天狐の桜7
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カナは深い闇に包まれた山中で、石段に座り込んで途方にくれていた。リクオやリオウ、及川の仲を勘繰り、抜け出してどこへ行ったのか、何をしているのかと追いかけてきたのだが、夜の山で夜目がきくわけでもなく、完全に迷ってしまったのだ。
「もう…あの人達どこに行ったのかしら…清継くんたちもいないし」
辺りは一寸先も危ういほどの闇。草木の影がいっそう大きく見え、不気味さを掻き立てる。私何してんの?こんなムキになって…もういいや、帰ろう。
立ち上がろうと視線をあげたとき、蒼白い狐火が辺りを明るく照らした。狐火はふわふわと漂うと、参道の両端に置かれたかがり火にぼっと火を灯す。不思議なことに、一つの篝火に火が灯ると、まるで道を指し示すがごとく次々と篝火に火が灯っていく。
「かような夜中に女人の一人歩きとは、感心しないな」
聞き覚えのある、美しい声。
はっと振り返ると、いつかの天狐がその腕に及川氷麗を抱いて立っていた。
「あ、あなたは…!?」
「こら、大きな声を出しては起きてしまうだろう」
天狐はカナの膝の上に氷麗を譲り渡す。呆然とした様子で天狐を見つめるカナに、ふわりと微笑むと天狐は小首を傾げた。
「怖いか?」
「え…?」
「夜は妖の世と人の世の境界が曖昧になる。怖い思いをしたくなければ、大人しくしていろ」
安心しろ。目を瞑っている間にすべて終わる。
天狐は古ぼけた指輪を指から外すと、それをカナへと差し出した。仮に何かあったとしても、指輪には鯉伴がいる。なんとかなるだろう。
「その指輪には呪い(まじない)をかけておいた。しばらく貸してやろう」
「ま、まって…!」
天狐はカナを一瞥すると闇の中へ溶け込むように姿を消した。
(少し、疲れた…)
牛鬼の屋敷に姿を現したリオウは、戸板に寄りかかるようにして深く息をついた。気配を感じてか、屋敷の奥からバタバタと牛頭丸が飛び出してくる。
「リオウ様!」
「牛頭、馬頭はどうした」
「馬頭丸は本家のお目付け役に捕らえられたと…っリオウ様!?」
ぐらりとリオウの体が傾いだ。慌てて牛頭丸が抱き止める。神気の使いすぎに加え、これだけ妖気にまみれた空間にいれば、具合が悪くなるのも道理。
「すまないが、牛鬼の元へ連れていってはくれないか?」
出来れば黒羽丸に見つからないように
あれは心配性なのか、説教が長い。見つかったら面倒なことになるに決まっている。…こう見えて、リオウもなかなか黒羽丸に悪いことをしているという自覚はあるらしい。
「牛鬼様の所へ、ですか?」
「あぁ、私には見届ける責務があるからな」
「…かしこまりました」
牛頭丸は逡巡した様子で視線を彷徨わせていたが、やがて観念したように頷いた。リオウは安心させるようにその髪を撫でると、牛頭丸と共に闇の中へと歩みを進めていった。