天狐の桜9
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リオウと黒羽丸は、人型をとった状態で黄昏の町の中を歩いていた。結界を其々の社へ張り、何度も神通力を使用していると流石に体力を消耗する。
「リオウ様、よろしかったのですか?」
「お祖父様にはお祖父様のお考えがある。大方四国の隠神刑部狸の元へ行ったんだろう」
今回の事件の犯人である玉章は、かつて四国一帯を支配し、松山城を陥落させる野望を持っていた隠神刑部狸という大妖怪である。確かぬらりひょんとは300年程前に松山城の件で面識があるはず。
斯く言う自分も、十年前程にぬらりひょんの代わりに挨拶に訪れている。…あの時か、玉章に出会ったのは。
(まさかあの少年が、こうも狂ってしまうとは)
一族で一番強く力を受け継ぎ、野心家で策略家。あの頃は力をうまく出せないのだともがいていた為に、少し助言をしてやったのだが…よもやこんなことになるとは。
(だが、あの時あの幼子を殺すわけにもいかない。…たらればを語る前にやるべきことをしなくてはな)
「兄さん!?何してんのこんなところで!」
リオウはぱたぱたと駆け寄ってくるリクオやカナたちに目を瞬かせた。その後ろには首無や毛娼妓達が控えているのが確認できる。
「おや…おかえり。リクオ。家長さんたちも一緒か」
何してんの!?とくどくど問い詰めるリクオに、土地神詣りをな、とおっとりと返しながら視線を巡らせる。うちの組の奴等以外の妖気を感じる。
接触を図るつもりか。こちらには人間がいる。戦闘に持ち込まれれば面倒なことになる。黒羽丸を一瞥すると、意思を汲んだらしく辺りの警戒を強めた。
(あ!そういえばリオウさんって…!)
カナはリオウを見てハッとした。彼はあの妖怪の主の嫁…!の、はず。リオウのことを、愛しくてたまらないとばかりに語っていた彼を、心の底から応援してあげようと心に決めたのだ。
「私っ応援してますから!」
「…………………な、んの話だい……?」
いきなりガシッと両手を捕まれたリオウは、困惑しきりで小首を傾げる。辺りを警戒していたためか、珍しく本当になんのことか分からなかったらしい。
「人間と妖だって…結ばれることはできますよね!(リオウさんとあの主が結ばれたんだもの。私だって、あの狐さんと…)」
「あ、あぁ…そうだな…?」
お祖父様とお祖母様がそうだったなぁと思案を巡らせるが、何とも話が噛み合っていない。いや、なんの話をされているんだ?
氷麗と黒羽丸がいち早く我に返ると、慌てて二人の間に割ってはいる。そもそもあの天狐も目の前にいる和装の麗人も、両方リオウなのだが、正体がばれていないが為になんとも面倒なことになってしまっている。
「お久し振りです。――リオウ様」
突如かけられた声に、一行ははっと息をつめた。黒羽丸がリオウを守るように背にかばう。
突然現れた黒髪の少年は、黒羽丸を一瞥すると奥で悠然と構えるリオウへと視線を投げ、うっとりと目を細めた。あぁ、人型であってもかの天狐は心根も容姿も気高く美しい。変わっていない。一目で惚れた、十数年前のあの日から。
「お逢いできることをどれ程心待にしていたか。はじめてお会いしたあの時からずっと…」
「そうか…お前があの隠神刑部の…」
小倅が面倒なことをしてくれた、と心のなかで悪態をつく。どうしてどいつもこいつも力で屈服させて嫁にとる気満々なのか。少しくらい此方の意思を尊重する奴はいないのか?
思う存分暴れられることになったら、今度こそは自分も出ようと一人こっそりと心に決める。憂を晴らさねばやってられまい。
「君がリクオくんだね?いや――聞く必要はなかったか。こんなにも似ているのだから。僕と君は…」
若く才能に溢れ、血を―継いでいる
「だけど…君は最初からすべてを掴んでいる。僕は――今から全てを掴む」
僕もこの街でシノギをするから
玉章の言葉に、皆が一斉に殺気立った。一体何をするつもりだ。まぁ見てて…僕の方が沢山“畏れ”を集めるから、と玉章は自信ありげに不敵に微笑む。
「ほ~~。あんたがリオウ様…聞きしにまさる美貌ぜよ~~」
「っリオウ様!」
茶髪の少年――犬神が隙をついてリオウの肩を抱く。慌てて引き剥がそうとする黒羽丸を視線で制すると、リオウはつんと犬神の鼻を摘んだ。これには犬神も虚を衝かれた様子で大人しく固まった。
「尾を振る犬は愛らしいが、お前の挨拶は私には些か距離が近すぎる」
な?と微笑みながら解放すると、犬神は暫し呆けたようにリオウを見つめたあと、慌てて玉章の元へと戻っていった。二人のあとに続くのは、先程までそこにはいなかったはずの不気味な妖怪たち。
「着いたね、七人同行。いや、四国八十八鬼夜行の幹部たち…」
玉章の唇が、満足そうに弧を描く。
「やれるよ。僕らはこのシマを奪う。昇っていくのは…僕らだよ」
黄昏の薄闇に消えていく背中を、リクオはぎっと睨みつけた。何者だ。リオウと面識があるのか。未だ情報が足りなすぎる。
兄がいくらか策を弄して守ってくれているとはいえ、完全に叩くためにはまず情報が必要だ。気が引けるが、誰かを諜報活動にかり出すしかないのか。
リオウは思案を巡らせるリクオを見て、ふっと口許を緩めた。少しは立派になったらしい。これが自分一人で背負い込むのではなく、上手く人を使うということを覚えれば言うことなしだろう。
「では、私はまだ行くところがあるのでな。リクオも家長さんも、気を付けて帰りなさい」
「え!?ちょ、兄さん!?」
リオウは黒羽丸に何事か言付けた。接触があった今、これから出歩くのは危険すぎる。止めようと声をあげると、突如突風が吹き抜け、リクオとカナは目を閉じた。
再び目を開けた頃には、そこには既にリオウの姿はなくなっていた。