天狐の桜5
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広い屋敷の奥。リオウは隠れきれなかった面々を集めると結界を張った。これでこの部屋は外から見えない。戸口すら見えず壁となり、よほどのことがなければやり過ごせるだろう。
「あぁ…本当に恐ろしい子が来てしまったわ」
「若は一体何をお考えなのか」
「さて、あながちなにも考えていないのかもしれぬ。あれはそういうやつだ」
リオウは微笑を浮かべ、茶をたてる。実に優しく清らかな笑みに、妖怪たちはみな暫し魅入っていた。飄々としているようでいて、リオウは本当に懐にいれた相手には甘い。
(自分のことを語ってくださるときも、こんな顔をしていただけるのだろうか)
そんなことをぼんやりと考えていた首無は、自分に呼び掛けるリオウの声に気づかなかった。はっと気がつけば、どうした?とこちらの頬に手を添えて顔をのぞきこむリオウの端正な面差しがすぐ近くにあって。
「っぅわ!?」
「!」
つるりと湯飲みを持つ手が滑った。取り落とす前に掴もうとするが咄嗟に上手くいくはずもなく。ばしゃ、と溢れた茶はリオウの着流しを濡らし、湯飲みが畳を転がる。リオウは気にした様子もなく、湯飲みをそっとつかまえて、お前にしては珍しいなとくすくす笑った。
「大事ないか」
「は、はいっ!申し訳ありません、リオウ様!」
「よい。お前に怪我がなくてよかった」
しかし、これでは一度湯浴みをしなくては。着替えを持って参ります、と黒羽丸が出ていくのを黙って見届けながら、リオウも大浴場へと向かった。
その頃、リクオは焦っていた。何とか屋敷を歩き回る同級生たちを止めようと声をかけるのだが、悉く失敗している。
「ここから怪しい臭いがする!!」
「あっ、ちょ…!」
ゆらはがらっと仏間の戸を開けた。中には身の丈を大きく越えるような金の仏像が整然と並べられている。
「おぉ、すごい…金ぴかの仏像か…」
島たちははぁ~~、と感嘆の声をあげる。これだけの仏像、額にして相当なものだろう。それをこのように部屋を一つ潰せるほどに置いてあるのだから、やはり奴良家は普通と違う。
リクオは気を張りすぎて目が回りそうだ。リオウが術をかけてくれたお陰で今のところ誰一人として見つかってはいない。だが、術をかけられ損ねた者たちもちらほらとおり、何時見つかってしまうのかとヒヤヒヤしている。
(ゲッ…塗仏!目ん玉ちゃんと押さえててね!!)
「うん?」
ゆらはとある仏像の前で立ち止まった。中には小妖怪たちが身を隠すために必死になってつまっている。だが肝心の妖気が隠しきれていない。リクオはだらだらと冷や汗を流す。
「す、すごいでしょ、それ。悪趣味だよねーじいちゃんがさ~~」
触るとじいちゃんに怒られるからさ、とぐいぐいゆらの背を押す。納得いかないようすのゆらは、とりあえずと一枚の護符を仏像に張り付けて部屋を出る。
「あーあ、皆大丈夫かい?」
「まったく、リオウ様が危惧なされた通りだな」
誰もいなくなった仏間にそっと入り込んだ黒羽丸と首無は、べりっと護符を剥がした。因みに黒羽丸と首無は、リオウに指示された通り、一度墨をつけた筆で護符の文字を汚してから剥がしている。
護符の文字は結界などの陣と同じく型が決まっている。これを少しでも乱されたとき、術は効力を失うのだ。よって直接触れても害がないのである。
「それにしても、流石はリオウ様」
「あぁ、こうした術の類いにも造詣が深くていらっしゃるとはな」
陰陽術から妖怪のことまで、かの方に知らぬことなどあるのだろうか。昔、あの方は幼少より本当に学ぶことが好きなお子であったと聞いたことがある。
とうに学ぶものなど無いだろうに、未だ実に楽しそうに書物を読み、年嵩の妖怪たちと何やら語り合うところを見ると、勉学に愛される天性の才なのだろう。
(そろそろリオウ様の元へ戻らねば…)
今風呂にはリオウ様がいる。ただでさえ無防備で、下心のあるなしに関わらず来るもの拒まずな所があるのだから、こちらが守っていかないと。