天狐の桜7
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別荘は、天井にシャンデリアが輝きを放ち、和洋折衷な造りの小綺麗なところであった。子供たちは実に楽しそうに目を輝かせる。
「うぉぉ~テンション上がる~~~」
「成金趣味~~」
「はっはっは。父親の山好きがこうじて建てた別荘でね。この山の妖怪研究用に建て替えさせたものだ」
リオウも、こうした洋風の建物はやはり珍しいらしく、きょろきょろと辺りを見渡してほぅと感嘆の息をついた。
「兄さん、こういう洋風なのも好き?」
「ふむ。異文化というものは実に興味深い。―――まぁ、暮らしたいとは思わんが」
ばっさりと切って捨てたリオウに、リクオは思わず吹き出した。なるほど勉学としての興味の対象ではあるものの、やはり長く親しんでいる「和」なものが好きなのか。実に彼らしい答えだ。
さぁおまちかね、と清継は奥ののれんを指差した。この奥は温泉になっている。露天風呂も勿論完備してあり、さながら高級旅館のようだ。ひろーいすごーいとキャーキャー興奮した様子で声をあげる女性陣。
(風呂は和風か…ふむ。空が見えるというのはなかなか趣深いな。)
「あの、お、お兄様はどうされます?」
「ふふ、そうだな…少し部屋で休ませてもらおう。」
黒羽丸辺りに強請れば、きっといつもの仏頂面で露天風呂の作り方の書物でも読み始めることだろう。全く…あれは馬鹿がつくほど真面目で私に甘い。
心のなかでそう独り言ちながら、リオウはにこやかに清継へ返事を返した。まったく、頭で別のことを考えながらも、口も達者に回るとは恐れ入る。
風呂へと駆けていく女性陣と、それを見て抜け出すなら今だと出ていく清継たち。そしてそれを追うリクオと氷麗を見送り、リオウはひらりと窓から飛び降りた。
音もなく着地すると、リオウは山道を静かに登っていく。石畳に月の光が反射し、青白い光が暗闇にぼうっと煙って見える。――人を寄せ付けぬ、牛鬼組本陣への道。
「牛頭、馬頭。…そこにいるのだろう」
「っリオウ様!」
リオウは目の前に飛び降りてきた二人に目を細めた。ついでふわりと風が凪いだかと思えば、本来の天狐の姿をしたリオウが立っている。二人は暫しあまりの美しさに見惚れていたが、はっと我に返ると深々と礼をとる。
「お久しぶりですリオウ様!!」
「なぜリオウ様が…!?」
「リクオたちがここに行くと言うのでな。お前達の顔がみたくて誘いを受けただけだ。…「それ」は牛鬼の策か」
びくりとふたりの肩が戦いた。今目の前にいるのは、紛れもない奴良組の副総大将だ。いくら可愛がってもらっているとて、逆鱗に触れれば消されるかもしれない。それこそ、今自分達がしていることは組の転覆の謀なのだから。
「っ…」
「…ふふ、意地の悪い聞き方をしてしまったな。此度のこと、私は咎めるつもりはない」
弾かれたように顔をあげる二人の頭を優しく撫でる。この二人に、親と慕った主人には服従しろと、例えそれがこの自分に逆らうような事であったとしても、その命には従えと言ったのは自分だ。
「あれは本当に組思いの男だ。その策が間違っていたことなど一度とてない」
あれのやることなら、私は黙って成り行きを見ていよう
牛頭丸と馬頭丸は、リオウの牛鬼への絶対的な信頼に入り込めぬ何かを感じて目を反らした。羨ましい。あのように信用してもらえる牛鬼が。…長い付き合いなのは知っている。だが、この人は自分達のことを語るときも、このような優しい顔をしてくださるのだろうか。
リオウは黙って頭を垂れる二人に、優しく微笑んでその頬を撫でた。
(すまないな、リクオ、氷麗)
お前たちはまだ弱すぎる
「私は牛鬼の元へいく。成すべきことをしに、お前たちは行け。」
副大将として命を出すリオウに、二人はぐ、と押し黙ると飛び去っていった。リクオたちには、辛いだろうがここで少しは強くなってもらわねばならない。リオウの去ったあとには、一枚の桜が残されていた