天狐の桜8
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「ふぅーー…」
カナは教室で帰り支度をしながら、深いため息をついた。変に強い眠気に襲われる。変に怖い夢で良く眠れないからだろうか。
(そーいや私が怖がりになったのって、あの…夢のせい…だったような…)
ずるずると引きずり込まれるかのように、微睡みの中へと落ちていく。
頭を撫でる、大柄な手
『カナちゃん…可奈ちゃん…君はまだ6つか』
どこか禍禍しい不気味な声
『じゃあ大きくなったら遊んでね』
13歳になったら迎えに来るよ
「!!!」
カナはバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。辺りはシンと静まり返り、教室には自分以外に残っている生徒はいない。
なんだっけ…?約束?これは夢よね…?心臓が早鐘を打っている。怖い。得たいの知れない物がヒタヒタと近づいてくるような、えもいわれぬ恐怖。早く帰ろう。暗くならないうちに…
鞄をひっつかみ、転がるように階段をかけ降りて、校門を出ていく。
その頃、清継たちはカナの異変を知る由もなく、「妖怪体験談大発表会」を続けていた。ノートパソコンに映し出された画面を見ながら、これほどまでの清継は神妙な面持ちで語り出す。
「『紫の鏡』の話…知ってるかい?諸説あるが、その言葉を「20歳の誕生日」に覚えていたら、呪われて死んでしまうってやつだ!」
「うげげげげぇ~~~!覚えちゃうじゃない~~!」
「まぁ聞きたまえ。実はこの町で数年前…正確には7年前、「13歳の誕生日」に死んでしまった子が何人もいたんだ」
皆は水を打ったように静まり返った。清継は気にせず言葉を続ける。
「僕はそれが妖怪の仕業じゃないかって思うんだよね」
駅までの道をひた走る。だが、何故だろう。いつもと変わらぬ通学路なのだが、不思議なことに誰ともすれ違うこともなければ、走っても走ってもなかなか駅に辿り着けない。
(あれ…駅って…こんなに遠かったっけ)
息は切れ、疲労で足が上がらない。それでも何かに突き動かされるように帰り道を急いでいると、向こうから自転車に乗った謎の物体がこちらに向かってくることに気がついた。
それは一瞬異常に頭の大きな人影のようにも見えたのだが、すぐにそうではないことに気づく。
きぃ、と音をたてて己の前に停まったそれは、巨大な鏡の頭部を持ち、不揃いな歯がずらりと並んだ大きな口を持つおぞましい妖怪であった。
妖怪――雲外鏡はカナを見て、その大口をニタリと歪めて呟いた。
「みぃつけた」
鼓動が早鐘を打っている。早くここから離れなければと本能が警鐘を鳴らしている。だが、足は意に反して動かず、喉は恐怖からひきつり、悲鳴をあげることすら叶わない。
「ひ…あ…う…!」
まともに声すら出せないカナに、雲外鏡はより笑みを濃くした。あぁ、ずっと待っていたのだ、この時を。
「13歳のお誕生日…おめでとう…カナちゃん」
カナちゃああ~~~…ん。来た…よぉーーーーー…
(に、逃げ…逃げなきゃ…)
足を動かさなくてはと思うのに、膝が笑って言うことを聞かない。体が石になったように重く、体を自由に動かすことができない。
その時、まばゆい光が辺りを包み込んだ。見れば、かの天狐から預かった指輪が強い光を発している。一際強い光を放ったかと思えば、何処からか不思議な声が響いた。
『まったく…親父にこんなことさせるなんてな』
光が消えたかと思うと、目の前では妖怪が顔を押さえて踞っていた。顔の鏡にはヒビが入り、悲鳴をあげてのたうち回っている。
「おぉのれぇぇぇ~~~…!!!」
「う、うううわぁぁぁあぁあ!!!」
カナは死に物狂いで駆け出した。すぐに雲外鏡も自転車で追いかけてくる。階段を駆け降りる。
(何っ!?こいつ…怖いよぉっ…夢に出てた妖怪…どうして?何が…?)
「にげ、られないよ…」
ガァァァン…
金属が強くぶつかる様な音が遠くで響き、次の瞬間目の前の景色が一変していた。つい数刻前までいた学校の階段。カナはもんどり打って階段から転げ落ちた。
「痛っ…!!!」
足をくじいてしまったらしい。だが、息をつく間もなく、雲外鏡が階段の踊り場にある鏡から姿を現した。
「うう…カナちゃん…」
「わぁああぁぁあ!!!」
鏡の中の鬼ごっこだと言いながら、ずるずると鏡から這い出してくる雲外鏡に、足を引きずりながらも必死で逃げ回る。腰が抜けたのか、床を這うようにして、カナは理科室へと身を隠した。
(どうして…?私学校から帰ったはずよ…それなのに何故ここに?教室でうたた寝をして…でもすぐ起きて校門をくぐったわ!)
駅に向かった…はずなのに…
カタカタと自身の鞄が揺れる。手鏡のから雲外鏡が出てこようとしているのだ。
「ひぃっ」
「カナちゃん…この部屋…鏡…ないよ…」
狭い、とぼやいた雲外鏡は、自身の妖力を解放する。ふっと景色が移り変わったと思えば、そこは何処かの男子トイレに変わっていた。
(か、鏡…鏡から出てくる…早く、ここから逃げなきゃ…)
慌てて立ちあがり、バタバタと駆け出す。だが、その拍子に蹴飛ばした鞄から清継からのプレゼントが零れ落ち、それがヴーヴーと低い音をたてて動き出す。
「ひいぃぃぃ!!??」
カナは腰を抜かしてへたりこんだ。まさか、清継からもらったこの人形も妖怪だったというのか。
「なんで…!どうなってんのよーーーー!!!」