天狐の桜6
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闇が晴れ、朝焼けが町を包んでいく。
すっかり燃え尽きた旧鼠を一瞥すると、リクオはリオウを抱き上げ、皆に帰るぞと一言命じる。ゆらは待て!!と噛みついた。
「お前が妖怪の主か!!奴良君のお兄さんを離せ!!」
「――俺は、俺の嫁を取り返しに来ただけだ」
くるりと踵を返すと、リクオはまったく気にした様子もなく歩みを進める。カナはどこかぼうっとその背を見つめ、ゆらはぎりっと唇を噛んだ。相手にもされていない。リオウに対する態度を見る限り、旧鼠と違って彼に無体を働く奴等ではなさそうだが、だからといって許すわけには行かない。次は絶対に守らなくては。
「お前を倒しに来たんや!!次会った時は…絶対倒す!!」
リクオはゆらを一瞥すると、フッと頬笑む。せいぜい気を付けて帰れ、と言い残すと、百鬼夜行は白い靄の中へと消えていった。
帰り道、リオウは重い瞼を持ち上げた。動かない体を叱咤して、喉から声を絞り出す。
「りく、お…」
「起きたか」
リオウは、朧車に乗るリクオの膝にのせられていた。外からはわいわいガヤガヤ声が聞こえてくる。リオウ様が目を覚まされたぞ!!と言う朧車に、皆は歓声をあげた。
「リオウ様!!」
「リオウ様、大丈夫ですか!?」
ばっと御簾を持ち上げて乗り込んでこようとする妖怪たちに、リオウはゆっくりと腕を持ち上げ、手を振って応える。
「無理をするな」
「ん…」
力無くだらりと腕が下がり、絶えず荒く息をつく。リクオはリオウが身動いだ拍子に、細い首筋に噛み跡があるのを見つけた。今まで髪に隠れて見えなかったが、これが今回こうして苦しむ羽目になった毒を盛られた場所か。
リクオはためらうこと無く首筋に唇を寄せた。
「?りく…っひ……!?」
リオウはびくりと体を震わせる。毒を吸い出しているのか。じゅる、と吸われる度にチリッとした痛みが走る。リオウはやめろと力無くその胸を押した。
「どくが、お、まえに…っぅ、あ…っ」
「嫁さんと同じ毒に犯されるなら本望だ。だが、今はそんなことより、大人しく「消毒」されていろ」
「ゃ、ばか、っん、…っ、はぁ、ぁ…っ」
胸を押す指に手を重ね、指を絡めて恋人繋ぎに握り直す。リオウは、心配だと言いたげに上目使いにリクオを見上げた。べろ、と舌を這わせ、吸い付く度にびくびく肩を跳ねあげる。美しい桜色の瞳は涙に揺れていて、実に被虐的。再び唇を寄せようとしたとき、何者かがリオウを引ったくるように抱き上げた。黒羽丸と首無だ。
「リオウ様!!」
「もう少し危機感をお持ちください!!」
「ん…」
リオウは恥じらうように黒羽丸の胸に顔を埋めた。リクオは面白くなさそうにおい…と地を這うような声音で凄む。外からはきゃーきゃーわーわーとこれまた煩く声が飛んでくる。
「リクオ様大胆~~///」
「リクオ様…なんて羨ましい///」
「リオウ様大丈夫なのか?」
静かにしろ、と黒羽丸が吠える。過保護な忠犬に、皆はぶーぶーと文句を垂れる。リオウ様の珍しく可愛らしい姿が見られたのだから、もっとみたいと思ってしまうのが普通の反応だろうとぶーたれる皆に、鉄壁の理性を誇る黒羽丸はぎろりと視線を向ける。リオウはかすれた声で黒羽丸、と名を呼び諫めた。
「ぜん、を、よべ…」
リオウはふっと目を伏せると、再び深い眠りについた。急がなくてはと皆屋敷までひた走る。嵐のように帰ってきた一行に、屋敷に残った面々は目を丸くした。
「リオウはどうだ」
ぬらりひょんは自室で床についているリオウの元を訪れた。そばには黒羽丸が控え、リオウに鴆からもらってくるよう頼まれたと言う薬を持って鎮座している。
「今はよく眠っておられます。一晩寝れば良くなるとおっしゃっていました」
「そうか」
ぬらりひょんはふっと目を細めた。まったく、記憶に縛られて人に怯えていたかと思えば、陰陽師の小娘たちを助けるためにこうして渦中に飛び込んでいくとは。神とは人に無慈悲なんぞと言われながら、これほどまでに優しすぎる神がいただろうか。
「お説教はお姫様が目を覚ましてからだな」
ぬらりひょんは眠るリオウの髪をそっとなで、部屋をあとにした。