天狐の桜8
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放課後の浮世絵中学校――
部活動に励む沢山の生徒たちの声が聞こえる。草木が鬱蒼と繁る校舎裏。喧騒が遠くに聞こえる人気のないその場所で、一人の男子生徒が玉砕していた。
「あの…ごめんなさい」
カナは告白をしてきた男子生徒に、困惑したようすで返事を返す。男子生徒は、乾いた笑いを浮かべながら動揺に視線を彷徨わせた。
「あ…そう…ですか、はは…好きなひとが、いるからですか?」
「好き…って程じゃないけど、気になるひとなら…」
思い浮かぶのは、幼い頃も、そしてつい先日も自分を助けてくれた美しい天狐。初めて会った日から、彼が心を離れない。
なぜ助けてくれたのか。いつもどこかで見ているのだろうか。次はいつ会えるのだろう。――もっともっと、彼のことが知りたい。
『安心しろ。目を瞑っている間にすべて終わる』
甘く色気のある美しい声と微笑を思い出して、カナはぼっと赤くなった。それを見てうわぁぁと半泣きで駆け出す男子生徒。あんな顔させるやつがいるなんて、勝てるわけないじゃないか!
物陰からこっそりとその様子を見ていた他の生徒たちは、皆玉砕した男子生徒に生暖かい視線を向けていた。仕方ない。相手は学年で5本の指に入るほどの美少女だ。
だが、この可愛いと評判のカナも、妙ちくりんなクラブ活動に入っているのだという。何でも妖怪を調べるとかいう例の―――
屋上ではゆらによる陰陽護身術の修行が行われていた。所謂禹歩の修行なのだが、ずっとぶっ通しで続けられるのは流石にきついらしく、巻と鳥居はヒーヒー声をあげている。
「ハイそこ!違う!式神のかまえは「こう」や!」
恥ずかしがったらあかん!とゆらは熱弁する。大事なのは妖怪に負けない「凄み」だ。
「そうそうそのステップ忘れずに!それで妖怪から逃げるんや!逃げ腰とは違う!これは生きる術や!」
陰陽師の「禹歩」は妖怪から身を守る未来への一歩やで!と熱弁するゆらに、巻と鳥居はへとへとだ。
それを尻目に、カナは屋上の床に蟹股で這いつくばり、双眼鏡を手にリクオを観察していた。…百年の恋がいっぺんで覚める光景である。
リクオの横では及川がベッタリ張り付いていて、益々仲が疑わしい。
(つ…付き合ってるのかな~?いや、でもリクオ君はリオウさんにしか興味ないし…。そ、そういえば及川さん、やたらリオウさんに馴れ馴れしかったし、リオウさんも頭撫でたりしてた…!き、気になんかしてないけどぉ…)
あーでもないこーでもないとぐるぐる考える。だめだ。考えがまとまらない。これは最近またよく見るようになった変な夢のせいなのかもしれない。
巨大な鏡に顔がついた不気味な物体が、幼い自分の頭を撫でて『また会おうね』と執拗に言ってくる変な夢。最近誕生日が近づくにつれ見る回数が多くなった。
どんなうたた寝の時でも見てしまう。かの天狐から指輪を預かってからは見なくなったのだが、何故か今朝は見てしまった。
「………やっぱ…帰ろ…」
「何してるん?家長さん」
がっしとゆらはカナの肩をひっつかむ。ついで、さぁ家長さんもレッスンや!とゆらはカナの腕を引っ張った。本当はいの一番にこのレッスンを受けてほしいのはカナとリオウだ。
特にリオウ。彼の妖怪に襲われる頻度といい向こうの執着度合いといい、あのままではまずい。早急に手をうたなくては本気で妖怪の嫁にされてしまうだろう。
「やぁ諸君!やってるね!」
パソコンを片手に屋上に上がってきた清継は、皆の様子をぐるりと見渡し、満足そうに頷いた。青空の下、陰陽護身術の修行とはなんと素晴らしい光景だろう。捩眼山での反省点が生きていて実に素晴らしい。
「と、その前に」
清継はカナに可愛らしくラッピングされた小箱を差し出した。今日はカナの誕生日。マイファミリーにプレゼントを渡すのは当然のことだ。
「あ…ありがとう」
「わっ…清継くんすごーい!イケメン~」
「高級そうな入れ物~」
何が入っているんだろうときゃあきゃあ声をあげる巻たち。だが、中から出てきたのはいかにも手づくりといった様子の、なんともおどろおどろしい人形。
「何…これ…」
「家長さんを妖怪化した人形だ!どうだい超絶素敵(キュート)だろう!」
自信満々な清継に、巻はうげぇ~と顔をひきつらせる。絶対要らない。自分なら気持ちだけ受け取って捨てたいくらいには要らない。
これはブランド品だぞ!とぷんすか怒る清継に、なんだそのムダなコネはと皆であきれる。カナはげんなりとした様子で踵をかえす。
「ちょっと…もう今日は帰るね…」
「え?おいおい。今日は新着妖怪体験談大発表会という大切な―――」
「ごめん…妖怪の話は…今日は…」
どこか疲れたように力なく笑いながら去っていくカナに、島は彼女が怖がりなことを思い出して合点がいったように頷く。その彼女が何故この清十字怪奇探偵団にいるのかは不明だが。
「なんで清十字団にいるんだろ…?」
「こら!その発言は失礼すぎるぞ島くん。愛だよ…妖怪に対するね…。今日はたまたまだ。」
「えぇ~清継くんじゃあるまいし!」
素早い突っ込みに、皆ケラケラと笑い合いあう。ごくごく普通の放課後。だが、皆胸のどこかに突っかかりを覚えたようすで、納得がいかなそうに首を捻るのであった。