天狐の桜6
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
奴良組本家――――
「り、リクオ様…!!若!!何ですかこれは一体ぃ~~~~!!!!」
どういうおつもりか~~!!と泣きわめく鴉天狗はもはやパニック状態だ。騒ぎを聞き付けてなんだなんだと野次馬が集まる。リクオは書いてある通りだと再度捲し立てた。この回状を全国の親分衆へ廻さなくては、リオウの命が危うい。
だが、鴉天狗とて引くことはできない。三代目を終生継がぬことを宣言する、なんて宣言書、誰が廻せるだろうか。正式な“回状”は破門状と同じく絶対なもの。
「話は聞いたぞ。リクオ、こっちに来なさい」
「じいちゃん…?」
リクオはぬらりひょんの部屋へ呼ばれた。無言で宣言書を読んだぬらりひょんは、躊躇うことなくビリビリとそれを破いてしまう。リクオは殺気立って思わず腰を浮かした。
「何すんだ!!じーちゃん!!」
「それはこっちの台詞じゃ!!このバカ孫め!!!!」
リオウを助けたいのはこちらとて同じ。だが相手のいいなりになるのは違うだろう。昼間は陰陽師を連れてくるし、ワシら妖怪を破滅させる気か!!と怒鳴るぬらりひょんに、リクオも負けじと妖怪が「悪い」からいけないのだと叫ぶ。
「しかもあんなやつらがうちの組にいるなんて!!じーちゃんは何をやってんだよ!!だから、妖怪一家なんて嫌なんだ!!」
「若…」
「ホント…最低だよ!!」
「それは違いますぜ!!若ぁ!!」
奴良組系「化猫組」当主、良太猫は思わず声をあげた。実は、本当にぬらりひょんから一番街を預かっているのは、この良太猫たちである。
「化猫組」は、ぬらりひょんたちが浮世絵町に居をかまえる前からあの町で博徒として悪行を積んできた古い妖怪。奴良組がこの地に来たとき取り入れてもらうのは当然の流れ。
その時ぬらりひょんは、化猫組に土地の支配権を与えてくれた。そこから先、長い間あの町は夜の住民どもの遊び場としてやってきたのだ。
「我々がやっていることは、リクオ様からしたらそりゃ悪くうつることもござんしょう。だが博徒には規範がある。ワシらも奴良組の「畏」の代紋に傷がつかねぇよう、でんと構えて場をおさめてきたつもりです!!」
だがっあの町は今、ドブネズミに支配されちまったんですよぉ!!!!
良太猫の悲痛な叫びに場は静まり返った。良太猫は怒りとやるせなさに畳を拳で殴り付けた。その拳が震えているのが、彼の想いの全てを物語っている。
奴等は現れたと思ったら、瞬く間にその勢いで町を変えてしまった。見た目華やかできらびやかな世界は小娘を誘い込み、奴等は欲望のままにむさぼり食っている。
「若…あいつらに町を自由にさせていたらもっとひどいことになる!!どうかあの町を救ってくだせぇ!!」
リクオは困惑に顔をひきつらせた。良太猫たちもまた、鴆と同じく弱い妖怪たちだ。…そんなの、話を聞けばわかる。だが、自分に何ができると言うのだ。焦り、困惑、そして期待に応えられないことへの恐怖。そのすべてがリクオを襲い、心を頑なにさせていく。
「僕は人間なんだぞ!?回状を廻して、兄さんを助けることしか出来ないんだ!!」
「奴等の言うことを信じちゃダメだ!!」
良太猫の声にリクオは体に冷水をかけられたような感覚に陥った。良太猫はなおも続ける。
「奴等は自分等の欲望でしか考えねぇ奴等だ!あんたとの約束なんざ鼻っから守る気なんか無い!!あんたぁいいように利用されているだけだ!!」
それまで静かに話を聞いていたぬらりひょんが漸く重い口を開いた。凄みのある静かな声に、皆自然と背筋がのびる。これが、妖怪の総大将か。
「旧鼠組な…。確かに、うちの組にもそんなやつらはいた気がする。ただあんまりにも知恵の無い奴等だったよ。収まりのきかねぇただの暴徒。早々に破門したはずだがな。そうかい、一番街で今は…ねえ」
それより気になるのはリオウのことだ。いくら体調が思わしくなかったとしても、大人しく捕まってしまうほどあいつは弱くはない。捕まらなくてはならない何かがあったのか…
その時、庭が騒がしさを増した。何があった、と障子を開けると、なんと河童の池の水が空中に浮き上がり、まるで鏡のようになっているではないか。
「何、これ…」
「っ水鏡か!!リオウ!!」
ぬらりひょんは廊下へと飛び出した。水鏡にうつるのは、椅子にふんぞり返って笑う旧鼠たちと檻に閉じ込められたゆらとカナの姿。成る程、この娘たちを人質にとられて捕まっているのか。
「リクオ。言いなりになってるんじゃねーぞ!!情けねぇ!!テメーの事だろうが…ケジメつけたらんかい!!」
「そんなことを僕に言われたって…僕には力なんか無いんだ!!」
ドクン
血が沸騰するような感覚。自らの体におこる得たいの知れない恐怖から逃れるように、リクオは庭へと出ていった。水鏡はゆらりと大きく揺らめくとばしゃりと再び池の中へと戻ってしまう。
「っ、兄さん」
水鏡が消えたということは術者の意識が失われたということ。だが、焦ったところでどうしたらよいかなどわからない。体が熱い。僕には力なんて無い。僕は、―――人間なのだから。
「本当は知っているはずだぜ」
ざぁっと風が枝垂れ桜を揺らして花びらを散らす。枝に腰かけた青年は、リクオを見てフッと微笑んだ。
「自分の、本当の力を」
「ぼ、僕の…?」
「もう、時間だよ」
風がざわめき、闇がゆらりと揺れる。
ハッと気がつくと、そこにいるのはもう昼のリクオではない。体に纏うは紛れもなく妖気。言葉を失う鴉天狗に、リクオは皆をここに呼べと静かに命じる。
「夜明けまでの、ねずみ狩りだ」