天狐の桜8
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周りの妖怪たちはヒューヒューと冷やかしながら、今度はカナへと視線を向ける。
「カナちゃんはさ~、いないの?好きな子」
「へぇ!?わ、私は…」
どうしよう。いや、ここで言えばあの人の情報も何かわかるかもしれない。それに…こんな話、人間にはできない。
「…昔、すごく怖い思いをしたときに、すごく綺麗な狐さんに助けてもらったんです」
傷を治してくれて、優しく声をかけてくれた。再会したときも、あのときと同じく優しく声をかけてくれて、御守だと指輪を預けてくれた。
「これは、あの人に借りている御守りなんです。今日怖いことがあったときも、これが助けてくれて…。返さなきゃいけないけど、でも返したらこれっきりになっちゃう気がして寂しくて。また、会いたいなぁって思うんです」
「ほぅ…嬉しいことを言ってくれるな」
突然話に割り込んできた甘い声に、カナたちはビクッと肩を跳ねあげた。リクオも僅かに目を見開き、いるはずのない最愛の天狐の姿に瞠目する。
「ふ、副総大将!」
「いらしてたんですか!」
「あぁ、出先で色々あってな。湯と着物を借りに来ていた」
妖怪たちがリクオのとなりをあけ、リクオ自身も隣に来るものだと腕を伸ばすが、それをひらりと避けてカナの隣へと座る。
ぴしりと音をたてて、リクオとその周りでどれだけリクオがリオウを好いているかを知っている面々の空気が凍った。なんだ修羅場?修羅場なのか?と状況を読めていない奴等はわくわくした様子で此方を覗きこんでくる。
「お前もすみにおけないな」
「そんな気がないことを一番よく知っている筈だろ」
「さて、どうだかな」
しれっと返して、もういいとばかりに尻尾を揺らす。あまり表には出さないが、機嫌はそんなによくないらしい。無意識に嫉妬しているのだろうか?本人もわかっていないようだが。
嗚呼、なんと可愛らしいことか
「足をくじいたか。瘴気も浴びているようだな。――ここに来る前、悪鬼に触れられはしなかったか?」
「えっ…あ、おっきな鏡の妖怪に飲み込まれそうになって、そのとき…」
「ほぅ。…よし、では今楽にしてやろう」
リオウはふわりと優しく微笑むと、カナの頬を両手で包み込み、額を合わせた。カナは一気に茹で蛸のように赤くなり、リクオは角度的に唇を重ねているように見えたがためにがたりとけたたましく立ち上がる。
「落ち着いて目を閉じろ。大丈夫。すぐ終わる」
言われるがままにぎゅっと目を閉じる。ぶわっと体のなかを何かが駆け抜けていったかと思えば、体はスッキリと軽くなり、足の痛みも何処かへ消えていた。
「え…い、痛くない」
「ふふ、それは良かったな」
目を輝かせるカナの頭を数度撫で、リオウはついとリクオを流し見る。嫉妬をにじませた「男」の表情。傍に寄ればとって食われそうな雰囲気を察して、リオウは曖昧に微笑んだ。
(絶対に傍に寄らねぇ気だな…)
リクオはひくりと顔をひきつらせる。男をここまで焚き付けておいて、逃げられると思っているのか。
妖怪たちとミニゲームを楽しむカナを見守りながら、良太猫と百鬼花札について語るリオウの腕を隙を見て強く引っ張る。
「っ!?」
急に腕を引かれたことで体勢を崩したリオウの腰を抱き、しっかりと受け止める。良太猫を始めとする二人の周りの妖怪たちは、皆焦ったように背を向けた。見てはいけない。若に殺されてしまいそうだ。
「今日は煩ェ側付きもいねぇんだな」
「あれには別に用を頼んだ。今頃は屋敷で気を揉んでいるだろう」
離せ、とリクオの肩を押す。座っているリクオに覆い被さる形で膝をついたリオウの姿は、幸いにもカナの位置からは妖怪たちに遮られてみることはできない。だが、それとこれとは話が別なわけで。
「危機感が無さすぎるんじゃねぇか」
「人間の女連れでこんなところに来たお前が何を言うか」
「妬いてんのかい」
「世迷い言を…」
離れようと肩を押すも、腰を抱く腕はさらに強くなる。いい加減にしろ、と苛立ちも露に尻尾が畳を叩いたとき、リクオはちゅ、と音をたててリオウの首筋へ吸い付いた。
「っぁ、なに、を…!?」
「危機感が足りねぇ嫁さんの為に、印だ」
「っ、ふざけ、ん…っ」
ちりっとした痛みにびくりと細い肩が戦く。白い首筋に赤い華がよく映える。二、三同様にして痕をつけると、リクオは満足そうに口許を緩めた。
「こうでもしねぇと、見せつけられねぇだろ?」
俺の嫁だと
人も妖も虜にする魔性の天狐は、リクオの言葉にかぁっと頬を赤らめた。ぬらりひょんといいリクオといい、奴良家の男はどうしてこうも「虫除け」したがるんだか。
「――お前に私はまだ早いと言わなかったか」
ふわりと腕に抱いていたリオウの姿が虚空にかき消える。瞠目するリクオに、こんな術も見破れないようではまだまだだ、とリオウは目を細める。
「…その気になれば自分で抜け出せんのに、今の今まで抜け出さねぇで大人しく収まってたことに気づいてねぇのか」
襟元をきちんとただし、今だはしゃぐカナたちの元へまざりにいったリオウの後ろ姿をじっと見つめながら、リクオはくつりと笑った。