天狐の桜7
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総会では、ずらりと居並んだ幹部たちが神妙な面持ちで、顔を突き合わせていた。木魚達磨の静かな声がしんと静まり返る広間に厳かに響く。
「「回状を廻せ」という指示は、破門した組のものが言っても何の意味もない。恐らく旧鼠は誰かに飼われていたんでしょうな」
「それは、リクオがまた妖怪になったというのに、それをよしと思っとらん奴なんじゃろーのぅ…」
この中にもおるんじゃろーなぁ
そりゃーそうでしょ、と木魚達磨は深く息をついた。いくら覚醒しても昼間は人間。しかも覚醒時の記憶が無いとなれば、なおのこと。
「達磨貴様誰の味方じゃい!!」
「ワシはただ組のためを思って言ったまでの事!!」
現に旧鼠のような奴が本家のシマで暴れていたのだ。早急にも組を建て直さねばなるまい。テメェー!と言い争う血気盛んな総大将と相談役に、穏やかではないなと周囲の幹部はゲラゲラ笑う。
「ま―――こんなに問題だらけじゃ、三代目を継ぐのは当分無いですな」
「やはりそれよりもリオウ様のご婚姻が先か」
ヒソヒソと幹部たちはそんなことを話している。端で聞いていた鴆は下らないとばかりに肩を竦めた。そんな下らないことを抜かす奴がいるから、リオウがこの場に出てこないのだ。
(あいつが聞いたら「貴様らのような腑抜けの嫁になんぞなりとう無いわこの戯け」とかバッサリ言いそうだな)
想像するに難くない。まったく気の強いかぐや姫である。本人に言おうものなら実に不満げな顔で尻尾を揺らすだけだろうが。自惚れでなく、確実にリオウがこの幹部たちの中の誰かに嫁に行くこととなれば、自分か牛鬼のどちらかだろう。あとは狒々組か、あそこには年頃の息子が一人いたはずだ。大幹部狒々様の息子となればその可能性は高いだろう。
ぬらりひょんは、牛鬼にふっと目を向けた。オメーはどう思う。その静かに凄みのある声に、それまでざわついていた面々は水を打ったように静まり返った。牛鬼は臆することなく、ゆっくりと話し始める。
「……反乱を起こしたガゴゼを斬り、蛇太夫を斬り…旧鼠を葬り去ったのは紛れもなく若。彼の能力は疑いようが無いのです」
しかし、と牛鬼は続けた。覚醒しても1日の1/4しか妖怪になれないというのもまた事実。このまま続くのであれば、不満がたまるのもまた事実。
「リクオ様のことが気に入らねぇように聴こえるなぁ~~?」
「いや。今はまだ様子を見る段階…ゆっくり、ゆっくりと考えていきましょう」
幹部たちは牛鬼の言葉を、またそれかとせせら笑った。牛鬼は頭がよい。だがあまりにも深く考えすぎて結論が遅い。牛だけにのろい歩みが得意だなとからかう幹部に、気にしたようすもなく牛鬼はふっと微笑む。
(チッ…いい子ぶりやがって)
一ツ目は面白くなさそうに歯噛みした。リクオを面白く思っていないのはこちらとて同じ。それなのに理解があるふりをしやがって。これで総大将やこの場にいないリオウ様に自分は他と違うと印象づけたつもりか。
(………リオウが気にやんでいたことが現実となれば受け入れる他あるまい)
ぬらりひょんは一同を見渡して目を細めた。いつぞやリオウが、リクオをよく思わない者が幹部連中にいる、早急に手を打たないと面倒なことになるのではと憂いていた。あのときは、心の声が聞こえてしまうこともよく知っていて信用してはいたが、まさかこんなに早く表面化するとは…。
いずれにせよ、組の権威のために、旧鼠を使ったやつの落とし前はつけなくてはならない。ぬらりひょんはそっと鴉天狗を呼び寄せた。
「鴉天狗よ、お前…旧鼠に通じていたものがいないか探れ」
「裏切り者がいると?」
「今の状況ではワシは本家の奴しか信じん。頼むぞ、鴉天狗」
「わかりました。では、拙者の息子たち、三羽鴉を飛ばしましょう」
早く、リオウの憂いを取り去ってやらねば。可愛い可愛い愛する孫を思い、ぬらりひょんはそっと目を伏せてため息をついた。