天狐の桜1
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それから数分後…
「まったく、リクオ様。リオウ様の捜索をしていたからよかったようなものの、あの距離を歩いて帰ろうなど…これからは嫌がられても絶対お供をつけますからね!」
「……………………」
二人は空の上にいた。…否、正しく言えば、探しに来た烏天狗と黒羽丸によって空の旅をさせられていたのだ。
「リオウ様も!!何故供もつけずに外出なさっているのですか!!」
「煩いぞ烏天狗。そんなに声を荒らげんでも聞こえておる」
リオウはうんざりしたようにそっぽを向いた。ちなみに、彼は今無表情で激怒している黒羽丸の腕に、大人しく横抱きにされている。情けなく姫抱きにされていても絵になってしまうのが、リオウのリオウたる所以であると言える。
「………黒羽丸。私は自力で飛べるのだから降ろs―――」
「仰有りたいことは、それだけか」
怒りのあまり敬語も外れていると見える。これにはさしものリオウも口をつぐんだ。暫し逡巡して言葉を探す。
「……心配をかけた」
「…親父殿。俺はリオウ様と一足早く帰らせてもらうぞ」
「は?お、おい!」
烏天狗が返事をするより早く、黒羽丸はスピードをあげた。リオウは最早触らぬ神に祟りなしとばかりに、我関せずを決め込んでいる。
「リオウ様!!」
屋敷のリオウの部屋につくなり、リオウは首無に抱き締められた。掻き抱く手が震えているのを見て、中々に心配をかけてしまったことを悟ってリオウは少し反省した。
「嫌な予感がしてな、リクオの迎えに行っていたんだ」
よしよしとあやすように頭を撫でる。さて、そろそろリクオも帰ってくるだろう。お爺様に今帰ったとご報告しなくては。
いっこうに傍を離れようとしない二人に、困ったように微笑むと、リオウはがやがやと騒がしい母屋へ歩いていった。
≪中継です!!浮世絵町にあるトンネル付近で起きた崩落事故で路線バスが「生き埋め」に…!中には浮世絵小の児童が多数乗っていたと見られ…≫
「!?」
「おぉリクオ、帰ったか…。お前悪運強いのー」
リクオ様が帰っておられるぞ、リオウ様もご一緒じゃ、よかったよかったと皆わいわいガヤガヤ。
リクオは、助けに行かなきゃ!と羽織をひっつかみ、外へと飛び出した。どこへ行くんじゃ!?と声をあげるぬらりひょんに、決まってるじゃんか!!とリクオは叫んだ。
「皆を助けに行く!!ついてきてくれ!青田坊!黒田坊!皆!」
「へ、ヘイッ!」
「待て!待ちなされ!!」
木魚達磨が一喝した。人間を助けに行くなど言語道断。そのような考えで我々妖怪を従えることが出来ると思っているのか。
「我々は妖怪の総本山…奴良組なのだ!!人の気まぐれで百鬼を率いらせてたまるか!!」
もっともな理屈だと、リオウは鼻を鳴らした。奴良組の代紋「畏」とは、妖怪が人々に抱かせるもの。 「おそれ」の解釈は各々だろうが、彼にはそれなのに人助けなんぞをしようとすることが、どうにも許せないらしい。
若頭に向かって無礼にも程があると、青田坊は木魚達磨に掴みかかる。
「やめねぇか!!」
凛とした声が響いた。
「時間がねぇんだよ。おめーのわかんねー理屈なんか聞きたくないんだよ!!木魚達磨」
リクオの姿が段々と変わっていく。髪は伸び、目は鋭く光り、その体に纏うのは紛れもなく妖気。
「なぁ…みんな。俺が「人間だから」ダメというのなら、妖怪ならば、お前らを率いていいんだな!?」
だったら…人間なんてやめてやる!!
(なんだ…!?これは…)
先程までとは、まさに別人。
おめーら、ついてきな。と踵を返すリクオに、はっと我に返った木魚達磨は、再び待てと声を荒らげた。
「見苦しいぞ、木魚達磨。…もうその辺にしておけ」
甘美な声に、辺りは水を打ったように静まり返る。リオウは首無に木魚達磨を宥めるよう仰せ付けると、ゆらりとリクオの前へと歩み寄った。
「兄貴」
「お前が、"リクオ"か」
随分と遅い目覚めだなと目を細めるリオウに、リクオはそう言うなとにやりと笑う。
「兄貴は、今宵は俺の隣にいろ」
「ほぅ…?この私に命を下すとは、何とも威勢の良いことよ」
リオウは気分を害した風もなく、そう嘯くと本来の姿へと姿を変えた。蕩けるような笑みを浮かべたその桜色の瞳は、妙な色気を孕んでおり、その場にいたものは皆生唾を飲み込んだ。
リクオはフッとニヒルに笑うと、リオウの頬へと手を伸ばした。
「未来の嫁さんに、最高の景色を見せてやる」
「!」
美しい瞳が驚きに見開かれた。頬をひきつらせ、マセガキが…と珍しく悪態をつくリオウの頬は僅かに赤い。黒羽丸が咄嗟に間に滑り込むのに、リクオは面白くなさそうに鼻を鳴らすと、支度をするのに屋敷の中へと入っていった。
「…驚いたな」
「年下の者だからと、油断は禁物だと言ったはずです」
「あぁ」
だが、お前のことは信頼しているからなと、リオウは黒羽丸のきっと引き結ばれた唇に指を当てた。かぁっと顔が熱くなる。口許がだらしなく緩むのを感じて、黒羽丸は口許を手で覆ってそっぽを向いた。
「兄貴。出るぞ」
「ふっ…あぁ、わかった」
今宵の出入りは荒れそうだな。
煌々と輝く月を見ながら、リオウはそっと独り言ちた。