天狐の桜7
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから電車に揺られること暫く。リオウたちは初夏の日差しのなか、とある小さな駅に降り立った。清継はこれからのことに思いを馳せ、沸き上がる興奮にぶるっと体を震わせる。今日こそは、今日こそは妖怪に会えるかもしれない。
「ふふふ…妖怪先生からの宿題…自力で待ち合わせ場所の「梅若丸のほこら」をさがせ!」
バサッと広げたのは、実に簡略化された捩眼山の地図。この山のどこかに、集合場所である「梅若丸のほこら」があるはずなのだ。“「運」と「感覚」を磨いていればおのずと見つかる”とあるが、僕ならきっと大丈夫だろう。
(なんせ僕にはマイスイートハニーお兄様がついているからね!!!!)
彼と共に旅行だなんてもう運気は鰻登りに違いない。少なくとも自分の気分は最高潮だ。
疲れた~~別荘は~~?温泉は~~?とぶーたれる面々を引き連れて、長い長い階段を上っていく。一時間も登り続けた頃には、皆すっかりへとへとになっていた。
「なんだよ~~ず~~っと山じゃんか!!」
「当たり前だ!!修行だぞ!!」
「足痛い~~」
「兄さん大丈夫?」
「あぁ、私は平気だ。…いつもは朧車だからな。このように歩いてみると、あれらの苦労もよくわかる」
たまには労ってやらなくてはな、なんて笑う兄は今日も本当に美しいなと思考を飛ばしかけ、いかんいかんと我にかえる。そう軽率に妖怪の話題を出してはいけない。いつばれてしまうかわからないのだから。
「あの、奴良君のお兄さん」
「ふふ、リオウでよい。花開院さん、どうかしたか?」
「あ、いえ。ちゃんと話せなかったので。あのあと大丈夫でしたか?」
あのあと、とは旧鼠の時か…とリオウは思案する。そうか、あのとき人型をとっていて、しかも妖姿のリクオにかっさらわれていかれたんだなぁと思い出してあぁと軽く返事をする。
「恥ずかしながらすぐ意識を飛ばしてしまってな。気がついたら自室に寝ていた。特に何かされたわけでなし、送り届けてくれたんだろう」
「そ、それなら良かった…。今度こそは、絶対リオウさんのこと守りますから!」
命に変えても!!と実にやる気を燃やしてくれているゆらに、リオウはぱたりと瞬くと、そうか、とふわりと微笑んだ。まったく、自分の周りには心配性の世話焼きが集まってくる。
「うう~~本当にこんなところで待ち合わせなの~~」
「人なんていなさそーですけどー」
「バカだねー島くん。人がいないからこそ、妖怪が出るんじゃないか~~たぶんね~~」
「多分、すか…」
リオウは死ぬ~と言いながらしんどそうに重たい足を引き摺る巻に、ついと目を細めた。ちょっと待ってくれ、と声をかけると巻の手をそっと掬い上げる。
「はへ!?え!?」
「しんどそうだからな、ちょっとしたおまじないをしてやろう。…いいか?目を閉じて私の呼吸に合わせて3つ数えるんだ」
「は、はひ」
こつんと額を合わせて、1・2・3と数えて目を開ける。その瞬間、ぶわっと何かが体の中に流れくる感覚があり、はっと気がついた時には、来る前よりも体が軽くなっていた。
「えっ!?ちょっなにこれ!?めっちゃ体軽くなったんですけど!?」
「ふふっそれはよかった」
疲れをとる、ちょっとしたおまじないなのだとリオウは笑う。それがおまじないでもなんでもなくて、神気で体に纏わりつく負の気を払い飛ばし、治癒の力で疲労を回復させただけだと知っているリクオと氷麗は血相を変えた。
(兄さんそんなことしたらバレちゃうってぇぇぇ!!!!)
(ダメですよリオウ様ぁぁぁあ!!!!)
私も!と声をあげる鳥居にも、優しく微笑みながら「おまじない」をしてやったリオウは、唇にそっと人差し指を当て、あんぐり口を開けるリクオと氷麗にこてんと小首を傾げる。
「しー」
((あざといッッ!!!!))
お分かりとは思うが、リオウはこの二人で遊ぶことを内心とても楽しんでいる。驚いたことにゆらにまで平然とこれをやってのけ…
「えっこれほんまにどうやってるん!?」
「ふふっ昔教えてもらってな」
(バレてねぇ――――!!!!)
ゆらが鈍いのか、堂々としているリオウが凄いのか、もうよくわからなくなってきた。俺も!僕も!私も!と声をあげる面々に、お前たちはまだ余裕そうだから後で、と目を細める。
「ん?」
ゆらは霧がかかる森のなかに、なにかを見つけて立ち止まった。山道から外れたこそは木々が生い茂り、鬱蒼とした空間が不気味さを引き立たせる。