天狐の桜7
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ところ変わって、リクオの部屋。
「って、リオウ様!!寝てなきゃダメじゃないですか!!」
「お前もか…」
リオウは騒ぎ始めた雪女に、額に手を当てて辟易したように嘆息した。こう何度も同じことを言われては、流石にいい加減にしてほしい。
「私のことはよい。鴆のお陰で調子がいいんだ。それより、リクオの薬を貰ってきてくれないか?」
「は、はいっ!」
ばたばたと部屋を飛び出していく雪女を見送り、リオウは暫く治癒の力を使ってリクオの容態を回復させていたが、ふとぴくりと形のよい耳が動いた。それと同時に慌てたようにふわりと人型に転位する。
「兄さん?」
「面倒な客人が来たぞ」
「え」
ガラガラと勢いよく障子を開けて顔を覗かせたのはカナ。ついでその後ろから清継らが次々と顔をだす。ここが妖怪屋敷か~と視線を巡らせた鳥居と巻は、リクオのとなりで静かに微笑むリオウを見つけて固まった。え、なにあの超絶美人。
「お、お兄様!!」
「!先日はどうも」
がっと肩をつかむ勢いで詰め寄る清継に、一瞬瞠目したもののすぐに笑顔でいなすリオウ。さて、どうしたものかと考えていると、不意に清継が視界から消えた。あっけにとられている間にばっと手を握られる。
「奴良くんのお兄さん!?」
「超絶美人じゃん!!ていうか肌綺麗!!どんなお手入れしてるんすか!?」
「ど、どうも…」
流石のリオウも女子中学生のテンションについていけなかったのか、目を瞠って驚いたようすで固まっている。髪を結ぶ暇すらなかった為に、白い肌にさらさらと流れる髪がなんだか色っぽい。
「ど、どうしたの、みんな…」
「どうしたのじゃない!!情けないぞ奴良君!!風邪を引くのはバカな証拠だ!!」
「お見舞いに来たのよ」
「ありがたいと思え!!マイファミリー!!」
むくっと起き上がった清継は途端に元気になってふふんとふんぞり返った。残念だがゆらくんは用事があると言って来れなかったが、と話す清継に、リクオとリオウはホッと胸を撫で下ろす。また面倒なことになるのは避けたい。
「大丈夫?リクオくん。お薬のんだ?」
「あ、まだ…」
「自力でなおせ」
「情けない奴ね~。カナやゆらは妖怪に襲われても学校来たのに」
「あ、お兄さんは大丈夫なんですか!?」
矢継早に繰り出される言葉に、リオウは疲れたように微笑んだ。すぐによくなったから平気だと優雅に笑う様に、皆恍惚の表情で見惚れる。
「ちょっと待ってて、お薬もらってくるね」
「よい。…あ、と、そうだな。君らの10分ほど前に来たリクオのお友だちにそれを頼んだんだ。座っていなさい」
「お友達?」
リオウは懐から扇子を取り出すと、パンッと手のひらを打つ。首をすくめた首無が、なにかご用でしょうかと飛んでくるのを満足そうに目を細めて受けとめ、お客様にお茶をと命じる。
「は、かしこまりまし―――」
「お待たせ~、リクオさ…」
ガラッと扉を開けた氷麗は居並ぶ面々に凍りついた。手から滑り落ちる盆を、すかさず首無が受けとめる。ここで落としては、お茶がリオウにかかってしまうかもしれない。いや、そもそも主の前で食器を取り落とすなんて失態は側近として犯せない。
「よくやった。――及川さん、大事ないか」
「え!?あ、はい!?」
「彼女が10分前に来たリクオのお友だちだが、もしかして面識があるのか?」
リクオと氷麗は、何でもない顔でしれっと嘘をつくリオウの精神力に舌を巻いた。よくもまぁここまで即座に頭が回るものだ。
清継たちも、なんだ君だったのかと納得した様子でうんうん頷いている。清継は、パソコンを片手にがたんっと立ち上がった。
「さぁて!看病はさておき!!ゴールデンウィークの予定を発表する!!」
「へ?ご、ゴールデンウィーク?週末からの?」
「そうだ!!君たち週末暇だろう!!アクティブな僕と違って!!」
常に一言多いところが清継の清継たる由縁である。
なんでも、清継が前々から連絡をとっていたという妖怪博士に会いに行くのだという。合宿をするという清継たちに、リオウはがっしゅく?と小首を傾げる。
「泊まりがけで出掛けるんだよ」
「おや、それは危険では…」
リオウはリクオの言葉に心配そうに柳眉を下げた。リクオは合宿をすることにすら心配してくれる過保護な兄に口の端を緩めた。可愛い。いや、本当に可愛らしい。
言葉を知っていたとしても自分に繋がりが無さすぎて理解が追い付いていないのも、たどたどしい復唱も、おろおろした様子で頬に手を当てて困ったように小首を傾げるのも、全部可愛い。
「場所は僕の別荘もある捩眼山!!今も妖怪伝説が数多く残るかの地で、妖怪修行だ!!」
(捩眼山?)
リオウは僅かに瞠目した。だが、動揺を気取らせずにすぐに表情を取り繕う。捩眼山とは、牛鬼が率いている牛鬼組の本陣がある山だ。
これは偶然か、それとも仕組まれたものなのか。
「お兄様!!よろしければお兄様もご一緒しませんか!!??」
「ほう?私も?」
がっちりと手を掴まれ、リオウはきょとんと清継を見返す。今この場に側付きたちはいない。いれば絶対に反対されるであろう。
だが
「ふふっ喜んで、リクオと共に参加しよう」
「いやったぁぁぁあ!!!!フゥッッ!!」
((えええぇぇぇ!!??兄さん/リオウ様!!??))
リクオと氷麗の動揺などどこ吹く風。まぁ、ぬらりひょんの血を1/4も受け継いでいるのだから、こうやって周りを振り回すのも血の性といえよう。
「……黒羽丸たちには内緒だぞ?」
まるで子供のように片目を閉じる。溢れ出る色気と可愛らしさにくらりとしながらも、リクオはこれからのことを考えて人知れず深い深いため息をつくのだった。