天狐の桜7
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「……………」
褥で目を覚ましたリオウは、実に不満げに尻尾をたしんと鳴らした。枕元ではものすごい形相で黒羽丸がこちらを見つめてくるので、それに背を向ける形で横になっている。
…のだが、それはそれで今度は額に青筋を立ててにこにこ笑いながら怒っている、若かりし頃の姿をとったぬらりひょんと目があってしまう。
「リオウ…テメェ…💢」
「…………………」
リオウは暫し逡巡した後、そろそろと布団を引き上げた。 顔まで隠れるようにすっぽり収まる。唯一布団の外に出ている三角の毛並みのよい耳が、力なくぺたんと垂れているのが非常に可愛らしい。
可愛らしい、が。ここで許してはいけない。
「リオウ💢出てきやがれっこら!」
「……」
ぴょこっと布団から出ている尻尾がたしんと畳を打つ。あくまでも出てくる気は無いらしい。
「そうか…ならこうするまでじゃ、なっ!」
「な…っ!?」
がばりと布団を剥いだぬらりひょんは、驚きに目を瞠るリオウの体を組み敷いた。腰を浮かしかける黒羽丸を視線で制し、こつんと額を合わせて息をつく。
「叱られてるとき程ちゃんとこっちを見ろと教えなかったか?」
「…理不尽に屈するなとも教えていただいたものでな」
つまりこの説教は彼にとって理不尽だと。ほー?💢と頬をひきつらせるぬらりひょんに、リオウはふいっとそっぽを向いた。
「…心配をかけたことは、申し訳ないと思っている」
だが、これは組にとって必要なことだった。
あくまでもそこは譲らないリオウに、ぬらりひょんは深く息をついた。まったく、この頑固さは誰に似たんだか。無防備に開けた首筋にがぶりと噛みつく。
「っぅ、あ…!?」
「“それ”が消えるまではお前は布団から出んな。黒羽丸、見張りは任せたぞ」
所有印と言わんばかりに見せつけるように歯形をつけられ、あまつさえそれをべろりとなめあげられて、さしものリオウもかっと顔を赤らめた。この爺、なにもそこまでする必要は無いだろうが…っ。
着物で隠そうにも首筋では上手く隠れない。包帯を巻こうものなら余計な心配をさせるだろう。大人しく部屋にいるしかなくなったリオウは、珍しく悔しげに顔を歪めた。それに満足そうに笑うと、その額に軽く口づけを落としてぬらりひょんは体を起こす。
「この、好色爺…っ」
「お前限定じゃ。なんだ、まだ足りぬか?」
「チッ…」
夜着の前をかきあわせ、威嚇するように尻尾を唸らせる。ひらひらと手を振って出ていく祖父の背中を睨み付けながら、リオウは黒羽丸の袖をくんっと引いた。
「…よく、迎えに来てくれた」
「…必ず、あなた様のもとへ飛んでいくと約束しました」
枕元に積まれた大量の見舞品。そこから金平糖の入った可愛らしい細工の小瓶を手に取るリオウの手に手を重ね、暗にこちらを見ろと迫る。
「何故御無理をなさるのです」
「それが必要なことであると判断したからだ」
「御身を危険にさらしてもですか…!?」
くどくどと続けられる説教に、リオウはひとつため息をついた。あぁ、まったく。まだ怒られなくてはならないのか。
「そもそもお出掛けになる際は必ずお声かけくださいといつも――っ!?」
黒羽丸は突然口に金平糖を突っ込まれ、目を白黒させた。黙れ、と言わんばかりに白魚のような指が唇をなぞる。
「お前だけは、私の味方でいろ」
拗ねた子供のような表情。それに呆気に取られると同時に、今の状況に黒羽丸は赤面した。
真っ赤になって金魚のようにぱくぱくと口を開閉させることしか出来ない黒羽丸に、リオウは満足げに頷いて金平糖を口にはこんだ。
口内に広がる仄かな甘味。暫くは退屈なのもこの側仕えに我慢してやるか、とリオウはくすりと微笑んだ。