきりの面々をのせた馬車は、黄東区のとある屋敷へと入っていくのだった。
夜の帳が降り始めた頃、黄本邸では漸く曜春の病状が安定し、皆一息ついていた。
「いやぁ~流石は綾坊っちゃんじゃ。応急処置が完璧なお陰で、此方も処置がしやすかったわい」
「ふふ、それはようございました」
葉医師の言葉に、綾はほっとしたように微笑んだ。一応の窮地は脱した、ということか。しかし、熱中症とそれに伴う脱水症状は恐ろしいもので、容態が安定したと油断すると急変してころっと…なんてこともある。
「かたじけない…曜春を助けていただき、なんとお礼を申し上げたらよいか」
「ふふっいいえ、目の前で困っている人がいたら助けるのは当たり前だからねぇ。…あ、あのね。曜春君。君に二つ頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと、でござるか?」
綾は曜春の目線の高さに膝をおると、あのねと小首をかしげた。一つは、戸部から盗み出した宝物庫の鍵を返してほしいこと。
これには、恩人のたのみならと翔琳は素直に頷き、懐から鍵を差し出した。
「二つ目は、曜春くんのこと。私はこれからこのお屋敷のご当主様のもとへ行ったり、ご飯を作らなくてはいけなくてね、曜春君のもとにいられないんだ。でも、いつまた容態が急変するかわからない。だから、ついていてくれるかな?」
「分かり申した!」
綾は宜しくね、と優しく微笑み、隣室の鳳珠のもとへと急ぐ。中にはいると、秀麗と燕青も心配そうな顔をして待っていた。
「兄様、どう?」
「うん。もう大丈夫。一応は落ち着いたし、葉師もいらっしゃったからね」
綾は、ご協力ありがとうございますと鳳珠に微笑み、そっとその手に宝物庫の鍵を握らせた。全く、景侍郎にも気を付けるように言わなくては。
「やはり知っていたのか」
「政は情報が命ですから」
燕青はそのやり取りを尻目に、ふっと窓の外に視線を投げた。外はすっかり夜の帳が降りて暗くなっている。…そろそろだろうか。
「素晴らしい屋敷ですね~。俺、ちょっと庭散歩してきていいすか?」
「え、燕青!」
「好きにしろ」
「秀麗。お台所を貸してもらって、私たちは何かお夕飯でもお作りしようか」
「兄様!?」
自由人過ぎる兄と燕青に、秀麗はどういうことなの!?と目を剥いた。自由にもほどがあるだろ。ここはあくまでこの名も知らぬ若様のお宅。そんな無礼が許されるのか?
「構いませんよね?…鳳珠様」
「…あぁ、好きにしろ」
というわけだから、と綾はにこやかに秀麗を振り返る。はいはい行くよ、と有無を言わさず笑顔で背を押していく。
「綾」
「はい」
「お前は後で茶でも淹れに戻ってこい」
「ふふっはい、分かりました」
まるで嫁のように扱われているのに、ほけほけ笑ってはいはいと流している兄に、ますますどんな関係なのかと秀麗は訝しげに眉根を寄せる。いや、十中八九兄は気づいていないしスルースキルが高いだけなのだろうけど。
(お願いだから兄様もう少し危機感もってーーー!!!)