天狐の桜9
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「いーーーの!!!僕が決めたんだから!!僕を鍛えるためにやってくれたんだよ!ねー牛鬼!」
「よくねーよ!」
「文句あるの!?」
「当たり前じゃ!!せめて解散させんのがスジってもんだろーがぁ!!」
(嗚呼、喧しい)
怒鳴るしか能がないのかこの無能どもめ…
声と図体ばかりでかい輩より、その下で必死に奔走する部下達の方が見ていて好ましい。物事の本質を見抜けていないらしい。醜い足の引っ張りあいで組が弱体化するなんてごめんだ。
リオウは苛立ちも露にたしんたしんと尻尾で畳を叩く。リクオは暫しキョトンとしていたが、特に気にした様子もなくニコニコ笑って続けた。
「その代わり牛鬼組の跡目候補で腹心の部下を本家預かりにして、更なる忠誠の証としたいってさ!」
ほんと牛鬼は真面目だよ、と人好きのする笑みを浮かべるリクオに、一ツ目は甘すぎるわ!!!!と怒鳴り付ける。
だが、リクオも負けていない。牛鬼組を解散させたら西側の妖怪勢力への防波堤が無くなってしまう。そっちの方が大問題だ。
「それに、牛鬼は約束してくれた」
僕がしっかりしてくれるなら、今まで以上に働いてくれるってね!!
それが一番問題なんだろーがぁ!!!!と一ツ目は手が出ん勢いでリクオに詰め寄った。埒が明かないとばかりに黙ったままの幹部をぎろりと睨む。
「狒々!!!!テメーはなんかねぇのか!!!!」
「………」
狒々はふむ、と独り言ちると、リオウへ視線を投げた。リオウは変わらず優美に微笑むだけで、特に言葉を返そうとはしない。
「御姫。御姫はリクオ様のご決断に任せるつもりなのじゃな」
「あぁ、そうだ」
リオウは尻尾をゆらした。これ以上話すことはないと言わんばかりのそれに、一つ頷くと、狒々は御姫がそう言うならと納得したように呟いた。
「何を馬鹿な!!!!」
納得がいかないのは一ツ目だ。
「こんなやつ三代目にしておけるか!!これじゃーー組は弱くなる一方よ!!愛国無罪か?逆に忠誠心薄くなるわ!!!!」
「一ツ目…」
「なんだぁ!?若いの!!オメーはこんなガキを支持するっちゅうんかい!?」
鴆は一ツ目の言葉に口をつぐんだ。それに気をよくしたのか、一ツ目は尚も鴆にたいして怒鳴り付ける。
「回りを見ろ!!空気を読め!!誰一人――」
シーー……ン……
辺りは静寂に包まれていた。俺は言ってない。俺も言ってないぞ、とジリジリと一ツ目から距離をとる幹部たち。
「お、おい…?」
(一ツ目…馬鹿な奴…)
呆然と立ち尽くす一ツ目に、牛鬼は目を伏せた。リクオの調子にのせられて、この場で孤立している。
嘗ては男気に溢れた豪気な人物であったというのに、長い年月はこれほどまでにその内面をも愚かに変えるのか。
「一ツ目よぉ…お前、あくまで組のためっていうんだな…?」
なんならお前も俺を試してみるかい?牛鬼みたいによ………
「ううーーーううう!!!!」
「なんてね。さ、戻って会議続けよっか!」
悔しそうに言葉にならない声をあげる一ツ目の肩を軽く叩き、リクオはにっこりと笑う。勝負あったな、とリオウたちは頷いた。木魚達磨は懐から奴良組規範を取り出して掲げる。
「みんな!!聞け!!奴良組規範 第二条!!“総大将の条件”により、若頭襲名をもって正式にリクオ様を三代目候補とする!!」
妖怪としての成人年齢“13歳”となるまでに、他の候補が現れなければ、改めて三代目総大将となる。
「うう…ううう…お、おのれ…」
「随分と納得がいかなそうだな、一ツ目」
ここに来て漸くリオウが自ずからその口を開いた。いや、だの、その、だのと煮え切らない一ツ目に、それまで優美に微笑んでいたリオウの笑みがすっと消えた。
「ところでお前は、リクオの資質について散々言ってくれたようだが。この私が…何の能もない木偶の坊に目をかけるほど優しいと―――本気で思っていたのか?」
絶対零度の冷たい瞳。表情を失ったその面差しは、より繊細な美貌が冴えざえと際立っている。華奢な肢体に似合わぬ重苦しく鋭い殺気に、一ツ目を始めとする幹部たちはぞくりと背筋を粟立たせた。
これが、奴良組副総大将の力か。
「私は、奴良組副総大将としてこの組を守る義務がある。――己の保身に目が眩み、足を引っ張りあう無能は要らぬと思わぬか?」
息をつくことさえ憚られるような静寂。リオウの言葉は厳しく、だが何よりも正論であった。誰もが己の行いを恥じて口をつぐむ。
「過ぎたことはもうよい。だが、幹部(ここ)が揺らげば下も崩れる。――これからのそなたらに期待している」
ふわりと浮かべられた完璧な微笑に、ぬらりひょんは内心呆れたように息をついた。何て奴だ。飴と鞭をうまく使い分けるとは。今ので惚けてる幹部連中を見れば、その効果がいかほどかなど一目了然。
(これが敵であったら…なんぞ考えるだけで恐ろしいわい)
ぬらりひょんは愛する天狐の成長に一人舌を巻いていた。