天狐の桜7
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「リオウ様!いけません!」
「お部屋にお戻りください!」
ぱたぱたと廊下を駆ける音がする。部屋の前で音が止まったかと思えば、スパーンッと襖が開いてリオウがひょっこりと顔をだした。白銀の髪がふわりと揺れ、不安を示すようにゆらゆらと尻尾が揺れている。
「リクオが熱を出したと言うのは本当か?」
「に、兄さん!?ダメじゃないか寝てなきゃ!!」
リオウは絶世の美貌に心配の色を浮かべて枕元に膝をつく。リオウだって、旧鼠に盛られた毒のせいで苦しんでいたのだ。もう夕方近くで、あれから半日寝ていたのだとしてもまだ起きてはいけない。
リオウは悲しげに目を細めてリクオの頬を撫でる。リクオはその首筋に絆創膏が貼られているのを見つけて、目を丸くした。
「ど、どうしたの?その絆創膏」
「旧鼠に噛まれた傷跡だ。…昨日ここに吸い付いて毒を吸出したのに覚えていないのか」
「えぇぇぇ!?」
そんなことをしていたのか僕!?いや、それはいい。なんでそんな美味しい展開覚えてないんだよ―――!!!!
「お、覚えてないからもう一回していいかな!?」
「?毒はとうに解毒した。今さらやるのは無意味だろう」
リオウは不思議そうに小首をかしげると、手巾でリクオの汗をぬぐった。愛する兄に看病してもらえるなんて何て役得…いやいやいや、それより心配そうに柳眉を寄せ、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる兄の細い首筋の絆創膏だったりが妙に色っぽくて、目が離せない。
「やはりあの時毒を…」
「いや、あれの毒の効果は切れてるし、あの毒は神にしか効かない。妖怪に効いたとして媚薬程度だ。つーかオメーが一番寝てなきゃ駄目だろうが!!!!っぶふ!?」
吠える鴆を五月蝿いとばかりに尻尾で制する。突然毛並みのいいモフモフとした尻尾を顔面に叩きつけられ、鴆は目を白黒させた。いや、全く痛くはないしなんなら心地いいのだが、リオウは大変不満そうな顔でペシペシやっている。…可愛らしい。
「お前の薬のお陰で調子は良い。それよりお前こそ寝ていなくていいのか?」
「あ、あぁ…家が修理中で渡り鳥なのよ」
時刻はもう4時…そろそろ総会が始まる時間。お前はどうするんだとリオウに視線を向けると、出ていくと皆がうるさいと不満そうに尻尾がたしんと畳を打つ。
そうか、と鴆が席を立ったとき、疾風のごとく冷気を伴った何かが飛び込んできた。雪女だ。突き飛ばされて血反吐を吐いて廊下に倒れる鴆のことは全然目に入っていないらしい。
「若~~リオウ様~~すいません―――!!」
私としたことが!!側近なのに!!若が学校に来ていないのを知らずに普通に登校してました―!!
この雪女、いかなる罰も…と騒ぐ雪女に、わかったから静かにしなさいとリオウは宥める。隣で血を吐いて潰れている鴆の頭を膝に抱き、治癒の力を使っていく。
(まったく、騒がしくて敵わないな)
それがこの家の楽しいところなのだが、と心のなかで独り言ちると、リオウはふわりと華のような笑みを浮かべた。