天狐の桜6
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ゆらはぎりっと唇を噛んだ。あのお兄さんの目は、完全に選局を読んで判断した目だった。つまり、形勢が不利になる前に逃がしてくれたことになる。
(私にはあてがある、て言うてたし…信じてもええんやろか…)
此方には一般人のカナがいる。一人なら兎も角、守りながら複数の妖怪と戦うなんてことは、今の私には不可能。人質に取られてしまえば、それだけでこちらが不利になってしまう。
「リクオ君のお兄さん!!ゆらちゃん、行こう!お兄さんを追いかけなきゃ!」
「…だめや。帰ろう。私達のでる幕やない」
「でも!!お兄さんをこのままにしておけないよ!!」
「ッ素人のあんたに何ができるん!?」
ゆらは苛立ちのままに声をあげ、はっとした。暗に足手まといだと伝えているも同然の台詞。こんなことをいうつもりは無かったのに、己の無力さが嫌になる。…傷つけてしまっただろうか。
「そんなの、そんなのわからない!でも、放っておけないじゃない!」
「じゃあ、何のためにお兄さんは私らを逃がしてくれたん…?」
過信しては守れないと、守ることは決して簡単なことではないと教えてもらった。それは先程ので実感している。
「私は、何ができるかわからないけど、でも、お兄さんを助けにいきたい!怖いけど、でも、放っておけないんだもん!」
「あっ待って!!家長さん!!」
繁華街の中へと駆けていく家長に、早く守らなくてはとゆらは追って駆け出した。
「お迎えに上がりましたよ~~リオウ様」
繁華街の暗がりを歩くリオウは、己を囲むネズミたちを一瞥して息をついた。旧鼠はニヤニヤしながら上から下まで舐めるようにリオウを見る。
「いきなりため息?旦那になる男にその対応はちょっと冷たいんじゃねーの?」
「下賤な鼠ごときが私を娶ると?」
リオウの漆黒の瞳が苛烈に光ったかと思えば、辺りを取り囲むネズミたちが浄化の炎に包まれた。苦しむまもなく一瞬にして塵も残らず消え失せた部下達に、旧鼠は絶句する。副総大将の力は知った気でいたが、よもやここまでとは。
「誰の手先だ」
「誰のぉ?は…っお前を娶るのも組の天辺をとるのも俺の野望だ。俺は誰の下にもつかない!!!!」
「………」
リオウは無言で旧鼠を見据えた。そしていまにも旧鼠を燃やし尽くそうと手を伸ばしたとき…
「お兄さん!!」
カナが飛び込んできた。思わぬ邪魔者にリオウは腕を引っ込める。おのれ小娘、余計なことを…と柄にもなく苛立ったように奥歯を噛むと、静かに怒りを露にする。
「何故戻ってきた…!!!!」
「だ、だって…きゃ!?」
「リオウ様も大変だねぇ~~?こんな馬鹿な小娘のためにさ」
どこから集まってきたのか、ネズミたちがカナを羽交締めにする。彼女を守っていたであろうゆらも、腹に一撃をくらわされたらしく、ぐったりと気絶したまま乱雑に抱えられている。
「ネズミはいくらでも増やせる。こいつらが食い殺されるのを見たくなきゃ、大人しくしろ」
旧鼠はリオウの細い顎を持ち上げた。繊細な面差しが屈辱に歪む。そんな様すら絵になるリオウに、旧鼠は恍惚とした表情を浮かべた。
「穢らわしいネズミふぜいが」
「は…っいいねぇ?なんと言おうとあんたは俺の嫁になるんだ。気高く高潔なお前を組敷くのが楽しみだ」
「戯れ事を…。――っ!!」
がぶりと首筋に噛みつかれる。鋭い痛みに息を詰めたのも束の間、ひどい目眩に襲われたリオウは、そのまま意識を手放した。