天狐の桜8
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「う~~ん、ねこさん、マタタビおいしいよぉ…」
すっかり酔いつぶれてしまったカナは、テーブルに突っ伏してむにゃむにゃと寝言をいっている。
「この子家どこですかねー?」
「構わぬ。私の式に送らせる」
リオウは懐から一枚の護符を取り出した。ひょいと放り投げれば、人の身の丈ほどありそうな大きな白い狐が現れる。
「家まで送ってやれ」
カナを背にのせると、狐は迷わず天を駆けていく。さて、我々も帰らなくては。リクオは面白くなさそうにそれを見ていたが、ふと思い出したように呟いた。
「指輪」
「?」
「指輪。返してもらったのか?」
「あぁ、この通りな」
リクオはカナから返してもらった古ぼけた指輪を、リオウの手から奪い取った。ポカンとする彼の繊手をとり、左手の薬指に指輪をはめる。
「兄貴自身をもらい受けるのはまだ早くても、予約をするなら良いだろう」
そっと指輪がはめられたその指に、見せつけるように口づける。
「この指は、俺のためにあけておけ」
「……マセガキめ」
リオウは慌てたように手を引っ込めた。悪態をつきつつ、否定はしないということは、期待しても良いんだろうか。照れたように頬を染め、毛並みの良い尻尾でばしばしと叩いてくるのが可愛らしい。
「!」
リオウは店の外から鋭い殺気を感じた。数体の妖の気配。――いずれも、うちの組のものではない。
「……来たか」
リオウは素早く結界を張った。ついでリクオの手をとってふわりと姿を消す。二人が姿を消した直後、凄まじい風が化け猫屋を襲った。
瘴気を伴う毒風は、リオウによって張られた結界に当たって霧散する。凄まじい音と爆風に、化け猫屋からは良太猫たちが飛び出した。
「ここが、奴良組の本拠地、浮世絵町――」
「首都(とーきょー)にあるのにな~~んか古臭い街だな~~」
きょろきょろと辺りを見渡していた男子高校生とみられる少年は、気だるげに舌を出したまま目を細めた。つまらない街。首都にあるのだからもっと都会かと思っていたのに。
もう一人の黒髪の高校生らしき少年は、そんなことより、とリオウが張った結界にうっとりと視線を向ける。
短時間でこの屋敷をおおう結界を作れるとは。しかも今の攻撃を食らっても傷ひとつついていない。
「流石はリオウ様。――期待通りの力だ」
だが所詮はそれだけ。いくら彼が優れていようと、周りはボンクラばかりの甘ちゃん一家。現に飛び出してきた面々も、何があったのか把握できていないらしい。
「てーさつに来て良かった」
この街を制圧する日数は、多く見積もって1週間だな
翌朝、リクオは自己嫌悪の渦に陥っていた。昨夜は、雲外鏡から助けたカナを化け猫屋へ連れていき、朝まで兄とカナの三人で妖怪たちと過ごしていた。
「って何やってんだ僕…」
カナちゃんは妖怪が嫌いなのに。どんな嫌がらせをしてるんだ僕は。もっと違うやり方があっただろう。 どうしてこうも夜になると冷たくなるのか。
「おはよう」
思案の渦中の人物に突然話しかけられ、リクオは思わず飛び退いた。うっかり昨日はごめんと口走りそうになってあせるリクオに、カナはそっと彼の眼鏡を差し出す。
「僕の?」
「捩眼山で拾ったの」
(そーだ…どこかでなくしたと思ってたら…)
「リクオくん。あなたに聞きたいことがあるの」
何かを見極めるようにジト目で此方を見るカナは、今までになく真剣な面持ちで。
「今までの行動とか思い返してみて、リクオくんがいると…あの人たちがいるの。特に、あの狐さんが」
「もしかしてリクオくん…あなたとあの人たちって…」
やばい
どき、と心臓が嫌な音をたてる。どうしよう。ついにバレたか。
「お友だちなんでしょ!?」
(えぇーーーーー!!??)
それはリクオ渾身の魂の叫びであった。そりゃあそうだろう。バレたかと思って身構えていたら、まさかの友達なんだろう発言をかまされるとは。
「ねぇお願い!今度また会わせて!」
「よ、よくわかんないけど…何で会いたいの?その狐さんに…」
「べ、別に…い、いいじゃない。リクオくんには関係ないでしょ…///」
(えぇーーー!!!顔が赤いよカナちゃん!?)
兄さんまた余計なの釣り上げてー!とリクオは最早気が気でない。清継だけでも面倒なのに、カナにまで狙われるとは、魔性の魅力をなめていた。
あの人のお名前は!?と食い下がるカナに、知らないよ!と半ば悲鳴のように返しながら学校への道をひた走る。
(あぁもう!今度から兄さんは皆に会わせたくない…!)
「リクオくんってばー!」
「ほんとに知らないんだよー!」
バタバタ駆ける二人の姿を、朝の太陽の光が優しく包み込んでいくのだった。