天狐の桜6
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不穏な風が流れる。陰陽師が帰ったぞと大騒ぎをしている面々をほほえましく見つめていたリオウは、ふと空を見上げた。どこか生暖かく、血腥い風。天狐は鼻も耳もきく。どうやら繁華街の方かららしい。
「黒羽丸。…?黒羽丸?」
リオウはついと辺りに視線を投げた。いつもなら言わずとも傍に控える側仕えの姿が見えない。首無は先程給仕をしているのを見かけたが…まぁいい。傍にいた妖たちにリオウはそっと問いかける。
「誰か、あの陰陽師の少女を送っていく者はいたか?」
「いるわけありませんよ!!」
「陰陽師ですよ!?恐ろしい…!!」
「考えただけでゾッとします!!」
リオウはそうか、と独り言ちた。胸騒ぎは止まらない。確証など持てない。千里眼で見てもゆらとカナは繁華街を歩いているだけだし、未だ何かに襲われたり、ましてやうちの組が窮地に陥りそうな兆候はない。だが、確かに感じるのだ―――組の内部で謀をされているような…。
(これだけ弱体化した組だ。内部から綻びがあったとて不思議ではない。だが、誰が天蚕糸を引いているのかは確認しなくては)
まぁ、おおよそ黒幕の検討はつけてあるのだが。その手段が未だ見えてこない。リオウは恋文を贈るわりには近頃顔を見せに来なくなったかの妖怪を思って目を細めた。
「組を思えばこそ、か」
今、己がこうして思案を巡らせているのは組のためなのか、はたまたこの組を継ぐであろう……
(過保護が過ぎるだろうか)
自分も中々に鴉天狗達の事を言えんな、と苦笑して、リオウの姿は虚空にたち消えた。
「ここは少しうるさいな」
浮世絵町東口の繁華街。とある建物の上から町を見下ろし、リオウは柳眉をしかめた。血の臭いが濃い。人を喰ったか、しかもごく最近。
ここは本来良太猫率いる化け猫組の管轄だ。奴等は博徒で悪行をつむものたちで、人を食う事はない。…と、なると。
「わっ女の子が落ち込んでるよ~~!ひーろった!俺の店までもって帰っちゃおーっと!」
「え!?」
リオウはついと視線を巡らせた。ホストのような身なりをしている男が、困惑するゆらとカナにしつこく付きまっている。
「それともどっか行く?ボクと一緒に遊ぼうよ~~」
「悪いが、この二人は私の連れだ。他をあたってくれ」
「り、リクオ君のお兄さん!?」
リオウは男とゆらの間に滑り込んだ。寄るなとばかりに二人を背にかばうと、男の面を見て僅かに柳眉を寄せる。この男、旧鼠か…大分昔に破門にした奴等が何故ここにいる。やはり誰かが手引きをしているのか。それにしても、…良太猫、抜かったな。
「なんでここに…」
「嫌な予感がしてな。流石にこの時間に女人を帰すのは忍びないから送りに来た」
「ヒュ~~スッゲェ美人じゃん!オニーサン、うちで俺たちと遊ばない?」
「結構だ」
リオウは毅然とした態度で誘いを蹴った。男はニヤァと嫌な笑みを浮かべてリオウに手を伸ばす。
「そうつれないことを言うなよ~~♡な?――――リオウサマ♡」
旧鼠は内心舌なめずりをした。未来の花嫁が自ら飛び込んできてくれたのだから捕まえない謂れはない。リオウを嫁にできれば三代目を継げる。それでなくとも、一目見たときからいつか俺のものにしてやると野望を抱いていたのだから。
「リオウ様って、お兄さんの名前!?何で…!?」
「夜は長いぜ。骨になるまでしゃぶらせてくれよォォ♡」