天狐の桜1
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崩落したトンネルの前に崩折れる人々。泣き叫ぶ母親らを尻目に、妖怪たちは瓦礫撤去に飛び込んでいく。
「おほっ!見つけましたぜ若ァ!副総大将!生きてるみたいですぜー!」
リオウはついと目を細めた。視線の先にいるのは、かの子供殺しの妖、ガゴゼ。リクオは表情を変えることもせず、淡々とガゴゼを見据えた。
「ガゴゼ。貴様…何故そこにいる?」
「ガ…ガゴゼ様…」
「本家の奴等め…」
ぎり、と歯噛みするガゴゼたち。喧嘩っ早い若い衆を見送りながら、リオウは背後に控える黒羽丸を一瞥した。
「お前はどうする」
「貴方様の背中を御守り致します」
「上出来だ」
黒羽丸の返事に満足そうに微笑むと、リオウは音もなく降り立った。よーしよし、もう大丈夫だよ~なんて子供たちをあやそうとして、失敗している妖怪たちのもとへそっと近づく。
「やめろ。おめーらは顔こえーんだから」
「へ、ヘイ若」
「私が代わろう。…怪我はないか?」
リオウは子供たちの前に膝をついた。どうやら大きな怪我は無いようだ。傷に手をかざすと優しい光が溢れ、みるみるうちに傷が癒えていく。
「目をつぶっていろ。その間に、全て終わる」
「だ、誰…?」
カナは不思議そうな顔でリオウの顔を覗きこむ。見たことがあるのに、思い出せない。こんな綺麗な人、一度見たら忘れられないのに、どうして…?
リオウが次々と子供たちの傷を癒し、小妖怪たちに子供たちを外へと連れ出すよう命じているのを尻目に、ガゴゼは木魚達磨と対峙していた。
「これはこれは木魚達磨殿…」
「しらばっくれるな!!貴様…何をしたかわかっておるのか!?」
若の暗殺を企み、己が三代目の座に収まろうとしていたのは最早明確。だが、ガゴゼは沈黙の後に嫌な笑みを浮かべた。
「はて、私は…ただ人間のガキを襲っていた……それだけだが?」
「!」
なんの問題も無い筈だろう?としらばっくれるガゴゼに、木魚達磨は目を剥いた。なんと、このような謀反を起こすものが出てくるまでに組はおかしくなっていたのか。
リクオは無防備にガゴゼの前に歩み出ていく。
「子供を殺して大物ヅラか。俺を抹殺し、兄貴をモノにして三代目を我が物にしようとしたんなら…ガゴゼよ。テメェは本当に、小せぇ妖怪だぜ」
なんだ貴様は!!とリクオに掴みかかろうとする下級の妖怪を、リオウにリクオを守れと命じられている首無が紐で縛り上げて動きを封じる。
「リクオ様には一歩も近づかせん。ガゴゼ会の死屍妖怪共よ…」
ゴキゴキゴキッと間接が外れ、骨の砕ける音がする。このままでは、子供らがさらに怖がってしまうだろうてとリオウは嘆息した。
ガゴゼはリクオが生きていた事実に戦慄した。こいつが、リクオだと?まるで別人ではないか。
「くそっ!殺せ!!この場で若を殺せ!!ぬるま湯に染まった本家のクソ共もろとも!!全滅させてしまえ!!!!」
「ぬるま湯に染まったのは何処のどいつだ、この戯け」
リオウの周囲にいた妖怪たちが一斉に炎に包まれた。それは天狐の持つ浄化の炎。瞬きのうちに炎に包まれた妖怪たちは、塵も残さず燃え尽きる。
青田坊や黒田坊、雪女たちも銘々に謀反を起こした妖怪たちを仕留めていく。
「こ、こんな、バカな…私の組が…そんな…。誰よりも殺してきた…最強軍団なのに…」
「ガゴゼ。妖怪の主になろうってもんが、人間いくら殺したからって…自慢になんのかい」
残されたのは最早ガゴゼ一人。リオウは子供たちを無事に逃がし終え、ホッと息をつきながら、その哀れな姿を見据えた。
「フハハハハハ!!!!ザマァ見ろ!!」
ガゴゼはリオウ目掛けて飛び込んできた。この方を殺すぞ!!副総大将であるリオウ様は組の宝。殺されたくなければ俺を…
ザシュッッ
瞬時にリオウとガゴゼの間合いに入ったリクオは、ドスでガゴゼの顔面を切り裂いた。若!!副総大将!!と悲鳴に似た声をあげる配下を尻目に、リクオは兄を一瞥した。
「兄貴の手を汚すまでもねぇ」
「ほぅ。ではもう少し早くカタをつけることだな」
リオウの白魚のような手に、愛用の鉄扇が握られているのをみて、チッと舌打ちをする。なんとも格好がつかない。
隙を許してしまった黒羽丸は呆然とその姿を見つめていた。ガゴゼは、噴き出す血もそのままに、ワシの何処がダメなんだと喚き散らす。妖怪の誰よりも恐れられているというのに―――!!!!
「子を貪り食う妖怪…そらぁ恐ろしいさ」
だけどな…弱ぇもん殺して悦に浸ってる、そんな妖怪が、この闇の世界で一番の「おそれ」になれる筈がねぇ
「情けねぇ…こんなんばっかか俺の下僕の妖怪共は!だったら!!俺が三代目を継いでやらぁ!!人にあだなすような奴ァ、俺が絶対許さねぇ!!」
リクオはドスを構えた。リオウは面白いものを見たとばかりに楽しそうに目を細めている。
「世の妖怪共に告げろ!!俺が魑魅魍魎の主となる!!」
全ての妖怪は!!俺の後ろで百鬼夜行の群れとなれ!!!!
ガゴゼはリクオの手によって、真っ二つに切り裂かれた。リクオは静かに微笑むリオウのもとへと歩み寄ると、妖怪の主たるに相応しい高慢な笑みを浮かべた。
「兄貴。あんたは俺の嫁だ。ずっと俺の隣にいろ」
「…マセガキが。お前のような半人前が、私を娶ろう何ぞまだ早い」
リオウは扇でリクオの頭をぺくっと叩いた。それに、今にあんたを落してやるから嫁に来る覚悟しとけよと、リクオは不敵に笑い返した。
「畏」…その文字は、普通ではない者――「鬼」が「卜」を持つという意味の字。それは即ち、未知なるものへの感情――「妖怪」そのものを表す。
ガゴゼのような悪行も「恐れ」
巨大なモノに対する「おそれ」
脅迫に対する「慴れ」
支配に怯えるのも「怖れ」
だが、それは妖怪の一面に過ぎない。
達磨の視線の先には、リオウとリクオに畏敬の念を抱く子供たちの姿が。あぁ、知っていながら、今ごろ気づいた。闇世界の主とは、人々に畏敬の念さえも抱かせる、真の畏れを纏う者であると―――
「?リクオ?」
不意にリクオの体が傾いだ。咄嗟にリオウが抱き止める。どうしたどうしたとワイワイ大騒ぎする妖怪たちに、落ち着けと一言命じると、リオウはリクオに視線を戻して瞠目した。人間に…戻っている…?
「…なるほど、1/4血を継いでいるがために、一日の1/4しか妖怪でいられないということか…」
至って冷静に分析するリオウの言葉に、全員の時が止まった。次いで阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。
「えぇぇぇぇ!?なんですってぇぇええ!?」
「そ、それってどーなるのぉお!?」
「若ァァ――――!!!!」