天狐の桜8
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さて、カナが無事助け出されたその頃
関東大猿会の面々を無事に本家へと送り、狒々の屋敷にある術を施したリオウは、すっかりと夜の帳の降りてしまった空に嘆息した。
随分と時間がかかってしまった。式を飛ばして帰りが遅れる旨は伝えたのだが、今頃黒羽丸が遅すぎると血眼になって探している頃だろうか。
(だが、これだけボロボロで帰れば、何を言われるかわかったものではないな)
狒々と対峙した際にボロボロになった着流しにを見て息をつく。傷自体は大事ないのだが、所々白い肌が覗いているのはいただけない。
(皆に知られぬよう湯浴みをして着物を……無理だな)
潔く一番街の良太猫の所にでも行って、湯と着物を拝借するかと算段をつけ、リオウはふわりと姿を消した。
化け猫屋にふわりと甘い香りの風が吹き込んだかと思うと、そこにはリオウが立っていた。
「ふ、副総大将!どうされたんですかその格好!?」
「ちと色々あってな。大事ない。湯と着物を頼めるか?」
「勿論!」
副総大将に何着てもらいたい!?なんてやんややんやと騒ぎ立てる声が聞こえる。奥に通され、湯殿へと案内される。
(…沁みるな)
ボロボロだったのを気遣ってか、大きな浴槽には薬湯が張られていた。体を洗って湯船にはいる。白い肌に無数につけられた切り傷は薬湯に触れると確かな痛みを伝えてくる。
「くぉら。まーた無茶しやがったな」
「……人の湯浴みを覗いた挙げ句、じろじろ体を見るとは父上もなんと趣味の悪い…」
声の方を見もせずに面倒そうに尻尾を揺らすリオウに、鯉伴は頬をひきつらせた。一丁前に生意気言いやがってこの野郎。そんなところも可愛らしいと思ってしまうのが悔しいところ。
リオウは長い髪を高く纏めあげ、暴力的なまでの色気が漂っている。
「父上がいらっしゃるということは、リクオが来ているのか」
「あぁ。女連れでな」
「…おんな…?」
リオウは僅かに目を瞠った。思いがけない言葉だったらしく、こてんと小首を傾げて思案を巡らせる。
「………まさか人間を連れ込んだのか?」
「おっ妬いたか?お前には全然及ばねぇが、そこそこ顔のいいガキだぜ」
「妬いてなどいない」
「んじゃ、拗ねてんのか」
「…………」
にやにやと食えない笑みを浮かべる鯉伴に、今度はリオウが頬をひきつらせる番だった。話を聞け、と目を眇めるも、はいはいと笑って聞き流される。
……………完全に遊ばれている。
「父上」
「今はここまでだ。…屋敷についたら捩眼山の一件も含めて説教な」
「…………それもあるのか…」
「当たり前だ」
心底めんどくさそうにリオウは膝に顔を埋める。最近叱られ過ぎではないか?そんなに問題だと思う行動を取った覚えもなければ、怒られることについて納得もいかないことが多い。
鯉伴は、今は触れることも叶わない息子のうなじへと唇を寄せた。
「父上?」
「―――いや、何でもねぇよ」
またな、とヒラヒラ手を振って鯉伴は姿を消した。リオウは釈然としない様子で柳眉を寄せていたが、ざぱっと湯船から立ち上がる。
用意されていたのは、藍色に桜が刺繍された美しい着物。…なのだが。どこからどう見ても女物である。
(…これが、着てほしい着物か)
着流しのように着付けをし、用意されていたこれまた女物の猿地色の羽織を羽織り、長い髪を片側に流し、緩く結ぶ。
「あ、お湯加減はいかがでしたか?リオウさ、ま…///」
「あぁ、丁度良かった。礼を言うぞ、良太猫」
これが好みか?とリオウは妖艶に微笑む。流石というべきか、女物の着物であるのが彼の持ち前の色気をさらに際立たせ、風呂上がりで上気した肌が目の毒だ。
「よ、よくお似合いで…///」
「ふふ、世辞はよい。助かった」
リクオが来ているらしいな、と微笑めば、え゙っと化け猫屋一同の時が止まった。なんで知っているんだ。
いや、別にいいんだが、今リクオは女連れで来店している。彼の名誉のためにも、それは伏せていた方がいいのだろうか。
「いやぁ…若のお姿はちょっと見てな」
「―――来ているんだな」
「っう、へぇあ!?///」
良太猫はくいとリオウに顎を持ち上げられ、すっとんきょうな声をあげた。急に近づいた端正な顔。思わずはい、と素直に返事をしてしまうと、それはそれは麗しい笑みを浮かべ、良太猫の耳へと唇を寄せた。
「良い子だ」
「っっ~~~~~!!??////」
まさに色気の暴力。連れていってくれるな?と目を細めるリオウに、すっかり色気に当てられた良太猫たちがかなうわけもなく。
「は、はい///」
大人しく頭を垂れる面々に、リオウは機嫌良さげに純白の尾を揺らした。