黄金の約束
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ぎらつく太陽
五月蝿い蝉
「……暑いですね」
「閣下、少しお休みになってください」
「そうですよ!」
彩雲国宰相位にあたる彩相閣下は、部下からの言葉に苦笑をにじませた。衣にしても、夏用の薄手のものを用意してはいるが、そんなもの意味をなさないほど暑い。
(秀麗は今頃お洗濯かね…洗濯物だけはよく乾くとかぼやいていそうだな)
可愛い妹が金五百両につられてうっかり後宮に送られたのが春。其処で彼女は昏君と言われた弟の根性叩き直し係を仰せつかって、見事仕事を完遂した。
…のだが。
(毎日のように高級な料紙で「寂しいが余は一人で寝ている…」なんて文は届くし、ある日は門から入らないような馬鹿でっかい氷の塊が届いて、しばらくの間塀に梯子をかけて出入りしなくてはならなかったし、湯気のたった茹で玉子が大量に送られてきて、丸二日卵のみの食生活をするはめになったし…お裾分けしたけど間に合わなくて三日目には腐って異臭騒ぎがすごかったなぁ)
挙げ句の果てに「季節はずれで珍しかったから」とか文を添えて曼殊沙華が大量に送られてきたときは、我が弟ながら阿呆すぎて育て方を間違ったなと卒倒しかけたものだ。
『庶民の墓場じゃ珍しくもないわよ!!しかもこんなに大量にっ!!この藁人形もわけわかんないっっ!!』
『まぁ、「匿名希望」さんも悪気があってしてることじゃないし…』
『だとしたら才能ねっ!!嫌がらせの天才なのよ!!』
憤然とする秀麗を宥めようと頑張る父にすら、憮然とそう言う秀麗に、綾と静蘭はそろって苦笑を滲ませた。「匿名希望」本人はばれてないと思ってるし、いたって大真面目なのだが、素直すぎて霄に遊ばれていることを分かっていない。
(あの子は…相談すればいいものを全て事後報告だからなぁ。まぁ、でも怒るのは体力のムダ。水分のムダ。ひいては家計のムダ!今日は絳攸や楸瑛殿がいらっしゃるお食事会だからはやく帰ろう)
心のなかでそう結論付けて、綾は筆を走らせるスピードを上げた。
時は戻って数刻前……………
さらりと額にかかる髪を撫でる優しい手。劉輝はそっと目を覚ました。この手の持ち主は、秀麗…?
ずっと、言いたかった…
愛している
愛している
頬に手を伸ばし、その可愛らしさの残る面差しにそっと唇を寄せる。寄せられた唇が、そっと愛していると形作られた。
「―――…している」
「何言ってるの?あなた」
えっ?
やたら現実味のある声。ついで秀麗は誰かの首に腕を回して抱きついた。
「私はこの人と結婚するの!」
え!?
其処でにこやかに笑っていたのは大好きな二番目の兄。
「あっあああっ兄上~~~!?」
「…ということなんだ。悪いね、劉輝」
「静蘭の方がずっと大人だし、優しいし強いし頼りがいがあるし、かっこいいしお金稼いでくれるし、いつも私を守ってくれて、貴方の百倍素敵♡」
「ひ…ひゃく?」
唐突に突きつけられた絶望に情けない声しか出てこない。ぱっと景色が一転したと思えば、二人は婚姻で着用する夫婦装束に身を包んでいた。秀麗は晴れやかな笑顔で続ける。
「もう十年も一緒に暮らしてるしそろそろ夫婦になろうと思うの。あなたも祝福してくれるでしょう?」
夫婦ーーーーー!?
「これからは貴方のお義姉さんになるのね。時々お金借りに行くから、その時は無利子無担保で貸してね」
人妻でも後宮に召し上げることは可能か、なんて考えてしまったのはそっと心にしまっておく。というか、とんでもない事を言われたような気もするけれど脳が受け付けようとしていないのだ。
「え?いや、ちょっと待…っていうか清苑兄上は綾兄上のことがお好きだったのでは!?」
「綾兄上なら、ほら」
指し示された先には、天女のような面差しを少女のように恥らいに染め、ぴとりと仲睦まじく寄り添う綾と絳攸がいた。
「私は絳攸と夫婦になろうと思うんだ」
なんだってーーー!?
「綾様とは従兄弟同士でお互いによく知っているし、家柄としても紅家の血縁を強くするためにはこれが一番だからな。それに、ずっと前から、俺は綾様の事を…」
「絳攸なら、全てを支えてくれるから…」
ほんのりと頬を染め、そっと絳攸に控え目に寄り添う綾と、嬉しそうに笑いながらその柳腰を抱き寄せ、唇を寄せる絳攸。今の時代確かに同性でも婚姻できるのだが、見た目だけなら完全に男女のそれだ。何が言いたいって、花嫁装束の兄も文句なしで美しかった。
「劉輝もそろそろ考えなくてはいけない年だろう?」
「お前も早くいいお嫁さんをもらうんだよ。草葉の陰からお兄ちゃんたちは見守っているからね」
「兄上っそれ使い方が違…う?」
足が動かぬ?何故だ
足元を見て、劉輝はげっと声をあげた。大量の男が足元で蠢いていたのだ。あるものは足をひっつかみ、またあるものは衣の裾を握りしめる。わらわらと群がってくる男、男男…しかも皆一度は夜伽を命じたものだ。………余計に嫌だ。
「やれやれ。劉輝はお兄ちゃんが留守の間に随分遠い世界に行ってしまったんだね」
「そんなにはしたない子に育ってしまうなんて、私…」
綾は悲しげに柳眉を下げて絳攸の胸に顔を埋めた。静蘭は呆れたようにやれやれと笑う。
「お前に夜伽を命じられたときはどうしようと思ったしね」
「あっ兄上!」
「そっちはそっちで幸せにおなり」
二組は仙のように天へと昇っていった。
「ちょっと待てーーーっっ!!!!」
ズッと足が寝台を蹴ってしまった音がした。ついで体に襲い来る浮遊感。
ゴンッ☆
……………
………
……