黄金の約束
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一方、綾はというと。
「ただいま、秀麗。おや、お前は燕青じゃないかい?」
「!!あーーーーー!!!!綾様じゃねぇか!!!!えっ姫さんどゆこと!?」
燕青は料理をしようと袖をたすき掛けしてまくりながらおっとりと頬笑む綾に、椅子を蹴飛ばして立ち上がった。頬に米粒をつけている子供のような仕草に苦笑して、綾はついと白魚のような指でとってやる。
「まったく、こんなところにお弁当つけて…。ゆっくり食べなさい。積もる話は後でお茶でも飲みながらゆっくりしようか」
「お、おぅ///つーか久しぶりだなー!最後に会ったのいつだっけ、10年前?」
「おや、もうそんなになるのか…早いものだねぇ」
内心燕青は綾の姿に驚愕していた。何せ10年近くたっているのにあの当時から容姿が殆ど変わっていないのだ。そりゃ、髪がのびたとかそういうのはあっても、あの当時から顔が全然変わってない。未だに19、20だって言っても騙せる。…化け物かこの人。
(相変わらず美人だなって言えば聞こえは良いけどよ…変わらなすぎだろ)
流石に中身は大人びて、あの頃よりおっとりさに磨きがかかっているようだが。秀麗はそんな二人にキョトンとした顔で小首を傾げた。
「お知り合いだったの?綾兄様は、血は繋がってないけど私の兄様よ」
「臣籍降下されて、この家に来たんだよ。秀麗は、私の可愛い妹」
お前にあったときにはもう紅姓を名乗っていたはずだから、臣籍降下の件は知っていたろう?あれがこの家さ、と微笑みながら、さっと包丁を手にとって手早く菜を作っていく。
と、がらがらと外から車の音が聞こえた。
「おやおや、もういらっしゃったのかな?」
綾は菜を作る手を止めて、冷茶の準備を始めた。本当にくるくるとよく働く若様である。そこに、静蘭がひょこっと顔を出した。
「お嬢様、綾様。お客様ですか?」
「おかえりなさい、静蘭」
「ふふっお帰り、静蘭。暑かったろう?今冷茶をだすからね」
ふわりと微笑み、パタパタと客間の用意を始めるため、茶器を持って客間へ引っ込む。静蘭は、ガツガツと凄まじい勢いで飯をかきこむ髭もじゃ髪はボサボサの熊のような汚い身なりの男に、ぴしりと固まった。
「…………………誰です、この人」
「え?あぁ、えーとね」
(汚い…明らかに不審者です兄上っお嬢様っ)
明らかに拒絶を示す静蘭に、秀麗は言い淀んだ。
「おや、ご来客中かい?」
「藍将軍、絳攸様。お出迎えもせずにすいません」
「この前の菜は美味かった。今日は良い鶏が手にはいったぞ」
カッと鶏が目を見開いた。コケーと声をあげて翼をひろげ、大暴れする。と、コーンと良い音をたてて鶏が宙を舞った。
「鶏が、飛んだ?」
ぽかーんとする二人をよそに、ドサッと落ちてきた鶏を片手で受け止めながら、往生際の悪い鶏だなぁと燕青は笑った。客間と厨を行来する綾は驚く皆をよそに、随分と生きの良い鶏だねぇところころと笑う。
武に秀でた静蘭と楸瑛は男の動きに顔を強張らせた。長棍でこの動き、かなり使える―――
「―――誰です?あなた」
「…あれ?お前…もしかして「小旋風」…?」
次の瞬間、鶏はぽいっと楸瑛へ投げ渡され、二人の姿は消えていた。
「?静蘭?燕青?…おや、落ち着きのない子たちだこと」
お茶が入りましたよ。と客間からひょっこり顔をだし、困惑したように柳眉を下げる綾がいた。もうすっかり大人なのに、ぺたんっと落ち着きのない子認定された二人に、秀麗は兄に肝っ玉母ちゃんの素質を垣間見た気がしてあぁと遠くをみる。
(兄様って…絶対生まれてくる性別間違ってるわよね…)
ところ変わって、その頃落ち着きのない子認定された二人は…
「…お前、もしかしなくても燕青か」
「あたり。やっぱお前かぁ!マジ久しぶりだな」
「何でお前がここにいる?!」
「いやほんと偶然なんだって。貴陽に用事があってさ、でもここんところくに食ってなくてさすがの俺も限界でな?ご飯がありそうでしかも門番が居ない邸を探して門前で行倒れてたら、あの姫さんと若さんが拾って食べさせてくれたんだよ~~~~。いい子だよなぁー」
「―――今すぐ回れ右して出てけ。別の屋敷でまた行き倒れろ」
「ひでーー!なんて冷たいお言葉!」
「知るか。とっとと消えろ」
「静蘭?どうしたの?突然」
「いいえ、何でもありませんよお嬢様。まったくこんなものを迂闊に拾ってはダメでしょう。いくら落ちていたからと言って」
「え…だって、お腹すいて今にも視にそうっていうんだもの。兄様のお知り合いみたいだし…」
「綾様の?いえ、そんなことはともかく死にませんよ!保証します!」
乾いた笑いを浮かべて今すぐ捨ててこようと薦める静蘭に、秀麗は困惑したように眉尻を下げる。知り合いじゃないと再度言い募ろうとする静蘭の肩をぐわしっとつかむと、燕青は笑顔で話に混ざってきた。
「そーーなんだよ!めっちゃすごい偶然でお互いびっくり!昔のダチなんだよ~~~!…な?えーと、静蘭?」
ぎんっとそれはそれは殺気を込めて睨み付ける。秀麗はホッとした様子で、良かったーと呟いた。今日は四日に一度のごちそうの日だからまた作ってくるわと部屋を出ていく秀麗を、燕青はやったーとにこにこ笑う。
「燕青…お前というやつは…」
地を這うような声を出す静蘭に燕青はふっと口許を緩めた。先程秀麗に見せたヘラヘラとした笑みではない、感情の読めない笑み。
「静蘭…か。良い名前もらったじゃん。お前が幸せそうで良かったよ」
静蘭は無言で燕青を見据えた。燕青は笑みを浮かべ、やれやれといったように目を伏せながら続ける。
「若さんと姫さんの飯文句なく旨いしマジ羨ましいぜ。飯代はないけど代わりにお前の昔話でもしてやるかなーー」
ダンッ
「お二方の…特に綾様の前で昔のことをちらとでも言ってみろ。その首かっ飛ばす!!!!」
「……じょーだんだって」
殺気を隠そうともせず、胸ぐらを掴みあげて壁に押さえつけた静蘭に、燕青は相変わらず人をくったような笑みを浮かべていた。