天狐の桜8
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一方、リクオはというと、雑務に学校中を奔走していた。リオウに頼まれていた指輪も、恐らくカナはまだ帰っていないだろうし、なんとかなるだろう。
(それにしても、なんで兄さんはカナちゃんに指輪を?)
捩眼山で他の妖怪から守るためか?いや、それならもっと早く自分に回収を頼むはず。だが兄はそうしなかった。わざわざ「今日」返してもらえと頼んできたのだ。…一体何故?
「………ん?いや、待って。そもそもなんで指輪!?」
絶対他にもやりようがあったのでは?指輪にする必要はなかったのでは?なんてぐるぐる考える。早い話が何故自分にではなく他の人間に指輪を渡したことに妬いているのである。
(まぁいいや…指輪はほら…僕から贈ってあげたいし)
どこか思考がずれているが、まぁそれはそれ。リオウが絡むと思考が斜め上方向に大きくぶっ飛んでしまうところがリクオのリクオたる所以である。
と、リクオは肌に己以外の妖気を感じて動きを止めた。雪女はすでに帰った。青田坊も同じくだ。
(これは、妖気…?どこにいるんだ?)
それと微弱ながら、リオウの神気に似た気配を感じる。来ているのか?いや、それにしては気配が薄すぎる。一体どこに…?
得たいの知れぬ不安と胸騒ぎに、リクオは校舎へと駆け出した。
屋上で未だ活動を行っていた清継は、自分を妖怪化したような人形を手に取った。先程カナに贈った人形と同じタイプのものである。
「家長さんに渡したバースデープレゼント、ただのブランド品だと思うかい?」
「え?何?金でもつまってんの?」
「サプライズだよ。きっと喜ぶぞー家長さん。僕と友達であることを感謝するだろう」
まるで電話のように耳に当てる。この時清継は、自分で贈ったその人形に、カナ本人が腰を抜かして悲鳴をあげているとは思いもしないだろう。
「いやぁああぁあ!!!こ、これも妖怪ーーー!?」
「そこに…いるのォ…」
雲外鏡がトイレの鏡からズズ…と姿を現そうとする。あぁ、もうダメだ。本気で諦めかけた時、人形から聞き覚えのある声が流れてきた。
《ガーガーズビー…家長さん?聞こえるかい?》
「!?」
「驚いたかなー?清継だ!ハッハッハ!実はこの人形、清十字団の通信機になってるんだよーん」
「き…清継くん!?」
助けて!!!とカナは人形にすがり付いた。鏡の妖怪に襲われて、今は学校の何処かの男子トイレの中にいる。だが、連絡がとれたのもそこまでで、後はすべてザーというノイズ音に変わってしまう。
護符を手にしたゆらを先頭に、清継たちは学校の男子トイレを確認しに走った。だがどこのトイレも妖気の欠片すら…まったく気配すら感じない。
「あ…まってここよ…!なんで見えないのぉーーー!?」
窓ガラスのように向こうがうつる鏡を殴り付け、必死に声をあげるも、無情にも気づくものはいない。
「カナちゃん…いたぁ…遊ぼ…7年前の続き…」
「いや…そんなの知らない…!っぁ…!?」
ある映像が、強烈に頭に流れ込んできた。
小さいとき公園で遊んでいた記憶
『わー何これー』
『見ろよ。気持ち悪い鏡ー』
『紫色の鏡だー』
『どーしてこんなとこ落ちてんだろー』
何人かで鏡を見た。そのあと一緒に見てた大きな子達が、中学生になってから行方不明になったと聞いた。
そう、これこそが、妖怪 雲外鏡である。
通称 紫の鏡と呼ばれるそれは、本来は“魔を照らす鏡”。この鏡を見ると、13歳の誕生日に殺される。
古代、13という数字は十三の発音が実るという意味の實生(みしょう)に近いため、妖怪の世界では昔から成人の歳と言われている。
その吉日である日に実った子供を狩る妖怪――
「誰も…来れないよ。妖怪じゃないと…入れないから……」
「いやぁぁぁぁあ!!!」
「カナちゃん!?」
突然、リクオの声がした。はっと気がつけば、鏡の向こうからリクオが此方を見ている。
「り、リクオくぅん!?」
「!まさか…妖怪!?」
ガシャンッと音をたてて派手に鏡が飛び散る。雲外鏡は瞬時に鏡を叩き壊した。何故鏡面世界(こっち)が見える。此方は妖怪の世界。人間には見えないはず…。
「ここは…オデとカナちゃんだけ…ねぅええええカナちゃんんんんん」
「ハゥワッ…」
カナは雲外鏡に押し潰されるようにしてぶつかられた。酷い痛みを伴いながら、ピキピキと音をたてて体が鏡に飲み込まれていく。
「!?痛いっ顔が…!いや…吸い込まれ…!?あぅわ…!」
上半身がズズズ…と飲み込まれていく。その時、メキメキッと雲外鏡に細かいヒビが入り、カナは雲外鏡に吐き出された。
そこにいたのは、嘗てかの天狐と共にいた謎の妖怪の青年。
「てめー俺のシマで、女に…手ェ出してんじゃねぇぞ」
青年がドスを一閃させると、鏡という鏡にヒビが入り、鏡面世界が音をたてて崩壊した。片腕で軽々とカナを抱いて鏡面世界を後にする。
「………あ、ありがとう………」
呆然としすぎて言葉が出てこない。何故この人がここに?だって今、鏡の外にいたのは―――
この人、もしかして…!?