天狐の桜8
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時は戻って四半刻前――
「いらっしゃい」
リクオは化け猫横丁の番頭前に来ていた。番頭の翁はリクオの姿に目を細める。
「おりょおりょ。じじいのとこの孫じゃーないかぇ。もうこんなとこ来る歳になったのかい…」
通りな。妖怪だったらフリーパスだ。
「ん?今…誰か連れてなかったかい?」
「こっちだぜ」
「うわっ」
カナは思わず声をあげた。そこでは様々な妖怪たちがゲラゲラ笑いながら楽しそうに食事をしている。
落ち着きなくキョロキョロと視線を彷徨わせるカナに構わず、リクオは臆することなく暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませー!」
「ご来店ありがとうございます!」
「妖怪和風お食事処「化猫屋」へようこそ!」
「よう」
思わず固まるカナを尻目に、リクオは軽く挨拶をする。ニコニコと人のよい笑顔を浮かべた店員たちは、お荷物お持ちしますね~とカナの肩掛け鞄に手をかける。
「わっ!?あ、いえ…」
「どうした?あんたが望んだことだろう?」
「え…そ、そうだけど…」
でもこんなところに来るなんてーーー!?
この人に学校で助けられたとき―――
「待って!あの…あっ!」
慌てて立ち上がろうとするも、先に痛めた足のせいでそのまま倒れこんでしまう。リクオはふわりとカナを抱き止めた。
足を怪我しているのか。どうしたものかと暫し思案したのち、しかたないな、と心のなかで独り言ちて、ぐいっとカナを横抱きにする。
「きゃ!?あ、あの、そんなつもりじゃ…!」
頬を赤らめて慌てるカナは、突如再び震えだした人形に、ひぇぇえ!?と声を上げた。
《どーなったー?無事かー?家長さーん》
「あ…」
心配をかけていたのをすっかり忘れていた。大丈夫、妖怪じゃなかったと言い募れば、清継は訝しげに本当か?と返事を返す。
《まさか…またあのお方たちに助けられたんじゃないだろうねーー?》
「え!?」
《いや…君ばっかり出会うからさー。まぁ無事ならいーけどね!》
「私ばかり…?」
切られた電話を見ながら、カナは清継の言葉を考える。確かに、旧鼠の時は妖怪の主に、先日の捩眼山では天狐に出会った。そして今回も……
(そうよ、私この人に色々聞かなきゃ…知りたいことが山ほどあるの)
「あの!あなたって…ひゃっ!?」
ふわりと飛んだ。そのまま軽くフェンスのポールに降り立ち、再びひょいと飛び上がる。空飛んでるーー!?ともはや大パニックなカナに、リクオは家に送るだけだぜ、としれっと返す。
「こっち…だよな?」
「いや…!」
「?」
不思議そうな顔で見下ろすリクオに、カナはすがるように上目使いで口を開いた。
「お願い…もうちょっとだけ一緒に…」
あなたたちのこと…もっと、教えてください!
「………」
暫し口をつぐんだリクオは、怖い思いしても……いいんだな?とぼそりと呟く。
あのときはなんの事かわからなかったけれど、今漸く…あの人の言ったことがわかった。本当にこの人は妖怪の主だったんだ!
「ひゃっひゃ~!若ぁ、良いんですかい?こんなとこあの方に見られたら愛想つかされちゃいますよ」
「あぁ、嫁さんに愛想つかされるのは困るな」
「お嫁さん…?」
あぁ、リクオの兄であるリオウの事か。やはり、彼は妖怪の主の嫁であり、彼のいるところにこの青年も現れるのか。
「あの、あなたのお嫁さんって、あなたにとってどんな人なんですか…?」
「ん?」
リクオはついと空を見つめた。そうだな、と言葉を探す。いつのまにか周りの取り巻きたちもリクオの言葉を目を輝かせながら待っている。こんなに堂々と若の惚気を聞けることなんて早々ない。
「容姿も心も信念も――何もかもが綺麗で、だからこそ周りを虜にするんだが、そんなところも含めて最高の嫁さんだ」
リオウのことを語るその顔は、愛しいものを想う優しい顔で。
「私、あなたのこと応援しますね!」
そんな言葉が、自然と口をついて出ていた。人間と妖怪となれば、その恋路はなかなか大変なものなのだろう。リクオはキョトンとした様子で数度瞬くと、そうか、とだけ呟いた。