天狐の桜9
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夕餉の時間だと言うのに、奴良組本家は騒がしさを増していた。ばたばたと入ってきた妖が、リクオに町での騒ぎを伝える。
「申し上げます。浮世絵町より璞(あらたま)町――各方面にて、妖怪が暴れているとの情報にございます」
あいつらだ。あの…四国から来たという妖怪たち。まさか僕らを直接攻撃するとかじゃなく、人間を襲うなんて。
『僕の方が“畏”を得るから』
リオウも未だ戻っていない。彼らはリオウに対して執着していたようだった。まさか、掻っ攫われてあんなことやこんなことに……!?
「私で如何わしい想像はやめてくれないか」
「に、兄さん!?」
はっと顔をあげると、兄が顔をひきつらせて立っていた。若干顔が赤く、袂で口許を隠して視線をそらすところを見ると、うっかり心を読まれてしまったらしい。
「あ、いや、これは違っ!!///」
「…………まさか…お前がそんな趣味だとは………」
誤解だって!!!!と焦るリクオだが、心を読める天狐に誤解もなにもない。そもそもだ。なぜ好き好んで想い人を恋敵に好きにしてほしいと思うのか。そんなことするくらいなら―――
「僕が兄さんのこと好きにしたいよ!!!!」
・・・・・・。
「……………こ、この獣め………」
さしものリオウも、これには数歩後ずさった。黒羽丸はさっとリオウを庇うように抱き、下僕の妖たちも、思わず作業の手を止めて二人に視線を向ける。
奴良組大ピンチの筈なのに危機感がどこぞへ飛んでいってしまった。緊張感とはなんだろう。というかなんつー話をしているんだ。よくも悪くも本家嫡子の二人はいつも通りらしい。
(?誰かの泣いている声…?)
シクシクとどこからか啜り泣く声がする。リクオの膳から、ここにもいない…と言いながら、さめざめ泣いている鴉天狗が出てきた。
「そんなとこで何してんの!?」
「総大将が!!どこにもいないんですよ~~~!!」
「お祖父様?」
リオウはことりと小首を傾げた。なんだ、そんなことか。いつものことだろうと目を眇めるリクオに、鴉天狗は泣きじゃくる。
「違います!!今回ばかりは!!私が目を離したから…!!きっと狒々様を殺ろうとした奴等に~~~~!!」
「落ち着け、カラス」
リオウはむんずと鴉天狗を掴みあげた。涙で濡れるのも気にせず、その小さな体を赤子をあやすように抱き上げて撫でる。思わずポカンとして固まる鴉天狗に、リオウはふわりと微笑んだ。
「ふふ、ようやっと泣き止んだか。お祖父様のことについては後で説明する。――この組のなかに恐らく四国からの間者がいる」
間者を突き止めることは、恐らく自分であれば容易。だが、間者がいるということは、あえて誤った情報を向こうに流して情報操作することも可能ということだ。
「どうするかはリクオに任せる。まずは上がしっかりせねば下は落ち着かぬだろう。…案ずるな、お前たちのことは私が守る」
鴉天狗は、はっとした様子でじたばたと腕から抜け出す。うう…嘗ては自分があやしていた幼子にあやされるとは…情けない。いや、ここは聖母のように成長したリオウに喜ぶべきか。
リオウはついとリクオに視線を投げた。下が揺らいでいるのは事実。幹部連中の不安が下僕たちにも伝わっているのだ。
「リクオ、お前ならあれをどうやって静める?」
リクオは黙って立ち上がった。庭ではギャイギャイ妖怪たちが騒いでいる。
「ありゃただもんじゃねーってよぉ!!!!」
「何しに来たんじゃ!!!!」
「んなもん決まってるべ!!うちのシマのっとるに決まってんべやよーーー!!」
(ふむ。確かに向こうはやっていることが派手だ)
リオウはふと思案を巡らせた。だが、今のところどれだけうちのシマに実害が出ている?狒々は襲撃を免れ、土地神も今のところ守られている。
(本家には結界を張っているから、敷地から外に出ない限り四国妖怪に食い殺されることもない。…よくよく考えると下級たちがそんなに危惧する必要はないのでは?)
まぁ、人に危害を加えられている辺りは痛いところだが。
「妖怪が!!!!おたおたすんじゃねーーーー!!!!」
急に聞こえたリクオの怒声に、すっかり思案に耽っていたリオウの尻尾がぶわっと膨れ上がった。黒羽丸は主の珍しい姿に瞠目する。瞳をぱちぱちさせているところを見ると、どうやら本気で吃驚したらしい。
「人々から畏れられる存在なんだろ?じーちゃんはどっかで遊んでるだけだ!はっきりしてんのは、敵が土足で僕らのシマを踏み荒らしてるってこと」
入ってきたんなら、退治する(落とし前つける)だけだ
「達磨…テメーがしきんのは筋違いだ」
「う…」
「奴良組は今から僕が仕切る!!!!」
「合格だ」
リオウは心底嬉しそうに瞳をゆらした。桜水晶の瞳が蕩け、袂を口許にあてて、ほぅと息をつくのが色っぽい。
(さて、あとはこれがどう引っ張っていくのか――お手並み拝見と行こうか)
リオウは実に楽しげに尻尾を揺らした。