天狐の桜10
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放課後の校舎は、部活や帰宅を急ぐ生徒で溢れ帰り、わいわいガヤガヤと賑やかな声が響いている。家長カナは、とあるクラスメイトを探してキョロキョロと辺りを見回していた。
(リクオ君…帰った?)
今日の清継君の応援演説での騒動ーーやっぱり…あれって「あの方」よね?一瞬だけど狐さんの声も聞こえた。今回も、リクオ君と入れ替わるように…知り合いだから?
(聞きたかったのに~~…)
また会えたと思ったのに、今回は姿を見ることは叶わなかった天狐を思い、カナは嘆息した。そんな彼女の肩をぽんと叩くものがあった。ゆらだ。
「家長さん。ちょっと…奴良君のことで、ええ?」
奴良君たちのこと詳しく教えて!!
あまりの剣幕に、たじろぎながらも分かったと返事を返したカナは、駅前のベンチに連れてこられていた。紙パックのイチゴミルクを飲みながら、ぐるぐると考え込む。
(ゆらちゃん…急に何だろう?なんか、あったのかな…?)
「家長さんて…奴良君兄弟とどんな関係なん?」
「え!?」
急な質問に思わず声が裏返る。
「ど、どんな関係って…」
「ほら、何時から知ってるとか…どんな人やとか…」
「あ、あ~~」
リクオ君とは幼稚園が同じで、そこで出会って…近所だったからバスも一緒で…仲良くなったのはそれからかなぁ。リオウさんには、よくリクオ君の送り迎えに来てたからそれで知り合って…
「リクオ君とは小学校の時もなんかよく同じクラスで…あれ?よく考えたらもう8年もずっとおんなじクラス!?」
すっごい腐れ縁だな~~…と改めて驚いているカナを尻目に、やっぱりなとゆらは独り言ちた。あの兄弟のことは家長さんに聞くのが一番やと思ったんや。
あの兄弟、奴良リクオと奴良リオウには絶対何かある。昼間の舞台は清継の演出とは違う、間違いなく本物の妖怪だった。しかも妖怪の総大将が絡んでいた。
しかも、ほんの僅かな間だが、清廉な霊力…いや、神気が舞台に満ちていた。カナの話だと、件の"狐さん"とやらの声もしたというし、あれは天狐も来ていたと見て間違いはないだろう。
犬の妖怪、氷を操る妖怪、そして首が浮いていた妖怪…浮世絵町で自分が捕まっていたときにいた奴だ。迂闊に手が出せないほどの大量の妖気。
その舞台の中心にいたのは彼ーー妖怪の主。だとすれば、あの時共に旧鼠に囚われていたリオウが天狐だとしても説明はつく。かの妖怪の主が嫁だと豪語したのが天狐でも何ら不思議はない。
天狐はその美しさと能力の高さゆえに、妖や人間、はたまた他の神々からも狙われているという。花開院の威信にかけて、必ずや保護しなくては。
「そんでそんで!?」
「え?」
「他には!?あっリオウさんとか…天狐!天狐のことについてでえぇ!話したんやろ!?」
「ゆらちゃん!?」
「最初に会ったのはいつ!?彼はどんな話をしてるん!?」
(そ、そんなこと何で私に!?ゆらちゃんいつもと違う…)
ハッとカナは気がついた。そう言えば、京都の人にとって「上がっていき~~」は「入ってくんなや」の意味だとTVでいっていた気がする。やんわり遠回しに言うのが京の女のたしなみだと…
(そーだわ!!ゆらちゃん絶対!!あの狐さんのこと好きなんだーーーーー!!!!)
ビシャァァンッと衝撃が走った。ら、ライバル出現…!?そ…そ…そーかぁぁぁ…知らなかった…どうしよう…
「捩眼山でも会ったんやろ?(少しでも情報聞き出さな…)」
(そっか…少しでも知りたいんだ。私が何回も会ってるから…でも、どうしよう。はっきり言っていいのかな…)
ゆらはどこか迷った様子のカナに、あともう一声かと思考を巡らせた。
「どんな小さなことでもええねん!家長さんが会った天狐についてもっと知りたい…!」
ゆらの言葉に、カナの中で疑念が確信に変わった。やっぱり本気なんだ…!お友だちで同じ人を好きになっちゃうなんて…で、でもライバルだからって教えないのはフェアじゃないし…
「わかった…!ゆらちゃん、うちに来て。狐さんやリオウさんたちのこと、知ってる限り教えてあげる」
「ほんまか!?(よしっ!)」
喜ぶゆらの両手を、カナの手ががっしと包み込む。呆気に取られるゆらに気づく事もなく、カナは力強く宣言した。
「でも知っといて!!狐さんてたぶん、私のこと…好きだと思う!!!」
それでもいいなら協力する!!でもごめんね!!うん!!
「………………………」
何を言うとんのやこの子は……………
それは心の底から出たため息であり、ゆら渾身の突っ込みであった。まぁ声に出す前にすべてため息となって口からこぼれ落ちてしまったため、カナに伝わることはなかったのだが。
カナによるまさかの宣言は、ゆらの『花開院ゆら心の日記』にでかでかと刻まれることになったと後にゆらは語る。