天狐の桜7
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電車のなか、菓子をもさもさと頬張りながら、ゆらは聞きなれぬ単語に小首をかしげていた。
「捩眼山伝説、ですか…聞いたことないですね、すみません」
「ふふふ、そりゃーゆらくんが知らないのも無理はない!「妖怪先生」のようなマニアな方々にしか知られていないのだよ!今日はそのすごい伝説とやらを聞きに行くんだ!」
その為には「妖怪の知識」を得なければ!そう言って清継が始めたのが、「妖怪ポーカー」である。この妖怪ポーカー、形式はインディアン・ポーカーと同じだが、カードには妖怪の絵と妖怪パワーなるものが書いてあり、やっていくうちに自然と妖怪が身に付く優れもの……らしい。
(既にこの中で参加している2名は人間じゃないんだが…)
リオウはワイワイ騒ぐ子供たちを見て頬を緩ませた。人の子の楽しそうな声というものはなかなか心地よい。それに、外は知らないことが多くて学び甲斐がある。
実はこのリオウ。博識多才だが、なにぶん屋敷に軟禁されていたようなものなので、現代の知識には疎い。電車を見たこともなければ、洋服というものを着たこともない。
先程も駅で…
『リクオ、この面妖なからくりは一体…』
『あ、それは改札機って言って…』
ガシャンッ ピンポーンッ
『?』
『この切符を入れないと通れないんだよ…』
『兄さん電車見るのも初めて?』
『あぁ、いや。昔一度見たことがあるんだが…煙を出す部分が見当たらないな』
『兄さん…それSLだよ…』
『えすえる?』
『兎に角、それと似たようなものだけど、それはもう走ってないよってこと。今は電気で走るんだよ』
『ほう、今は昔と随分変わっているんだn―――』
ゴォォォッ
『……さしもの私も、あれに乗るのはちと骨がおれるな』
『うん。あれは急行列車だからこの駅に止まんないだけで、ちゃんと止まってくれるから安心してね。あれに乗り込めたらもう人間じゃないよ』
一々この通りである。が、何が厄介って本人は好奇心旺盛で学ぶの大好きな学問肌なので、気になればすぐにそちらに行ってしまう。流石に、清十字怪奇探偵団の面々が来てからは保護者らしく微笑みながら見守っているが…
(ん゙んっ雑誌の写真キラキラした目で見てるの可愛いッッ!!!!)
リクオもなかなかに末期である。今のリオウはスラックスにカットソー。七分袖の暗い色合いのカーディガンを羽織り、首からはリングネックレスをつけている。和装も似合っているが、ラフな格好もまたよく似合っている。
兄の可愛さに悶えて膝から崩れ落ちそうになったところでハッとする。いけない。このままだと変人確定だ。変人≠普通の人間!いけないいけない。しっかりしなくては。
「あ、僕何か買ってくるよ。何がいいか言ってー」
「え?でも一番戦績悪い人がって…」
「いーのいーの!僕こういうの好きだから」
「ほぅ、一人では大変だろう。私も行く」
リクオとリオウは連れだって出ていく。仲いいねぇ~なんて笑って見送る巻と鳥居は、それもそうかと頷いた。あれだけ美人で物腰柔らかで、しかも可愛いところもある完璧なお兄様、惚れるしかない。
「私がどうかしたか?」
「うぉっひぇ!?」
「っ、ふふっ驚かせてしまったな。すまない」
ほら、ときれいな指が冷凍ミカンを差し出してくる。指も、声も、微笑む顔も、どれをとっても美しい。黒曜石のような瞳と鴉の濡れ羽色の髪が雪のような一点の曇もない白い肌に映える。こんなことを言うのは失礼かもしれないが、本当に同じ人間なのかと思ってしまうほどに神秘的な人で。
(ほんっと…ヤバイくらい綺麗)
「どうした?…ふふ、長いこと電車に乗っていて流石に疲れてしまったか」
「うぉあ!?いいいえ!!何でもないっす!!」
「兄さん」
リオウはリクオにぐいっと手を引かれた。何事かとされるがままになっていると、すとんと席に座らされ、覆い被さるように背もたれに手をつかれる。所謂壁ドンというやつだ。
「無防備過ぎるよ」
「なんだ、妬いているのか」
「そうだよ?なんでこういろんな人を惹き付けちゃうかなって」
リオウはきょとんとリクオを見つめた。可愛い弟は、すっかり男の顔をしていて。嫉妬と独占欲は一丁前かと納得し、リオウはふっと目元を和らげた。形のよい唇が弧を描き、実に妖艶な微笑みに一同時が止まる。
「私をお前に縛り付けるより、私がお前しか見れないほどに、お前に溺れさせてくれるのではなかったのか」
「「「「「○*#&%£¢!!??/////」」」」」
どういうことなの!?と、リオウの色気にあてられてくらくらする頭を押さえ、カナは思わず仰け反った。幼馴染だったはずなんだが、こうも彼らのことをよく知らなかったとは。というか、知ってはいたけどリクオ君のブラコンって相当?男同士はこの際いい。兄弟なのに禁断の恋愛!?もうどうなってるの―――!?
「~~~~~っっ♡♡♡あー兄さん可愛いっっ」
「はいはい」
悶えるリクオを興ざめとばかりに軽くいなすリオウに、清継たちはなんだやはり冗談かとホッと息をつく。かくして一名混乱したメンバーはさておき、一行は優雅に電車に揺られていくのだった。