天狐の桜9
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食事が一段落した頃、一ツ目が漸々口を開いた。
「なんですかな?今日の総会は」
私の知る理由なら、赤飯など出るはずもない。
(特に理由もなく面白いから許可したと言ったら、こいつはどんな顔をするんだろうか)
こいつも馬鹿真面目に赤飯について考えてたのかと思うと、茶を噴き出しそうになる。ぱらりと扇子を開いて口許を隠し、リオウは居ずまいをただした。
「おい一ツ目ェ…」
「俺はねぇ…組のためを思って言ってるのよ?ただでさえ西方の勢力に押されとるんじゃ。ここらでビシッとなー。弱体化はごめんじゃ!!」
「そうじゃ…そこで組の強化のために、この総会で奴良リクオに正式に奴良組の跡目である「若頭」を襲名させる」
ぬらりひょんの言葉に、一ツ目はハ?と馬鹿にしたように聞き返した。今までてきとーにしてきたがな…と目を伏せたぬらりひょんは、しっかりとその鋭い眼光で皆を射抜く。
「よって牛鬼の件はリクオに裁かせる!」
「ちょっと総大将…今さらリクオ様に何の期待をかけているのですかハハハ…」
「リクオ」
半笑いでニヤニヤとぬらりひょんを見る一ツ目に構わず、リオウはスパンッと扇子で掌を打った。兄に促され、リクオはしっかりと首肯く。
居ずまいをただし、拳をついて礼をとったリクオは、滔々と流れるように語りだした。
「大安吉日のこのよき日に、奴良組総会にお集まりいただき、恐悦至極に存じます。只今紹介にあずかった奴良リクオでございます。このような高いところから甚だ失礼致しますが」
若頭のお役目、確かに承りました。今後――いかなることがございましてもこの盃、決してお返し致しません。
中々立派な挨拶に、リオウはついと目を細める。ふむ、やはりやればできるではないか。あぁ、成長が見えるとはこんなにも嬉しいことなのか。
「しかしながら私、未だ妖怪任侠道を修行中の繊弱なる駆け出しの若輩者でございます。その言葉の間違いや――皆様に失礼な言葉を申したる節はこのような次第ですので、何卒御容赦頂きたく存じます」
「り…リクオ…?」
「なんじゃ…?急に…」
鴆や牛鬼すら瞠目している。ボンクラの腑抜けとなめてかかっていた幹部連中なんて、その驚きもひとしおだ。
(本質を明るみに出さず、のらりくらりと相手の懐に忍び込み、油断したところを自分の領域に引きずり込む――か)
何て狡猾で恐ろしい男だろうか。しかもこれが無意識だというのだから質が悪い。さて、これでリクオの本質が見抜けたものは何人だろうか。
「リクオ様、では牛鬼の件を私から説明させてもらいます」
「うん」
「奴良組相談役の木魚達磨でございます」
先日牛鬼は、リクオの学友を使い、自らの土地である捩眼山に誘きだした。そこで刃を向け、殺そうとしただけではなく、すでに破門された旧鼠を操り、リクオに引退を迫る回状を回させようとした次第だ。
やはり、と幹部連中が一斉にざわめく。バカな奴だ。待っているのは切腹か破門か。いずれにしろ牛鬼組解散は免れない。
「リクオ様…御処分を」
「うん」
リクオは懐から1枚の料紙を取りだし、ばっと皆に提示する。
「おとがめなし!!!」
・・・・・・。
「「「ハァ!!??」」」
たっぷり数呼吸分おいて、漸く理解したらしい幹部たちの驚きの声が上がった。何故だ!?それほどのことをしていながら何故おとがめなし!?
「総大将!?こりゃーちょっとおかしーのと違いますかい!?リクオ様はなにも分かってねぇ!!!若頭とか正気で言ってんですかい!?」
思わず立ち上がって詰め寄る幹部たちに、ぬらりひょんは黙って鼻をほじるだけで、知らん顔をしている。
リオウ様はどうお考えか!?と一斉に視線がリオウに集まるが、リオウも微笑みながら尻尾を揺らすだけで、特にリクオの判決を否定しようとはしない。